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ランゴー



室内楽

弦楽四重奏曲 第2番 第3番 第6番「おお、血と涙にまみれた御頭よ!」による変奏曲
ナイチンゲール弦楽四重奏団

レビュー日:2013.10.15
★★★★★ 後期ロマン派ながら、先進性を縦横に秘めるランゴーの弦楽四重奏曲
 後期ロマン派に属するデンマークの作曲家、ルーズ・ランゴー(Rued Langgaard 1893-1952)による弦楽四重奏曲集。2010~11年の録音。本盤の収録曲は以下の通り。
1) 弦楽四重奏曲 第2番
2) 弦楽四重奏曲 第3番
3) 弦楽四重奏曲 第6番「ひとつの楽章で」
4) 「おお、血と涙にまみれた御頭よ!」による変奏曲
 演奏は、ナイチンゲール弦楽四重奏団(Nightingale String Quartet)。この楽団はネバタ大学を卒業後、デンマーク音楽院に進んだ4人の女性奏者により2007年に結成された。すなわち、ヴァイオリンがグンヴァ・シーム(Gunvor Sihm)と ジョセフィン・ダルスゴー(Josefine Dalsgaard)、ヴィオラがマリー・ルイーセ・イェンセン(Marie Louise Jensen)、チェロが ルイーザ・シュワブ(Louisa Schwab)。
 ランゴーという作曲家は、ほとんど忘れられた存在であったが、現在では再評価の機運が高まっている。リゲティ(Ligeti Gyorgy 1923-2006)はそのスコアを見たとき、自分の考えていたことを30年も前に実践していたランゴーの力量を認め、深い感銘を受けたという。
 しかし、ランゴーの感覚というのは、当時はまだちょっと早すぎたのかもしれない。彼が用いた様々な技法、ミニマル性とか、トーン・クラスターなどについては、やはり登場時期の問題があったと考えられる。
 それで、この弦楽四重奏曲を聴くと、ここでは、後期ロマン派の薫りと、現代への先鋭性・前衛性が、見事な共存関係をもって音楽を形成していることに驚かされる。私がこれを聴いて連想するのは、展開の無調的性格においてバルトーク(Bartok Bela 1881-1945)、旋律の素朴な不思議さにおいてヤナーチェク(Leos Janacek 1854-1928)、 そして、響きの重なり方からスクリャービン(Alexander Scriabin 1872-1915)といった人たちであるが、そこにさらにランゴー特有の緻密な前衛性が盛り込まれている。
 第2番、第3番ともに第2楽章にその個性が顕著に出現する。メカニカルな進行を強烈に支えるリズム感は、当時他の作曲家の作品には見いだされなかったものであったに違いない。ロシア・アヴァンギャルドの象徴であるアレクサンドル・モソロフ(Alexander Vasilyevich Mosolov 1900-1973)の「交響的エピソード 鉄工場」を彷彿とするところがある。
 ナイチンゲール弦楽四重奏団の演奏も見事。特筆したいのは、きわめて自然に融合する響きの柔らかさ。音楽の攻撃的な部分であっても、決して耳に刺々しい響きにはならず、楽器本来の美質を存分に味わえる恰幅を持っているところ。特に、ランゴーの作品のような楽曲に合っては、その特性が聴き手の作品への接近を容易にしてくれますし、ファースト・チョイスとしても、間違いない内容。凛々しさを湛えたスピード感も圧巻、鋭利な感覚を思わせるフレーズの引継ぎも鮮やか。素晴らしい技巧とアンサンブル。ランゴーの作品以外でも、今後の幅広い活躍を期待したい。


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