カプースチン



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室内楽

ピアノ五重奏曲 フルート、チェロとピアノのための三重奏曲 2本のフルート、チェロとピアノのためのディヴェルティメント 弦楽四重奏曲
p: カプースチン vc: ザゴリンスキー fl: コルネーエフ vn: チェルノフ 他

レビュー日:2005.4.30
★★★★★  「おっ、意外といいじゃないか!」
 コンポーザー・ピアニストであるカプースチンの作品の多くはもちろんピアノ・ソロ作品である。しかし、ここでは珍しい彼の室内楽が収められている。中でも編成にピアノを含んでいない「弦楽四重奏曲」と「2本のフルート、チェロとピアノのためのディヴェルティメント」は注目される作品だ。
 聴いてみると、いわゆるジャズの要素を取り入れた彼の作風は、ここでもおおいに有効であるというのが分かる。楽器のリズム的な処理や、ちょっと即興味を帯びた転調処理が鮮やかであり、聴いていて楽しく爽やかだ。
 冒頭曲「フルート、チェロとピアノのための三重奏曲」は意表を突く編成であるが、聴いたとたんにカプースチンの狙ったサウンドがわかる。リズミックなピアノ、軽やかなチェロのボウイングとともに、突きぬけるような高音を風のように吹きぬけるフルートの音色の見事なこと!その他、弦楽四重奏曲では、ちょっと楽器をパーカッション風に鳴らしてみたり、あるいはピアノ五重奏曲では従来の同じ編成の曲にくらべて、はるかに重心が高く軽やかなことに気持ちもスカッとする。
 演奏者たちも、カプースチンの音楽を知り尽くした「いつものメンバー」であることが心強い。あるいはコアなジャズフアンや王道クラシック・リスナーからは、聴く前から敬遠されるジャンルかもしれないが、軽い気持ちで聴いてみて「おっ、意外といいじゃないか!」となるアルバムだと思う。

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器楽曲

ピアノ・ソナタ 第1番「ソナタ・ファンタジー」 第2番 ジャズ・スタイルによる24の前奏曲集
p: オズボーン

レビュー日:2013.8.27
★★★★★  カプースチンの音楽を気持ちよく楽しめる快演
 イギリスのピアニスト、スティーヴン・オズボーン(Steven Osborne 1971-)による、1999年録音のカプースチン(Nikolai Kapustin 1937-)のピアノ作品集。収録曲は以下の通り。 1) ピアノ・ソナタ 第1番 (ソナタ・ファンタジア) op.39 2) ジャズ・スタイルによる24の前奏曲 op.53から、第3番ト長調、第7番イ長調、第15番変ニ長調、第13番変ト長調、第19番変ホ長調、第5番ニ長調、第18番変ロ短調、第17番変イ長調、第23番ヘ長調、第11番ロ長調、第12番嬰ト短調、第10番嬰ハ短調、第9番ホ長調(13曲) 3) ピアノ・ソナタ 第2番 op.54  ソヴィエトでキャリアを開始したカプースチンの作品は、“ジャズの語法をふんだんに盛り込んだクラシック音楽”という特有のスタイルをとっている。その作品の多くは、自作自演の名盤たちによって、私たちに紹介されてきた。それとともに、近年、腕達者なピアニストがレパートリーに取り上げる機会も出てきており、録音では、2003年のアムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)盤と、このオズボーン盤が双璧といった現況だ。
 当盤に収録している各曲については、2013年現在作曲者の優れた自作自演盤が入手可能であるため、必ずしも当盤を優先的に推すわけではないが、オズボーンの演奏も立派な内容であり、当然の事ながら、劣るものではない。
 さて、「腕達者なピアニストがレパートリーに取り上げる機会も出てきている」と書いたが、カプースチンの作品は現代まで数多く発表されてきているにもかかわらず、体系的にこれらの作品を取り上げるというピアニストはほとんどいない状態である。強いて挙げれば、川上昌裕(1965-)が複数の録音をリリースしているが、アムランもオズボーンも1枚きりで、これはカプースチンの作品の互いの類似性やパターン化に依るものだと考えられる。ジャズの要素の盛り込みで、即興性や、リズムとメロディの新たな関係性を見出しはしたが、その音響的な「面白味」はあっても、楽曲毎の芸術性や精神性の差異のようなものは、実は私にもあまり感じられない。しかし、これらの音楽は、そういった欠点をのぞけば、上質なエンターテーメントであり、気楽に聴ける悦楽性や心地よく聴ける安住性が満ちている。
 オズボーンのスタイルも、特に楽曲をアナリーゼして、そこに芸術の見地から「解釈」を与えよう、というところまでは(少なくとも私は)感じない。むしろ、わりきって、音色とリズムを、自由な気持ちで楽しみましょう、ということだと思う。それもまた良し。それも音楽のもつ価値の一つだし、悪くないでしょう。
 ソナタ第1番において、すでにカプースチンのスタイルは「完成」を感じさせるが、中でも第4楽章の躍動感が一際立派に感じられる。ソナタ第2番では、緩徐楽章である第3楽章がブルースの気配を漂わせて、雰囲気豊か、ラヴェル(Maurice Ravel 1875-1937)のヴァイオリン・ソナタの第2楽章(まさにラヴェルが“ブルース(blues)”と銘打った)風の、乾いた悲嘆といったところでしょうか。
 カプースチンが、バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)、ショパン(Frederic Chopin 1810-1849)の偉大な系譜になぞらえて、24の調性を備えた「24の前奏曲」を書いたのは、この作曲家のクラシックとしての自らの立ち位置を示すようなものに思えて、興味深い。オズボーンは収録時間の関係からか、13曲を選んで弾いている。順番は、彼なりに考えたものだろう。私個人的には、特に第18番変ロ短調、第11番ロ長調の2曲が、旋律的な妙味、音型の飛躍の斬新性で、聴き映えのする作品だと感じられた。
 いずれにしても、カプースチンのスタイルの一貫性は保たれており、オズボーンの運動的で鮮やかな快演とあいまって、気持ちよくストレスなく楽しめる一枚となっている。

