リューエンソーン
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ピアノ五重奏曲 弦楽四重奏曲 ピアノのためのポストリュード p: ロンクィッヒ アウリン四重奏団 p: ネルケン レビュー日:2006.10.20 |
★★★★★ 退廃的な美しさの支配する“イスラエル発ポスト・モダン
ギデオン・リューエンソーン( Gideon Lewensohn )は1954年生まれのイスラエルの作曲家である。いわゆるポスト・モダン派の作風と評されるが、その気風は様々な現代音楽を折衷するようなところがあり、暗示的でもある。ECMがこの作曲家に注目し、その作品をリリースしたのはさすがといえる慧眼と思う。収録曲は「ピアノ五重奏曲」「弦楽四重奏曲」「ピアノのためのポストリュード」の3曲であるが、「ピアノのためのポストリュード」は2つのバージョンが存在していて、ここに双方が収録されている。演奏はアレクサンダー・ロンクィッヒ(Alexander Lonquich)のピアノ、アウリン四重奏団(Auryn Quartett)であるが、ポストリュードの第2版だけはオラ・ロテム・ネルケン(Ora Rotem Nelken)のピアノで収録されている。 このアルバムには「オドラデク(ODRADEK)」というタイトルが付いている。オドラデクはカフカの小説に登場する謎めいたキャラクタの名称で、収録曲中弦楽四重奏曲が「オドラデク四重奏曲」なる名称を授かっている。この弦楽四重奏曲は15の短い楽章からなっており、クルータクの影響が濃厚である。ルトスワフスキ(Lutoslawski)やヨゼフ・タル(Josef Tal)のチェロ協奏曲のモチーフが扱われているらしい。第12楽章のラグタイム風の変奏は特徴豊か。7楽章はタンゴになる。14楽章では響きは深刻化される。 ピアノ五重奏曲は様々な含みを持った作品と感じられる。第1楽章は無拍子的な自由な作風、第2楽章はジャズ音楽へのオマージュと考えていいかもしれない。フィナーレは快活なスケルツォであるが、これはショスタコーヴィチの第5交響曲の終楽章からの引用をともなう。ショスタコーヴィチとクルータクの影響は大きいようだ。 ピアノのためのポストリュードは全体が一つの頂点を持った構成をとる。バルトークの「弦楽器とチェレスタのための音楽」の第1楽章のような感じだが、より退廃的で内省的だ。この曲の瞑想的な美しさは得がたく印象的と思う。 |