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ラロ



協奏曲

ラロ スペイン交響曲  サンサーンス ヴァイオリン協奏曲 第3番  ラヴェル ツィガーヌ
vn: ヴェンゲーロフ パッパーノ指揮 フィルハーモニア管弦楽団

レビュー日:2013.7.19
★★★★★ ヴェンゲーロフのヴァイオリンから漂う濃厚な気配を堪能できる一枚
 ロシアのヴァイオリニスト、ヴェンゲーロフ(Maxim Vengerov 1974-)とイタリアの指揮者パッパーノ(Antonio Pappano 1959-)、フィルハーモニア管弦楽団による独奏ヴァイオリンとオーケストラのための名曲3曲を集めたアルバム。2003年の録音。収録曲は以下の通り。
1) ラロ(Edouard Lalo 1823-1892) スペイン交響曲
2) サンサーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921) ヴァイオリン協奏曲第3番
3) ラヴェル(Maurice Ravel 1875-1937) ツィガーヌ
 これらの楽曲は、いずれも人気曲と言いうるもので、親しみやすい旋律と情熱的なヴァイオリンをわかりやすく堪能できる作品である。そして、ヴェンゲーロフは、それらの楽曲に、きわめて彼らしいアプローチを施し、そして成功させたと考える。彼のヴァイオリンの特徴は、時としてやや荒さを伴った激しい情動の反映であり、甘美な響きを濃厚に響かせる肉厚なスタイルである。それらの特徴を、これらの楽曲では存分に繰り広げることが出来、そして、それを全面的に押し出したのが当アルバムではないだろうか。
 特に見事なのが冒頭に収録されているラロの「スペイン交響曲」だと思う。時に荒々しく、時に肉厚に繰り広げられるカンタービレは、この作品が内包する民俗色を一層濃縮し、聴くものの胸に差し迫るような迫力を伴っている。パッパーノの指揮がまた冴えている。オペラを得意とする彼の指揮は、ドラマティックで雄弁。アゴーギグをふんだんに用いて、エネルギッシュな演出を盛り上げる。合いの手のように鋭く響く下降3連音のキレは尋常ではない鮮烈さだ。演出過剰という向きもあるかもしれないが、この楽曲はこれくらいやってくれた方がスッキリすると思う。また、第4楽章のアンダンテに代表される荘厳さを感じる全面的な圧力感も本演奏の特徴と言える。
 サンサーンスのヴァイオリン協奏曲は、それに比べるとやや普通に響くが、それでも、ちょっと毒気を含んだようなヴェンゲーロフの低音の節回しは魅力的。
 ラヴェルのツィガーヌもいかにも香気の強い演奏で、先行する独奏ヴァイオリンに導かれて、オーケストラが参入してくるところの官能的な色彩をまき散らすような部分など忘れがたい。
 収録曲と演奏者の相性の良さを存分に堪能できる一枚となっている。

ラロ スペイン交響曲  ヴュータン ヴァイオリン協奏曲 第5番  サンサーンス 序奏とロンド・カプリチオーソ
vn: ミンツ メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2022.7.14
★★★★★ 3つの収録曲を、心ゆくまで堪能させてくれる名演
 ロシア出身のイスラエルのヴァイオリニスト、シュロモ・ミンツ(Shlomo Mintz 1957-)と、インドの指揮者ズービン・メータ(Zubin Mehta 1936-)指揮、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による、1988年にテル・アヴィヴで行われたコンサートの模様をライヴ収録したアルバム。以下のフランスで書かれた3つの独奏ヴァイオリンとオーケストラのための作品が収録されている。
1) ラロ(Edouard Lalo 1823-1892) スペイン交響曲 op.21
2) ヴュータン(Henri Vieuxtemps 1820-1881) ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ短調 op.37
3) サン=サーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921) 序奏とロンド・カプリチオーソ op.28
 拍手はカットされている。
 とても魅力的なアルバム。収録された3作品は、3者3様の魅力を持っているのだが、このならび順で収録(実演も同じ並びだったのだろうか?)するというのは、だれの発案なのか、ナイスアイデアで、聴いてみると、それぞれが互いの楽曲の魅力を引き立てており、とても心地が良い。
 ラロのスペイン交響曲は、冒頭、付点のリズムが印象的な、管弦楽の全合奏から開始されるが、メータは、ここで思い切って、かなり重々しい感じで楽曲を開始する。音色も、最初聴いた時は少し粗目な印象を持ち、この楽曲の解釈としては、少し異質なものを感じたのだが、聴き進むうちに、それゆえの魅力が伝わってくる感がわかり、どんどん、演奏家たちの世界に引き込まれていった。
 ミンツというヴァイオリニストは、なめらかで、軽やかなスタイルが持ち味だと思うが、このラロでは、時に唸るような低音を繰り出すなど、なかなかズシンとくる響きでアクセントを出しており、それがまたメータの解釈とよく呼応する。オーケストラの重々しさは、例えば第3楽章などでも、かなり全体の印象に影響を及ぼしていて、加えてラテン的で華やかな部分でも、かなり生真面目な印象を持つが、聴いていると、結果として、ラロのこの作品は、そういうアプローチでも、またいつもとは別の魅力が溢れてくることに気づかされる。このメータの指揮は、なかなかの聴きモノだ。
 ヴュータンのヴァイオリン協奏曲第5番は、この作曲家が遺した作品では、第4番とともに有名なものであるが、この演奏は、その叙情的な美しさを存分に堪能できるもの。特に第1楽章で、開始から4,5分たったところで現れるメロディが漂わせる独特の雅な雰囲気は、聴き手を魅了するに違いない。ミンツの繰り出す高音の弱音の美麗さは特筆されるべきもので、音楽が高い価値にたどり着くにあたって、いかに静謐が重要な役割を担っているかを、あらためて教えてくれる。当演奏は、華やかさよりも、牧歌的な風情を表現することに焦点をおいた感があるが、その結果は見事な成功を収めており、私は存分に楽しんだ。
 末尾に収録されているのは、数多のヴァイオリニストによって演奏されているサンサーンスの人気作品であるが、こちらも独奏者の技巧の冴えと、オーケストラのリズムのはっきりした響きにより、忘れがたいものとなっており、全アルバムを通じて、聴き手の気持ちを豊かにしてくれる一枚となっている。

