クラーサ
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歌劇「夢の中の婚約」 交響曲 ツァグロセーク指揮 アシュケナージ指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団 エルンスト・ゼンフ合唱団 S: バリーズ MS: ヘレカント レビュー日:2008.8.19 |
★★★★★ クラーサの忘れられていた名作にスポットを当てた企画
ハンス・クラーサ(Hans Krasa 1899 - 1944)はチェコの作曲家。母親がドイツ系ユダヤ人。ツェムリンスキー、ルーセルらに師事し、マーラー、シェーンベルグの影響も受けている。その後プラハで活躍するが、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによってアイシュビッツに拘留。その芸風も批判され、彼の仲間であったウルマン(Viktor Ullmann)、ハース(Pavel Haas)らとともに殺害された。当ディスクはデッカの「退廃音楽」シリーズの一つ。歴史に弄ばれた作曲家と作品に光を当てる好企画だ。 収録されているのは代表作といえる1928年から1930年にかけての作品、歌劇「夢の中の婚約(Verlobung im Traum ~英語タイトルは”Betrothal in a Dream”)」と1923年の作品である「交響曲」。前者はツァグロセーク指揮ベルリン・ドイツ交響楽団、エルンスト・ゼンフ合唱団、MS: ヘレカントらの演奏。後者はアシュケナージ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団、S: バリーズによる演奏。録音は1995年から96年にかけて行われている。ちなみに「夢の中の婚約」の初演を指揮したのはジョージ・セル。 この歌劇は大胆なリズム法と広い声域を用いたもので、ヤナーチェク、ワイル、シェーンベルクらの作品との類似がしばしば指摘される。それと別に個性的な側面としては多彩なメロディによる激しい情感の移り変わりや、グロテスクな表現方法がある。原作はドストエフスキーの短編「伯父様の夢」で、外交官、酒びたりの王子、病弱なアナーキストの3人が1人の女性をめぐって様々な交渉を繰り広げる物語。ベッリーニのノルマばりの瞬時の雰囲気の移行やマーラーの引用なども面白い。また、いろんな音楽が流入しているのも魅力だ。当時のジャズのリズムも一部で活用しているらしい(あまりはっきりとは分からないが・・・)し、保守的な色合いを濃くする場面もある。いったいクラーサの素の音楽とは?と思ってしまう一面もあるが、面白いことは面白い。デッカの退廃音楽シリーズではすっかりお馴染みのツァグロセークも良心的に曲の魅力をそのまま伝えており、模範的だと思う。 交響曲は女声の独唱を含む小規模なもの。自身の弦楽四重奏曲第1番からの転用などを聴くことができる。細やかな技法はベルクを思わせる。こちらはアシュケナージの指揮。クラーサと同じユダヤ人としての共感もあると思う。こちらもまじめで良心的な演奏。 |