ピアノ・ソナタ 第2番 第3番 アンダンテ チェロ独奏のための序奏とスケルツィーノ アルト・サクソフォンとチェロのための二重奏
p: カプースチン vc: ザゴリンスキー sax: ヴォルコフ

レビュー日:2005.9.4
★★★★★  作曲者の様々な要素を聴けるアルバム
 ソナタ第2番はアムランが東京のリサイタルで取り上げ、日本のファンにカプースチンという作曲家を広める一旦を担った作品。本格的な4楽章構成の作品だが、第1楽章から華やかな躍動感が目覚しく、たちまち私達をカプースチン・ワールドへと誘ってくれる。実際このソナタはカプースチンの諸ソナタの中でも、もっとも燦燦たる演奏効果の上がる陽性の曲だ。第3楽章で特有の夜の雰囲気が出るのもなかなかいい。
 一方で第3番は15分以上ある長い一つの楽章からなる作品で、即興性に富んでいる。
 このアルバムにはピアノの入らない2作品が合わせて収録されている。録音時期もピアノソロ作品が91年録音であるが、他の2作品は2001年の録音となっている。
 独奏チェロのための作品は、カプースチンの作品をよく知っているザゴリンスキーのチェロである。ザゴリンスキーはカプースチンとは親友で、多くのチェロを含む作品は彼のためのものだ。さて、この独奏チェロのための作品は、ピアノ世界とはまた趣きを異にした世界で、なんともクラシックな味わいが出ており、この作曲者の多様性を垣間見る事ができる。
 最後にチェロとアルト・サックスのためという風変わりな編成の作品が収録されている。この2つの楽器の音色をいかに操るかという面白い注目点があるが、やや軽めのサックスの音色で、対旋律風にしてみたり、チェロをピッチカートでベースのように響かせたり、なかなか面白く聴けた。

ピアノ・ソナタ 第4番 第5番 第6番 アンダンテ 10のバガデル
p: カプースチン

レビュー日:2005.9.4
★★★★★  カプースチンのエッセンスが凝集されています
 カプースチンの90年から91年にかけてのピアノソロ作品の自作自演を収めたアルバム。
 冒頭のアンダンテから、ゆとりを持ちながらもピアニスティックな雰囲気を存分に漂わせる。10のバガデルはカプースチンの作品の中でも比較的早くに浸透した作品。もともと「バガデル」という古典的な言葉は、“ちょっとした軽いもの”といった意味だが、ここでの軽妙な表現はたしかにバガデル的で魅力たっぷりの小品が続く。第5曲、Largoのムーディーな色合い、続くComodoの軽やかなリズムなど、カプースチンのエッセンスが短いながらも凝集されている。
 ソナタでは第6番は特に充実した作品と言える。特に第1楽章の小気味の良いモチーフの連続は聴けば聴くほどに心地よく、鮮やかな変化を続けてくれる。またソナタ第4番の第2楽章は特有の間合い、吹き抜けるような行間の趣きが忘れがたい。全篇に聴き手を裏切らないカプースチンならではのモード・ジャズ的な即興性を存分に楽しめる。

