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ハチャトゥリアン



交響曲

交響曲 第2番「鐘」 組曲「仮面舞踏会」 ピアノ協奏曲 ヴァイオリン協奏曲 劇付随音楽「仮面舞踏会」
ハチャトゥリアン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団  ブラック指揮 ロンドン交響楽団  p: ラローチャ フリューベック・デ・ブルゴス指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団  vn: リッチ フィーストゥラーリ指揮

レビュー日:2009.6.6
★★★★★ ハチャトゥリアンの魅力が横溢する良心的アルバム
 アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン(Aram Il'yich Khachaturian 1903-1978)はアルメニア人の作曲家で、ソ連で活躍した。バレー音楽「ガイーヌ」や「スパルタクス」が有名だが、この2枚組のアルバムにはこれらと別の魅力の横溢する作品が収められている。収録内容を記しておく。
1) ピアノ協奏曲 ラローチャ(p) フリューベック・デ・ブルゴス指揮 ロンドンフィル <72>
2) ヴァイオリン協奏曲 リッチ(vn) フィーストゥラーリ指揮 ロンドンフィル <56>
3) 組曲「仮面舞踏会」 ブラック指揮 ロンドン交響楽団 <77>
4) 交響曲第2番 ハチャトゥリアン指揮 ウィーンフィル <62>
 いずれもアルメニアをはじめカフカス、中央アジアなどの非ヨーロッパ民族の民俗音楽を素材としたリズム感にあふれた生命力に富む作品だ。「交響曲第2番」はたいへん充実した代表作で、作曲者自身がウィーンフィルを指揮して録音した当盤はまさしく貴重。(ただやや音の割れる部分があるのが残念)。白熱したリズムが炸裂する第1楽章、グレゴリオ聖歌のテーマの転用のある第3楽章が特に親しみやすい。「ピアノ協奏曲」はラローチャのラテン的感性が冴える。第2楽章に用いられるフレクサトーンという楽器の音色も印象的。ヴァイオリン協奏曲は56年の録音だが思いのほか音が良好。1918年生まれの名ヴァイオリニスト、ルッジェーロ・リッチ(Ruggiero Ricci)の演奏というのもポイントが高い。組曲「仮面舞踏会」はコダーイやバルトークにも通じる白熱した歌が魅力。・・・それにしてもハチャトゥリアンの作品、もっともっと多くの録音があってもいいと思うのだが。デュトワあたりがフレッシュな録音をしてくれたらどんなに魅力的だろう!


