コダーイ
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管弦楽曲全集(組曲「ハーリ・ヤーノシュ」 ガランタ組曲 ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲 マロシュセーク舞曲 管弦楽のための協奏曲 交響曲「アルトゥーロ・トスカニーニの思い出に」 夏の夕べ 劇場序曲 厳格なメヌエット ハンガリー風ロンド 他) ドラティ指揮 フィルハーモニア・フンガリカ ツィンバロン: リーチ レビュー日:2007.10.6 |
★★★★★ コダーイの管弦楽曲の真髄を伝える全集でしょう
デッカからアンタル・ドラティの一連の貴重な録音がまとめて再販された。中でも、このドラティゆかりのハンガリーの作曲家ゾルタン・コダーイの管弦楽曲全集などは白眉ともいえる内容だ。 コダーイの音楽活動はなんといってもマジャール民謡とヨーロッパの伝統的音楽理論の融合にある。そしてその過程でうまれた数々の魅力的な楽曲がある。それはもちろんハンガリーの伝統的な音楽を知らなくても理解でき、楽しめるくらい完成度の高いものであるが、それでもハンガリー出身の指揮者と地元のオーケストラによる演奏は、聴いてみてなるほどと思うような節回しが楽しめ興味深い。「ガランタ舞曲」はジプシーの旋律をたくみに操っているし、「マロシュセーク舞曲」には農民の歌がある。また、初期の「夏の夕べ」などは印象派的な音彩を持っていることも面白い。こういった面白みはこのような全集でより端緒となる。「管弦楽のための協奏曲」や「ハンガリー民謡<孔雀>の主題による変奏曲」は西欧伝統音楽との高次な融合があると言われるが、ドラティの演奏は確信をもってその価値観にアプローチしていると言えるだろう。そして高名な舞台作品からの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」も息高揚たる演奏となっている。 ドラティの演奏は上記のような楽曲の特徴を深く理解したものだが、それ以上に高度な音楽教育を受けた「洗練」も感じる。それゆえに解釈に普遍性が感じられ、多くのクラシックフアンに受け入れられるものとなっていると思う。 |
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組曲「ハーリ・ヤーノシュ」 マロシュセーク舞曲 ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲 ガランタ組曲 デュトワ指揮 モントリオール交響楽団 ツィンバロン: キャプテン レビュー日:2013.12.26 |
★★★★★ コダーイの管弦楽曲のベースにある「西欧的洗練」に焦点を当てた演奏
シャルル・デュトワ(Charles Dutoit 1936-)指揮、モントリオール交響楽団による、ハンガリーの作曲家、コダーイ・ゾルターン(Kodaly Zoltan 1882-1967)の管弦楽作品集。1994年の録音。収録内容の詳細は以下の通り。 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」(1-6) 1) 第1曲「前奏曲、おとぎ話始まる」 2) 第2曲「ウィーンの音楽時計」 3) 第3曲「歌」 4) 第4曲「戦争とナポレオンの敗北」 5) 第5曲「間奏曲」 6) 第6曲「皇帝と廷臣たちの入場」 7)マロシュセーク舞曲 ハンガリー民謡「孔雀」による変奏曲(8-13) 8) 主題(モデラート) 9) 第1変奏~第6変奏 10) 第7変奏~第10変奏 11) 第11変奏,第12変奏 12) 第13変奏~第16変奏 13) フィナーレ(ヴィヴァーチェ) ガランタ舞曲(14-18) 14) レント 15) アンダンテ・マエストーソ 16) アレグロ・コン・モート、グラツィオーソ 17) アレグロ 18) アレグロ・ヴィヴァーチェ 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」で使用されるツィンバロン(Cimbarom)はジェームス・アール・バーンズ(James Earl Barnes 1950-)、ガランタ組曲でのクラリネットのカデンツァはエミリオ・イアクート(Emilio Iacurto 1936-)。 