ラロ チェロ協奏曲  サンサーンス チェロ協奏曲 第2番  フォーレ エレジー
vc: ハレル シャイー指揮 ベルリン放送交響楽団

レビュー日:2016.3.25
★★★★★ サンサーンスの第2協奏曲にとくに注目したい録音です
 リン・ハレル(Lynn Harrell 1944-)のチェロ、シャイー(Riccardo Chailly 1953-)指揮ベルリン放送交響楽団の演奏によるフランスの3人の作曲家によるチェロと管弦楽のための作品を収録したアルバム。その詳細は以下の通り。
1) ラロ(Edouard Lalo 1823-1892) チェロ協奏曲 ニ短調
2) サンサーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921) チェロ協奏曲 第2番 ニ短調
3) フォーレ(Gabriel Faure 1845-1924) チェロと管弦楽のためのエレジー ハ短調
 1984年の録音。
 ラロの名高いチェロ協奏曲はサンサーンスのチェロ協奏曲第1番に触発されて書かれた。しかし、当アルバムにはサンサーンスのチェロ協奏曲のうち、ほとんど知られていない、と言って良い第2番が収録されている。しかし、この作品が、演奏したり聴いたりするのに、十分に相応しいものであることを力強く示していることが、当盤の最大の価値となっている。
 チェロ協奏曲第2番は20世紀に入った1902年に完成した作品。第1番以来30年ぶりの作品であった。しかし、完成直後からサンサーンスはその演奏の至難なことから、あまり演奏機会はないだろう、と考えていたとされる。そして、不幸にしてその予言は的中してしまったわけだ。しかし、当盤の優れた演奏で聴くと、古典的で平明な主題を持ちながら、チェロという楽器の特質を良く生かした技巧的効果と、管弦楽との活発なやりとりをも交えた、立派な作品であることが良くわかる。
 全曲は2つの楽章に別れているが、第1楽章の後半は緩徐楽章の役割を担っていて、実質的には3楽章構成と言って良い。独奏チェロに与えられる重音の連続や細やかなパッセージは、演奏の難しさをいかにもよく物語るが、ハレルのチェロがしなやかで、柔らか味を持った細身の音色で、鮮やかにその構造に即している。シャイーの支えも万全と言って良く、終楽章のチェロ、オケの快活な賑やかさは、たいへんな楽しさである。
 ラロのチェロ協奏曲は名演・名録音が多くあるが、ここではシャイーのコントラストの効いた指揮ぶりに注目したい。この作品で、これほど燦然と、かつ情感豊かにオーケストラが鳴った録音は、少なくとも私の知る限りではないし、実に見事な聴き映えだ。ハレルのチェロは装飾音も細やかにまじめに鳴らしていて、非常にオーソドックスな手堅さを感じさせるもの。
 最後に、こちらも有名曲と言って良いフォーレのエレジーが収録されている。チェロに焦点を当てた演奏が多い中、当盤では協奏曲的と言って良いバランス優先の演奏が繰り広げられていて、本格的な大作の気風を感じさせてくれる。
 なお、録音も実に優秀です。


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