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協奏曲

ピアノ協奏曲 ピアノ・ソナタ トッカータ
p: ポルトゥヘイス チェクナヴォリアン指揮 ロンドン交響楽団

レビュー日:2014.1.20
★★★★★ 東洋と西洋を行きかう、魅惑的で躍動感にあふれるハチャトゥリアンの世界
 アルゼンチンのピアニスト、アルベルト・ポルトゥヘイス(Alberto Portugheis 1940-)によるアルメニアの作曲家、アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン(Aram Il'ich Khachaturian 1903-1978)の作品集。収録曲は以下の3曲。
1) ピアノ協奏曲
2) ピアノのためのソナチネ
3) ピアノのためのトッカータ
 ピアノ協奏曲は、イランの指揮者ロリス・チェクナヴォリアン(Loris Tjeknavorian 1937-)とロンドン交響楽団との共演。録音年については詳細な記載がないが、おそらく1986年頃のものと思われる。
 ハチャトゥリアンという作曲家は、近年まで、ほとんどバレエ音楽「ガイーヌ」が知られるのみであったが、最近では様々な作品が聴かれるようになってきた。このピアノ協奏曲も、NHK交響楽団の演奏会で取り上げられた。実際、プログラムのメインを張れるくらいの立派な曲だと思う。
 ハチャトリアンは、作曲家としては、かわった経歴の持ち主で、トビリシで製本業の家に生まれ、芸術音楽を知らずに育ったが、18歳のときにモスクワに出てから音楽と出合い、ミャスコフスキー(Nikolai Myaskovsky 1881-1950)に師事して、たちまち頭角を現した。1929年、26歳になってからモスクワ音楽院に入学し、当盤に収録してある「ピアノのためのトッカータ」を在学中の1932年に書いた。この小品には、すでに強いアルメニア民族的個性が現われている。1934年に音楽院を卒業し、当盤に収められた出世作「ピアノ協奏曲」で成功したのは1936年。作曲者33歳のときであり、その後ソビエトを代表する作曲家として認められることになる。かように、ハチャトゥリアンという人は、スタートが遅いにもかかわらず、努力により大成した作曲家の象徴的存在と言える。
 ハチャトゥリアンの音楽上の最大の功績は、アルメニアをはじめカフカス、中央アジアなどの非ヨーロッパ民族の民俗音楽を素材として、ヨーロッパ音楽の手法により、リズム感にあふれた生命力のある作品を書くことで、これらの地域の音楽的土壌の豊かさを世界に伝えた点にある。
 本盤に収録された楽曲では、やはり「ピアノ協奏曲」は特筆に値する名作だ。第1楽章のスネアドラム、第2楽章のフレクサトーン(金属製の体鳴楽器で、鋸を震わせたような揺れた音を出す)といった楽器の追加も実に決まっている。特にフレクサトーンの出す不思議な音色に主旋律を歌わせるなど、かなり思い切った演出だし、成功している。さらに全編にみなぎるリズム感、終楽章の劇的な高揚感も素晴らしい。ポルトゥヘイスはアルゼンチンの出身であるが、これらの中央アジアふうの音楽に、卓越した適性を示していて、洗練されながらも野趣に溢れた血気盛んな演奏を繰り広げている。チェクナヴォリアンの指揮もよい。多少の泥臭さは、包み隠すことなく、衒いなくオーケストラを鳴らす。多少不揃いなところがあっても、これが逆に迫力として作用するから凄い。ピアニスト、オーケストラが混然一体となった迫力だ。第2楽章の不思議な雰囲気の表出もたいへん秀逸。
 「ピアノのためのソナチネ」と「ピアノのためのトッカータ」は、いずれも直進性の強い音楽で、ここでもポルトゥヘイスの一気果敢と言える前進力が見事にマッチしている。全編に力強さに満ち、適度な色彩感も与えられている。
 当CDは全編で49分という短い収録時間であり、できればもっと他の曲も入れてほしかったが、しかし既に十分に濃厚な聴き味であり、たいへん満足のいく内容であった。

ピアノ協奏曲  スパルタクスとフリージアのアダージョ(ティボーデ編ピアノ独奏版) 剣の舞(O.レヴァント編ピアノ独奏版) 子守歌(O.レヴァント編ピアノ独奏版) 「少年時代の画集」より 仮面舞踏会(ティボーデ編ピアノ独奏版)
p: ポルトゥヘイス チェクナヴォリアン指揮 ロンドン交響楽団