コダーイという作曲家は、様々な面で興味深い人物で、言語学、哲学にも精通し、教育学者としても偉大な功績を遺したが、その音楽的業績は、「作曲」、「マジャール(ハンガリー)民謡の研究」、「国民的な音楽教育システムのレベルアップ」の3つに大別できる。さらに「作曲」活動に関しては、(1) 簡潔で透明な対位法的書法、(2) マジャール民謡の特徴的なパターン(下行4度または全音上行による終止法、反復音の多い旋法)の使用、(3) 形式が明晰で、ラプソディふうである、といった特徴が挙げられるだろう。 これらの特徴のうち、 (1)は、彼の声楽曲に顕著に認められるものだが、コダーイが応用したパレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina 1525-1594)対位法が、コダーイの作曲家としての資質によく合ったことに由来すると考えられる。また、その響きの透明さは、ドビュッシー(Claude Achille Debussy 1862-1918)などの印象派の手法を引用したことによりもたらされる効果である。 当盤に収録された管弦楽曲では、上記の(2)、(3)の要素がより強く表出し、そのことがすぐれた音楽性と独特な個性を引き出す要因となっている。一方で、これらの楽曲は、決して革新的な要素を持つものではなく、概して、当時の音楽作品としては穏健なものといってよい。 「マロシュセーク舞曲」は農民歌を、「ガランタ舞曲」はジプシーふうの芸術音楽の様式を基にしたもの。組曲「ハーリ・ヤーノシュ」はコダーイの色彩感に溢れたオーケストレーション能力を端的に示すもので、ツィンバロンが追加された独特の音色を響かせる第3曲と第5曲、弦楽器抜きの打楽器と管楽器だけで奏でられる第2曲と第4曲といったふうに、ダイナミックに楽器編成を変えて、その都度鮮烈な効果を上げる。「ハンガリー民謡による変奏曲」は、ハンガリー的な素材と西欧の技法を融合したコダーイの技法のひとつの頂点をなすもの。 デュトワの演奏は、彼らしいインターナショナルな感覚で、これらの音楽の底辺にある西欧音楽の本流に即して、洗練されたスタイルを提示したもので、これらの楽曲へのアプローチとして、一つの明確な手法を提示したもの。特に「ハンガリー民謡孔雀による変奏曲」が素晴らしく、第11変奏の管楽器の明朗な響き、これに対する第12変奏の弦楽器陣の壮麗な雰囲気、さらに第13変奏、第14変奏と続く透明な音響で描いたミステリアスな雰囲気が秀逸。終曲の活発なリズム感も、爽快に仕上がっている。 「ハーリ・ヤーノシュ」などは、もっとツィンバロンを強く響かせるなど、アクの強い演奏を好む人もいると思うが、デュトワの、全体的なバランスを優先したスタイルは、むしろ楽曲の完成度の高さをはっきり認識させてくれるものと言えるだろう。 二つの舞曲も、いきいきとしたリズムが息づいており、オーケストラの統率性の高さを実感できる演奏になっている。 |
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チェロ作品全集(無伴奏チェロ・ソナタ 抒情的なロマンス エピグラム ソナタ楽章 チェロソナタ ソナティネ チェロとヴァイオリンのための二重奏曲 ハンガリー民謡に基づくロンド カプリッチオ アダージョ 他) vc: ペレーニ p: ヴァーリョン vn: タカーチ レビュー日:2004.11.23 再レビュー日:2017.1.31 |
★★★★★ シュタルケルを上回る名演
フンガロトンからリリースされたコダーイのチェロ作品全集。コダーイのチェロ作品といえば、大傑作の無伴奏チェロソナタが有名だが「他にもこんなに作品があったのか」と思うほどの3枚組。バッハの(作と考えられていた)コラールなどの編曲も含まれる。 ペレーニは1948年ハンガリー生まれで、コダーイとは同郷。コダーイその人から指導を受ける若きペレーニの写真がジャケットに使用されている。 ピアノを含む作品(ピアノはデーネシュ・ヴァーリョン)やチェロとヴァイオリンのための二重奏曲(ヴァオリンはガーボル・タカーチ・ナジ~かつてのタカーチ四重奏団のメンバー)なども収録されている。なんとも親しみやすい曲想で、ペレーニの落ち着いた奥の深い歌いまわしが魅力。コダーイの独創的なイデーを十分に表出している。 晩年の作品である「エピグラム」という曲がなかなかの佳作。しとしとと静かに雨降る夜に聴くととてもいい感じ。資料的価値も高いアルバム。 |
