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カリンニコフ



交響曲

カリンニコフ 交響曲 第1番  グラズノフ 交響曲 第5番  ハチャトゥリアン 組曲「仮面舞踏会」
山田和樹指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2013.3.12
★★★★★ ライブラリに手薄観のあった3曲に、オーソドックスな好演盤が登場
 2009年のブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、以後世界各地で活躍をしている山田和樹(Yamada Kazuki 1979-)が、チェコ・フィルを指揮して、得意のロシアもの3曲を録音した。
1) カリンニコフ(Vasily Sergeyevich Kalinnikov 1866-1901) 交響曲 第1番
2) グラズノフ(Aleksandr Glazunov 1865-1936) 交響曲 第5番
3) ハチャトゥリアン(Aram Il'yich Khachaturian 1903-1978) 組曲「仮面舞踏会」
 私がこのアルバムに興味を持った理由の一つに、選曲の面白さがある。いずれも、ちょっと「知る人ぞ知る」的な側面を持ちながら、その一方で親しみやすさに満ちた楽曲たち。クラシック音楽に詳しくない人には名前すら聞いたことのない作曲家の作品だが、聴いてみるとなんともとっつきやすい、そのために、“秘曲探訪の入り口”のような役割を果たす曲たち。しかし、その3曲を、一つのアルバムに収めてしまおうという発想は、いかにも「指揮者が自分の大好きなものを並べてみました」といった趣で、そのために「この曲でアピールしたい」という気持ちが伝わる選曲となっていると思えるのである。それで、私は、「よし、それならば、聴いてみようか」と、あいなりました。
 通して聴いた印象は、全般にオーソドックスなスタイルで、これらの「あまり録音点数が多いとは言えない」楽曲に、一本、良心的な演奏として選択肢が増えたことを素直に歓迎できるものだと思う。
 中で特にいいなと思ったのが、ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」で、オーケストラの確かな力量と、中央ヨーロッパ的な中声部の肉厚な響きが、適度な広がりを持っていて、この音楽のスタンダードな姿がよく伝わっている。何よりも、この「いい曲」を、これだけの録音クオリティーで聴ける機会がなかっただけに、その「不足感」を解消してくれた快感も手伝って、私はもう何度か繰り返し聴いている。
 山田和樹の指揮は、非常に真面目。丁寧に音を作って、音楽的美観や強度を常に一定ライン以上に保とうと心がけている。逆にインテンポな解釈とあいまって「真面目すぎる」ところが弱点と言えば弱点で、グラズノフなど、確かに響きは良いのだが、もっと踏み込んだ表現やインパクト・ポイントを明瞭に設定した方が、より印象的で、一段と明るいパレットを用いた音彩になると思う。とはいえ、オーケストラの響きとあいまって、好感のもてる演奏と言えるし、私は決してこの演奏は悪くないと思う。
 カリンニコフの交響曲は、適度な伸びやかさがあり、ややほぐれた感じの表情が出ていて、こちらの方が瑞々しい魅力に溢れていると感じた。グラズノフとともに、この曲も最近一気に人気が上昇している曲でもあり、本盤の登場によって、その魅力に接することができる人が増えることを喜びたい。


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