レビュー日:2025.3.24
★★★★★ 是非ほしかった録音!実際に聴いて感動
 私はハチャトゥリアン(Aram Khachaturian 1903-1978)のピアノ協奏曲が好きで、ラローチャ(Alicia de Larrocha 1923-2009)やポルトゥヘイス(Alberto Portugheis 1940-)の録音で楽しんできた。ラテン的な風合いを引き出したラローチャ、野趣味の豊かなポルトゥヘイスの演奏に親しみながら、しかし、現在であれば、より現代的な感性の反映を思わせるような演奏でも、この曲を聴いてみたいものだ、とかねがね思っていたものだ。
 そこに登場したのが、なんとこのティボーデ(Jean-Yves Thibaudet 1961-)のアルバムである!素晴らしい。ティボーデであれば文句はない、と言うよりも、現在考え得る限りで、この曲に関する最高の弾き手といっても良いのではないだろうか。しかも、魅力的な編曲作を含むピアノ独奏曲でフィルアップされている。聴く前から最高であることを確信してしまうアルバムというのが時々あるけれど、これは私にとって、そんな一枚であった。まず、収録曲の詳細を書こう。
1) スパルタクスとフリージアのアダージョ(Adagio of Spartacus & Phrygia (from Spartacus))(ティボーデ編ピアノ編)
2) 剣の舞(Sabre Dance from Gayane)(O.レヴァント(Oscar Levant 1906-1972)編ピアノ版)
3-5) ピアノ協奏曲 変ニ長調  op.38
6) 子守歌(Gayane: Lullaby)(O.レヴァント(Oscar Levant)編ピアノ版)
「少年時代の画集(Pictures from Childhood)」より
 7) 第1曲 小さな歌(A Little Song)
 8) 第4曲 誕生日パーティ(Birthday Party)
 9) 第5曲 エチュード(Study)
 10) 第6曲 昔のお話(Legend)
 11) 第7曲 木馬(The Little Horse)
 12) 第9曲 バレエのひとこま(バレエ音楽「ガイーヌ」のアダージョ)(A Glimpse of the Ballet (Adagio from "Gayaneh"))
組曲「仮面舞踏会(Masquerade Suite)」 op.48a(ティボーデ編ピアノ編)
 13) 第1曲 ワルツ(Waltz)
 14) 第2曲 夜想曲(Nocturne)
 15) 第3曲 マズルカ(Mazurka)
 16) 第4曲 ロマンス(Romance)
 17) 第5曲 ギャロップ(Galop)
 協奏曲はグスターボ・ドゥダメル(Gustavo Dudamel 1981-)指揮、ロスアンジェルス・フィルハーモニックとの協演。協奏曲の録音は2023年、他の独奏曲の録音は2024年。
 アルバムは、ティボーデが編曲した「スパルタクスとフリージアのアダージョ」(スパルタクスの「愛のテーマ」とも呼ばれる)から開始されるが、もうこのオープニングが最高に心憎い!ハチャトゥリアンが書いた特にメロウなナンバーを、ティボーデの澄んだタッチで奏でられるそのブルーな色彩の世界は、たちまちのうちに聴き手を美しい夜の世界に誘うかのよう。私もこの最初の一音を聴いただけで、心をわしづかみにされた。さすがティボーデ、これほどの雰囲気を引き出せるピアニストは、そうはいないはず。
 一転して、次はアメリカのピアニスト、レヴァントが編曲した「剣の舞」。もちろん、超有名曲であるが、下手に演奏するとガチャガチャしてしまうこの曲を、ティボーデはスリルと美しさの両立した極上のサウンドに仕立て上げる。素晴らしいの一語。
 そして、ピアノ協奏曲。これまで私が聴いてきた録音に比べて、早いテンポを主体とし、そしてなにより一つ一つの音の洗練度の高さが圧倒的。華やかでありながら、オーケストラと阿吽の呼吸で、生命力にあふれる緩急を描き上げる。抒情性と熱血性の見事な共存。録音が優秀美麗なことは、あたりまえかもしれないが、この録音の大きな強みだ。聴きどころは無数にあるが、中でも第2楽章のフレクサトーンとピアノの協演は白眉だろう。物憂いながらも、無限を思わせる透明な美観が広がっている。ティボーデの濁りとは一切無縁な強い和音の響きも、聴き手を夢中にさせるだろう。全楽章を通じて保たれる緊張感、その中で扱われる不協和音や多調処理の鮮やかさも見事。また、それらのソノリティを、くっきりした輪郭とともに伝えることが可能なのは、前述の優れた録音があってこそだ。その点も含めて、現在にあって、当盤はハチャトゥリアンのピアノ協奏曲の真価を伝える理想的な録音に違いない。
 「子守歌」はリムスキー・コルサコフ(Nikolai Rimsky-Korsakov 1822-1908)のシェエラザードを想起させるような、異国情緒ただよう旋律が瑞々しい。「少年時代の画集」は素朴な曲集であるが、郷愁的、懐古的な要素があり、ティボーデはそれらをみごとに蒸留し、気高い芸需品として届けてくれる。モノローグを思わせる「木馬」のメランコリックな味わいは忘れがたい。「バレエのひとこま」の運動美も魅力。
 「仮面舞踏会」は管弦楽曲として、ある程度知られている作品だが、ティボーデは、ピアノ編曲により、その旋律やリズムの魅力を万全の技巧と華やかな音色で伝えている。冒頭の野趣的なワルツから絢爛たる響きに魅了されるが、中でも「マズルカ」は出色の内容であると思う。是非ほしいと思っていた録音に巡り合える幸せ。私にとって、それを味わわせてくれたアルバムです。

ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲  プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲 第1番  グラズノフ ヴァイオリン協奏曲
vn: フィッシャー クライツベルク指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団

レビュー日:2011.5.3
★★★★★ ロシアのヴァイオリン協奏曲を明るく歌い上げた注目盤
 ユリア・フィッシャー(Julia Fischer)のヴァイオリン、ヤコフ・クライツベルク(Yakov Kreizberg)指揮ロシア・ナショナル管弦楽団によるソ連・ロシアのヴァイオリン協奏曲集。収録曲は、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番、グラズノフのヴァイオリン協奏曲の3曲。録音は2004年。
 フィッシャーは1983年ドイツ生まれのヴァイオリニスト。1995年のユーディ・メニューイン国際コンクールで優勝して以後、各地で活躍している。
 この演奏を聴くと、基本的にフィッシャーの演奏は「明るい音色」「古典的で安定したスタイル」という2点が特徴であると思う。
 「ロシアのヴァイオリンコンチェルト」というタイトルが付いているが、ハチャトゥリアンはアルメニアの作曲家である。それは、別に国家の枠組みの話ではない。ハチャトゥリアンが、音楽のベースにアルメニアの素材を用いていて、そうした点で象徴的作曲家であり、ロシアという括りにはややそぐわないところがあると言うこと。・・・それで、このヴァイオリン協奏曲など実に楽しい曲で、様々なリズムと旋律の交錯があるのだが、フィッシャーは、常に旋律を重視してこれらをこなしていく。ハチャトゥリアンらしい妙味を巧みに引き出しながらも、安定した節回しで聴き手を安心させ、必要なところでは熱く燃えるようなノリの良い音を出す。技術も卓越している。また、カデンツァはオイストラフ版ではなく作曲者のオリジナル版を用いているのも特徴だろう。ただし、人によっては、この曲にもっと縦線のリズミックな処理を期待するかもしれない。
 プロコフィエフは更に見事な演奏で、やや悲しい色彩のある曲であるが、フィッシャーの音色は透明でありながら、ふくよかな優しさがあって、音楽に潤いを与える。またオーケストラも見事。1959年生まれのクライツベルクは、セミヨン・ビシュコフ(Semyon Bychkov)の弟なのだそうだ。ここではリリカルとも言える情緒の引き出しや、豪壮な旋律の彩りが見事で、フィッシャーのヴァイオリンとともに曲想を鮮やかに描き出している。
 グラズノフでも両者の演奏は立派。ヴァイオリンのオブリガートが特徴的な第2楽章は広々とした交響曲を聴くような趣がある。終楽章の民謡主題の強調も明朗で、聴き味さわやか。明るく旋律を響かせるヴァイオリンとオーケストラが、うまく楽曲を消化している。
 いずれにしても、ロシア系とはいえ、かなり個性的な3つの曲にそれぞれ高いレベルのアプローチにより、見事に自分たちの持ち味を引き出した演奏で、録音の優秀さもあって、存分に堪能できる一枚となっていると思う。


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