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★★★★★ 同郷の名手たちによるコダーイのチェロのための全作品
ハンガリーの名チェリスト、ペレーニ・ミクローシュ(Perenyi Miklos 1948-)が2001年に録音した同郷の作曲家コダーイ・ゾルターン(Kodaly Zoltan 1882-1967)のチェロ作品全集。この録音が登場してからおよそ15年が経過したが、いまだ他に並ぶべくもない貴重な録音となっている。まず、CD3枚に収められた収録曲を示そう。 【CD1】 1) 叙情的なロマンス バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)/コダーイ編 3つのコラール前奏曲 2)「ああ、我らの人生は何ぞ」 BWV743 3)「天にまします我らの父よ」 BWV762 4)「キリストはわれらに幸を与え」 BWV747 5) アダージョ 6) ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 op.7 【CD2】 7) ソナタ楽章 8) カプリッチオ 9) チェロとピアノのためのソナティナ 10) チェロとピアノのためのソナタ op.4 11) ハンガリー民謡 ロンド 【CD3】 12) エピグラム 13) バッハ/コダーイ編 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第8番 14) 無伴奏チェロ・ソナタ op.8 なお、2-4)については、原曲がバッハ作と伝えられており、そのように記載したが、現在では他者の作品である可能性が高いと考えられている。 ピアノはヴァーリョン・デーネシュ(Varjon Denes 1968-)、6)のヴァイオリンはタカーチ四重奏団の創始者であるタカーチ=ナジ・ガーボル (Takacs-Nagy Gabor 1956-)、といずれもハンガリーの名手が務める。 さて、コダーイのチェロ作品というと、圧倒的な名作として知られるのが「無伴奏チェロ・ソナタ」で、これはやはりハンガリーの名手シュタルケル・ヤーノシュ・(Starker Janos 1924-2013)の録音がことに有名で、日本にも広く紹介されていた。一方で、それ以外の作品となると、ほとんど聴かれることはないだろう。 しかし、ペレーニによって手がけられたこれらの録音は、知られないものの中に美しいものが多く残っていることを示す。作品番号が与えられている作品はわずかに3つであり、これらは名作と呼んでしかるべきものだが、他の作品にも作曲者の抒情性や、音楽学者であったコダーイの教養を背景とした洗練や技巧を感じさせるものがあり、魅力はつきない。 中でも「エピグラム」という作品は、元は声楽の訓練のために書かれたもので、9つの小曲からなるのだが、特有の淡さと、しばしば交錯する不協和な影が美しく、より多く聴かれるべき作品であると思われる。 コダーイは、バルトーク(Bartok Bela 1881-1945)とともに郷里の音楽の収集と体系化に努めたが、その成果は、ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲やチェロとピアノのためのソナタに反映されており、素材としての民謡を取り入れたクラシック作品として、見事な佇まいを見せる。いずれも共演者の豊かな自発性を感じる弾きぶりも好ましい。一方で「ハンガリー民謡 ロンド」では、加工を施す前段階とも言える民謡主題を聴くことが出来る。 ソナタ楽章はもともとチェロとピアノのためのソナタの冒頭楽章として考えられていたとされる。このほか、チェロとピアノのためのソナティナなどは、後年の研究者により発見、スコア化が行われたものであり、これらもペレーニは余すことなく収録している。 