リーバーマン
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ピアノ協奏曲 第1番 第2番 子供のためのアルバム (抜粋) p: ハフ リーバーマン指揮 BBCスコティッシュ交響楽団 レビュー日:2025.2.1 |
★★★★★ 現代を代表する作品、リーバーマンの「ピアノ協奏曲 第2番」をハフの優れた解釈で聴く
スティーヴン・ハフ(Stephen Hough 1961-)による、アメリカの作曲家、ローウェル・リーバーマン(Lowell Liebermann 1961-)の作品を収録したアルバムで、収録曲は下記の通り。 1-3) ピアノ協奏曲 第1番 op.12 4-6) ピアノ協奏曲 第2番 op.36 子供のためのアルバム op.43 (抜粋) 7) 第6曲 オスティナート(Ostinato) 8) 第12曲 フォーレへのオマージュ(Hommage a Faure) 9) 第11曲 星月夜(Starry Night) 10) 第8曲 雨の日(Rainy Day) 11) 第14曲 アルカンへのオマージュ(Hommage a Alkan) 12) 第10曲 子守歌(Lullaby) 協奏曲は、作曲者であるリーバーマン自身の指揮によるBBCスコティッシュ交響楽団との協演。1997年の録音。 アルバムのメインは2つのピアノ協奏曲であり、第1番は1983年の作品で、イギリスの作曲家、カイホスルー・ソラブジ(Kaikhosru Sorabji 1892-1988)に、第2番は1992年の作品で、当盤でピアノを弾いている同い年のハフにささげられている。 これら2つの協奏曲を聴いた率直な印象としては、1世紀弱前に、「モダニズム」や「アヴァンギャルド」と称された作品群を強く想起させるものだ、ということである。より具体的に作曲家の名前を挙げるとするなら、プロコフィエフ(Sergey Prokofiev 1891-1953)と多くの類似を見出させる。機動的な推進、筋肉質な音色、そして透明な瞑想美。ただ、プロコフィエフにあったグロテスクな要素が、より楽観的なものと入れ替わっている感じを受ける。つまり、その時代の楽曲に慣れ親しんでいる人たちには、これらの楽曲はとても聴きやすく、受け入れやすいものだろう。実際、(こういう指摘の仕方が適切かわからないが)これらの楽曲がその時代に生まれていたら、すでにある程度、隠れたナンバーといて、一定以上の録音数や知名度を持っていたのではないだろうか。たぶん、カバレフスキー(Dmitri Kabalevsky 1904-1987)くらいのポジションだろうか。 ということは、過去の作品を踏襲した作風であるということになる。一言で言えば「保守的」だ。ただ、その音楽は、なかなかに魅力的である。2つの協奏曲では、第1番の方が、いかにもわかわかしい野心的な、まっすぐに描いたものという印象がある。対して第2番は、より充実しており、表現の対象も大きくなっている。第1番の若々しさ、第2番の充実というピアノ協奏曲のナンバーにともなう性格は、バルトーク(Bela Bartok 1881-1945)やラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)を思わせる。 第1番は3つの楽章からなり、第1楽章から、強い推進力をベースに対位法に基づくストレートな進行が目立つ。第2楽章は荒涼たる気配が覆う。第3楽章は再び第1楽章に似た性急な音楽となる。リーバーマンの展開の技法は、すでに一定の完成に達しており、リピートするリズムの中から、巧みにクライマックスを編み出し、鮮やかな帰結にいたる。その手腕もプロコフィエフを髣髴とさせる。 第2番は「傑作」と呼んで良いと思う。4つの楽章から成るが、聴き手に訴えかけるパワーが飛躍的に高まっている。ここでは前述のリーバーマンの特色に加え、ロマンティックなもの、抒情的なものがよりしっかりと備わっており、それらの相互作用によって、音楽はよりその姿を明瞭なものにしている。第1楽章のクライマックスの鮮やかさ、変奏の手法による展開の鮮やかさが見事。第2楽章は短く楽しいスケルツォ、第3楽章はパッサカリアの手法を用いた情感に富む音楽と言って良い。第4楽章は、これもプロコフィエフ的なスピードを保った音楽で、金管のピアノの俊敏なやりとりが実に楽しい。奔放なようでいて、古典的な枠組みがしっかりしており、音響も美しい。 ハフのピアノも素晴らしい。楽曲の魅力であるエキサイティングな部分の力強い疾走感は流石であるが、瞑想的な静謐な雰囲気も、特別に素晴らしい何かを感じさせてくれる。とにかく、楽しい音楽体験である。 また、末尾に収録されたピアノ独奏曲「子供のためのアルバム」からの抜粋は、この作曲家の情緒的な部分を良く伝えるもので、特に「星月夜」が印象に残った。 |