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コルンゴルト



管弦楽曲

2つの世界の狭間に「神の裁きの日に」 弦楽のための交響的セレナード 主題と変奏
マウチェリー指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団

レビュー日:2006.2.25
★★★★★ コルンゴルトによる象徴的な映画音楽です
 デッカの退廃音楽(Entartete Musik)シリーズの1枚。エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold 1897-1957)はマックス・スタイナー、アルフレッド・ニューマンとともに黄金期ハリウッド映画音楽の3大巨匠に数えられる人物。映画音楽での成功が逆にクラシック作曲家としての彼の不当な低評価に繋がったとされる。
 このアルバムにはコルンゴルトが亡命してハリウッドで書いた映画音楽「2つの世界の狭間に」のほか全3曲を収録している。コルンゴルドの名声はすでに高かったが、アメリカに渡り大ききな成功を収めることになるのだが、この間第2次世界大戦による祖国オーストリアの消滅によりその創作環境が激変している。そうでなければ、映画音楽にこれほど時間を割かなかったであろう、というのが一致した見解だろうか。
 映画「2つの世界の狭間に」はエドワード・A・ブラッド監督による1944年製作の映画である。私は観たことはないが、いわゆるハリウッド映画の中にあって特異なジャンルであったようだ。2つの世界とは<戦争>と<天国/地獄>の2つであり、戦争とその裁きが描かれているらしい。
 ここに収められた音楽は40箇所のキューのうち18箇所を編ざんしたもので、映画音楽らしくオーケストラだったりピアノだったりといった短い音楽が様々な書法により繋がれている。第4曲「ピアノの前のピアニスト」など、蓄音機から聞えて来そうななんとも雰囲気のあるメロディだ。全般に音色はリヒャルト・シュトラウスに近いと感じる。
 また、旋律自体が美しいのでたいへん楽しめる内容となっており、ハリウッド作曲家コルンゴルトの本領を知れる。弦楽のための交響的セレナードは様々な諸相をもった4つの楽章からなるが、バーバーばりの第3楽章の耽美的な美しさは絶品といえる。

映画音楽「海の狼」完全版 「海の狼」予告編 ロビン・フットの冒険
ガンバ指揮 BBCフィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2006.7.17
★★★★★ コルンゴルトの映画音楽の世界を堪能できます。
 エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold 1897-1957)はマックス・スタイナー、アルフレッド・ニューマンとともに黄金期ハリウッド映画音楽の3大巨匠に数えられる人物。映画音楽での成功が逆にクラシック作曲家としての彼の不当な低評価に繋がったかもしれない。当然、現代では彼の名誉は回復し、あまたのサントラ再録音もリリースされている。そして、ここにラモン・ガンバ指揮のBBCフィルによる演奏で、1941年の映画「海の狼 (The Sea Wolf)」のための音楽が登場した。
 ガンバによるシャンドスレーベルへの一連の映画のための音楽シリーズの一つといえる。演奏の質は高い。
 当録音はカットなどを含まない、いわば「完全版」で、さらに予告編のための音楽、そして最後に「ロビン・フットの冒険」のための音楽も収録されており、収録時間は76分を超えるサービス盤ともなっている。
 巧みなオーケストレーションがよくわかる。全曲が一応は連続して演奏されているが、サントラ特有の音楽的切れ目はもちろんある。だが、いくつかの象徴的音型や、弦楽器の持続音により、その弱点を逆に緊迫感を高める様に演出している。トラック8はハートともいえるラヴ・テーマに該当するが、それでも多彩なシーンが入り乱れており、映画という制約があってこその面白さだ。またティンパニ、金管や木琴のからみで、サスペンスタッチの盛り上がりも見事。
 もう一つ。この作品、コルンゴルトの諸作品の中でも、グスタフ・マーラーの影響がもっとも顕著に見られるものだ。聴いていると、あちこちで、聴き慣れたマーラーの交響曲のほんの断片がちらちら顔を出す。そういったシーンを見つけるのも、このアルバムの一つの楽しみ方にちがいない。