ペレーニのチェロの素晴らしさは言うまでもなく、特に「無伴奏チェロ・ソナタ」で示された圧倒的なヴィルトゥオジティ、恰幅のある響き、そして華麗な響きの扱いは実に見事。1挺のチェロでオーケストラさながらの音色を編み出してゆく。圧巻の技術、奥行きの深い表現の両面で、名演と呼ぶにふさわしい。 また、他に当盤の意外な聴きどころとして、バッハ作品に基づいた編曲のピアノ・パートの技巧的難易度の高さも注目したいところ。 なお、「他に並ぶべくもない貴重な録音」と書いたが、無伴奏チェロ・ソナタに関しては、石坂団十郎(1979-)による2011年録音のものも、実に見事な内容であるので、その点も最後に付けくわえさせていただく。 |
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コダーイ 無伴奏チェロ・ソナタ グリーグ チェロ・ソナタ ヤナーチェク おとぎ話 プレスト vc: 石坂団十郎 p: ウォスネル レビュー日:2014.12.15 |
★★★★★ コダーイの「無伴奏チェロ・ソナタ」に、現代の定番と言える名演が出現
日系ドイツ人のチェリスト、石坂団十郎(1979-)による、2011年から12年にかけて録音された意欲的なアルバム。収録曲は以下の通り。 1) ヤナーチェク(Leos Janacek 1854-1928) おとぎ話 2) コダーイ(Kodaly Zoltan 1882-1967) 無伴奏チェロ・ソナタ 3) ヤナーチェク プレスト 4) グリーグ(Edvard Grieg1843-1907) チェロ・ソナタ 1, 3, 4) におけるピアノは、シャイ・ウォスネル(Shai Wosner 1976-)。 実に力強い、雄渾なチェロだ。私は、このチェリストを、パヴェル・ハース弦楽四重奏団との共演盤を通じて知ったのだけれど、この現代最高と言える四重奏団に加わって、一層合奏の輝きを増すチェリストの存在に興味を持ち、当盤も聴いたのだけれど、とても素晴らしいものであった。 コダーイの無伴奏チェロ・ソナタは、バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)の無伴奏チェロ組曲と並び称される名品で、最近亡くなられた作曲者と同郷のチェリスト、シュタルケル(Janos Starker 1924-2013)を初め、古今多くの名演名盤がある。最近の録音では、やはりハンガリーのチェリストであるペレーニ(Miklos Perenyi 1948-)が2001年に録音した落ち着いた奥の深い歌いまわしが気に入っていた。 しかし、この石坂の演奏を聴いた瞬間、その壮大なスケールに衝撃を受けた。チェロ一本で、これほどまでに巨大な音響を奏でることが出来るのであろうか?シュタルケルの力強い名演は確かに印象に残っているけれど、今となってはいかにも録音が古くなってしまった。そういった意味で、いまこの無伴奏チェロ・ソナタを聴くにあったて、この石坂盤こそ、第一に指折るに相応しい演奏ではないだろうか? 朗々と響き渡るチェロの音色で、コダーイがこの楽曲に注ぎ込んだチェロという楽器の性能を駆使した表現技法が、ことごとく見事な方法で解決されてゆく。豊かで圧倒的な音量。ピチカートを用いた重音などでも一切の後退はなく、素晴らしい豊饒な流れの中で、一つの帰結点に集約されていく。ヴィブラートは限定的で、しかし、抒情性に満ちた細やかな緩急があり、野趣的なリズムにも即応する。これほどの弾き手によるコダーイは、なかなか聴けるものではない。 ピアノにウォスネルを迎えての他の曲も優れた演奏。作品で注目したいのはヤナーチェクの「チェロとピアノのためのおとぎ話」で、ジュコーフスキー(Vasily Zhukovsky 1783-1852)の詩に基づいて作曲された3つの楽章からなる作品。石坂はこの曲がもつ様々な情感や、奇妙な雰囲気を巧妙に表出。ピアノも的確だ。 ヤナーチェクが同時代に書いたプレストも収録してあるのが嬉しい。ヤナーチェクが書いたチェロとピアノのための作品はこの2つのみなので、まとめて聴くことができる。 グリーグのチェロ・ソナタも活力に溢れた魅力十分の演奏。チェロの響きを存分に堪能することができる。 |