ピアノ・ソナタ 第7番 第12番 子守歌 3つの即興曲 3つの練習曲 即興曲 ドゥヴォイリンの主題によるパラフレーズ
p: カプースチン

レビュー日:2005.4.30
★★★★★  高速で連発するしかけ花火のような音の伽藍
 カプースチンのラスト・レコーディングと銘打たれているが、「最も最近の」といった意味合いらしい。ただ、コンポーザー・ピアニストであるカプースチンが、今後は作曲活動に専念していきたい、という意もあるそうだ。アムランやオズボーンといったすぐれた自作の解釈者に演奏は任せるといったところなのだろうか。
 さて、録音を聴いてみると、テクニック的な衰えは皆無といってよいほど、胸のすくテクニックが横溢している。60代半ばといえば、個人差はあれど、ピアニストとしても十分脂ののりきった時期かもしれない。それを思うと演奏からの引退は残念であるが、その分すばらしい作品が生み出されるのを期待したい。さて、内容であるが、なかなか充実したラインナップといえる。
 特に注目したいのは「3つの即興曲」とピアノ・ソナタ第12番の2曲。どちらもカプースチンらしいめくるめく音の洪水と、縦横無尽に鍵盤をかけめぐるテクニックが堪能できる。加えて曲想そのものが美しい。3つの即興曲の第2曲の中間部で浮かび上がるメロディ・ラインの鮮やかさ。そして、ソナタ12番の第2楽章で、高速で連発するしかけ花火のような音の伽藍は、聴いていて心地よく身をゆだねるほどだ。
 今後の作曲活動にも期待しつつ・・・

カプースチン ピアノ・ソナタ 第9番  ブラームス パガニーニの主題による変奏曲 第2巻  チャイコフスキー(プレトニョフ編) 演奏会用組曲「くるみ割り人形」 (フェインベルグ編) 交響曲 第6番「悲愴」より第3楽章「スケルツォ」
p: ルデンコ

レビュー日:2014.6.30
★★★★★  楽しいひと時を過ごさせてくれるルデンコならではのプログラム
 1994年のチャイコフスキー・コンクールで第3位に入賞したワディム・ルデンコ(Vadim Rudenko 1967-)による魅力的なピアノ・ソロ・アルバム。ちなみに1994年のチャイコフスキー・コンクールにおけるピアノ部門は、優勝者なし、第2位はニコライ・ルガンスキー(Nikolai Lugansky 1972-)という結果であった。たいへんレベルの高いコンクールであったにもかかわらず、優勝者がいなかったのは、突き抜けた存在がなかったためだろうか。
 当アルバムは2001年の録音で、ルデンコが得意な楽曲を集めた趣がある。収録曲は以下の通り。
1) ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897) パガニーニの主題による変奏曲 op.35 から 第2巻
2) チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840-1893)/プレトニョフ(Mikhail Pletnev 1957-)編 演奏会用組曲「くるみ割り人形」(行進曲、金平糖の踊り、タランテラ、インテルメッツォ、トレパック、中国の踊り、アンダンテ・マエストーソ~パ・ド・ドゥより)
3) チャイコフスキー/フェインベルグ(Evgenyevich Feinberg 1890-1962)編 交響曲第6番「悲愴」より第3楽章「スケルツォ」
4) カプースチン(Nikolai Kapustin 1937-) ピアノ・ソナタ第9番
 冒頭のブラームスを除くと、あまり録音機会の多くない作品が並んでおり、ライブラリの充実に貢献してくれるラインナップだが、それにもましてルデンコの圧巻のパフォーマンスが素晴らしい。いわゆるロシア・ピアニズムを体現したスタイルで、太い音色、圧倒的な技巧、そして力強い響きに満ち溢れた演奏。スピーディーにしてパワフルな爽快な名演だ。
 特に2曲の編曲ものが面白い。チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」から、7曲をピアノ曲にアレンジした作品は、プレトニョフの編曲自体が名編曲なのだが、ルデンコの逞しく、運動能力に優れたパフォーマンスは、絢爛と言っても良い華やかさを導いていて、豪快だ。特に末尾の「アンダンテ・マエストーソ」の鍵盤を力強く俊敏に駆け巡る指が引き出す音世界は、魅力いっぱい。
 ただ、微妙な旋律線の扱いに、ちょっとクセのあるアゴーギグを用いるところがあるので、人によっては、そういった点が気になるかもしれない。私は、演奏者のアヤということで、楽しませてもらった。
 フェインベルグが編曲した悲愴の第3楽章は、はじめて聴いたのだが、こちらも編曲自体が良くできていて面白い。この楽章が切り離されて、単品で扱われるというのは、厳しく考えると、大いに異議のありそうなところだけれど、このアルバムに組み込まれると、自然に楽しめるようになっているから、編成といった点でも、よく出来ている。
 カプースチンの作品は、競合盤が少なく、作曲者の自作自演盤も存在しないため、貴重だ。楽曲は、この作曲家の名作、「8つの演奏会用練習曲」を彷彿とさせるところのある魅力的な作品だと思う。中間楽章の抒情的なソノリティも美しいが、ルデンコの闊達なピアニズムが最も活躍するのは、運動美を究めた終楽章だろう。楽しいひと時を過ごさせてくれる。
 冒頭のブラームスは、「第2巻」のみという点が残念だが、ルデンコのヴィルトゥオジティを十分に味わわせてくれるだろう。このピアニストの録音はこれまでそれほど数が多くないが、このような楽しい企画には絶好の人材だと思うので、是非、今後も様々に活躍してほしい。