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協奏曲

コルンゴルト ヴァイオリン協奏曲  ヴァイル ヴァイオリン協奏曲  クシェネク ヴァイオリン協奏曲
vn: ジュイエ マウチェリー指揮 ベルリン放送交響楽団

レビュー日:2016.5.9
★★★★★ 退廃音楽と呼ばれたロマンティックな20世紀のヴァイオリン協奏曲たち
 戦前から戦中のドイツにおいては、様々な芸術が「精神的な退廃性」という理由で激しく攻撃され、芸術家の作品のみならず人格に対しても執拗な中傷が繰り返された。退廃のレッテルを貼られたのは、ユダヤ人の芸術家はもとより、社会主義思想を持つ芸術家やアフリカや黒人の芸術、またはそれらから影響を受けた芸術、ひいてはその題材の性質まで、広範である。
 当盤は、そのような退廃音楽のレッテルを貼られた芸術家の作品を集中的に収録したデッカのシリーズの中の1枚で、戦中ドイツを逃れ、アメリカで活動した3人の作曲家による独奏ヴァイオリンと管弦楽のための作品3つを収録したもの。その内容は以下の通り。
1) コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold 1897-1957) ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
2) ヴァイル(Kurt Weill 1900-1950) ヴァイオリンと管楽オーケストラのための協奏曲
3) クシェネク(Ernst Kreneck 1900-1991) ヴァイオリン協奏曲 第1番 op.29
 ヴァイオリン独奏はシャンタル・ジュイエ(Chantal Juillet 1960-)、ジョン・マウチェリー(John Mauceri 1945-)指揮ベルリン放送交響楽団による演奏で1995年の録音。
 これら3曲の中ではコルンゴルトのものが特に近年評価の進んだ作品となる。コルンゴルトは映画音楽の世界で活躍したが、このヴァイオリン協奏曲には「もう一つの夜明け」「ジュアレ」「風雲児アドヴァーズ」「王子と乞食」というコルンゴルトが担当した4つの映画音楽のモチーフが用いられており、その華やかで甘美な雰囲気は、美しく親しみやすい。オーケストラがあくまでヴァイオリンの引き立て役といった雰囲気であることは、ある意味とても古典的で、時代にそぐわない面を感じるが、それゆえのストレートなわかりやすさが横溢していて、深く考える必要のない直観的な魅力がある。
 「三文オペラ」で知られるヴァイルの作品は、即興的な作風で、ヴァイオリンと管楽器の音色の対象性を生かした演出があちこちで行われる。第2楽章はノットゥルノ、カデンツァ、セレナータの3つの部分からなるが、そのタイトルのイメージ通りの音楽というわけではなく、作曲家の意趣を様々に汲む音楽と言える。
 クシェネクは、生前、作曲家としてはほとんど評価されなかったが、このヴァイオリン協奏曲は美しい作品で、ロマン派から脈々と通じる甘美さをたたえながら、この時代特有の不安さを醸し出している。20世紀の音楽として、聴き漏らすのは惜しい作品だと言える。
 ジュイエのヴァイオリンは楽曲の甘美な性質を引き出しながら、楽曲に潜む刺激的成分も巧みに表現しており、聴きやすくわかりやすい平明な演奏と言えるだろう。オーケストラも十分に機能美を感じさせるが、特にクシェネク作品への豊かな色彩感は特筆されるものだろう。


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室内楽

弦楽四重奏曲 第1番 第2番 第3番 弦楽六重奏曲
フレッシュ弦楽四重奏団

レビュー日:2008.2.8
★★★★☆ 貴重なコルンゴルトの弦楽四重奏曲録音です
 コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold 1897-1957)はオーストリア生まれの作曲家。フックス、ツェムリンスキーらに学び、ナチス弾圧を逃れて1934年アメリカに渡り、以後映画音楽の世界で活躍した。クラシック作曲家としての彼の名は、近年少しずつ高まっていると思うが、ここに貴重な弦楽四重奏曲3曲と弦楽六重奏曲を収録した2枚組アルバムが廉価で登場した。演奏しているのはイギリス王立音楽院のメンバーにより結成されたフレッシュ弦楽四重奏団。録音は1997年から98年にかけて行われている。
 これら4曲はほぼ10年周期で作曲されており、弦楽六重奏曲が1915年、弦楽四重奏曲の第1番が1924年、第2番が1934年、第3番が1945年の作品ということになる。弦楽六重奏曲はやや古典的な色彩の曲で、自分の個性を模索するようなところがある。しかし旋律の面白みなどは十分楽しめる。弦楽四重奏曲第1番になるとワーグナー的な和声も加わってきて、幅が出てくるし、純粋な器楽作品の高みを目指した作曲家の葛藤も伺える。しかし全曲通して、この作曲家らしい陽性の音に満ち、悲しみや不安といった要素は少ないと思う。第2番は自由な謳歌だ。中で異質な耽美性を示す第3楽章は印象に残った。また終楽章の華やかさはワルツやクライスラーの要素も含んでいると思う。第3番は傑作と呼ばれるもので、コルンゴルトの作曲家としての「開き直り」が堪能できる。つまり、映画音楽のテーマの転用が鮮やかだ。第3楽章は「シーホーク」の、第4楽章は「まごころ」の音楽が用いられており、弦楽四重奏曲ならではのまじめさと天性のメロディストの手腕が合わせて楽しめる。


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