ピアノ・ソナタ 第16番 装身具のような2つの練習曲 ジ・エンド・オブ・ザ・レインボー ユーモレスク ファンタジア ジンジャーブレッド・マン ヴァニティー・オブ・ヴァニティーズ スパイス・アイランド 「ブルー・ボッサ」ケニー・ドーハムの主題によるパラフレーズ カウンタームーヴ
p: カプースチン

レビュー日:2008.7.1
★★★★☆  カプースチン復活・・・でも少しだけ苦肉の復活でしょうか?
 カプースチンが「ラスト・レコーディング」と銘打って、ソナタ第7番や第12番を録音したのが2003年のことである。これをもって(作曲活動については継続するが)録音活動については一応のピリオドを打った、と私も思っていたし、他のフアンの方々も思っていたのではないでしょうか。しかし、ここに2007年録音の新譜がリリースされることとなった。
 一ファンとしては、今回の新譜はもちろん嬉しいのであるが、そこには諸般の事情があるに違いない。特に重要なのは、やはり他の演奏者によるレコーディングがそれほど活発にならないというという点である。なぜかと自分なりに考えてみる。確かにアムランやオズボーンによる魅力的な録音がリリースされた。しかし、彼らも継続的にカプースチンの録音を行うには至らない。何故か。それはカプースチンの各作品が、例えばスクリャービンやプロコフィエフと比べても、全作品の中での位置づけのようなものを必要としない側面が強い楽曲であるためではないだろうか?もちろん、スクリャービンやプロコフィエフであっても、必ずしも全曲弾く必要はないけれど、ピアニストによっては、例えばソナタの全曲を弾き、録音することに、芸術家としての大きな目標を設定できるであろうし、各作品は作曲者のそのときそのときの意図によって強く性格が分けられる。カプースチンの作品の場合、いい意味でも、そうでない意味でも、その性格分けは明瞭ではなく、だからピアニストにとっても、そのうち気に入ったものを何曲か録音できれば、使命感が果たされ、達成感も得られてしまうのではないか。だから、では次の作品ではどのようなアプローチが?という風には発展しにくいのではないだろうか。
 実は、これはカプースチンの作品が、魅力に満ちながらも、コアなクラシックフアンから比較的敬遠される要素と通じているのだと思う。
 とはいえ、ここに収録された曲たちも、カプースチンならではの彩りの洒脱を直裁に感じることができるものだ。奏者としてのテクニックも衰えがない。しかし、他のカプースチンのアルバムと並べたときに、私は、例えば「8つの演奏会用練習曲」などすでにリリースされているものの方が、より魅力的だと思う。


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