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オネゲル



器楽曲

トッカータと変奏曲H.8 7つの小品H.25 前奏曲、アリオーソとフゲットH.81 2つのエスキスH.173 ロマンドの音楽帳H.52 3つの小品H.166b サラバンドH.26 アルベール・ルーセルを讃えてH.69 子守歌嬰ヘ長調H.95 ピアノのための小品 観光列車 ショパンの思い出 マタモア パルティータ
p: アントニオーリ ユ=イン・ソン

レビュー日:2014.1.14
★★★★☆ 珍しいオネゲルのピアノ曲を集めたアルバム
 スイスのピアニスト、ジャン=フランソワ・アントニオーリ(Jean-Francois Antonioli 1959-)による、同郷スイスの作曲家、アルテュール・オネゲル(Arthur Honegger 1892-1955)のピアノ作品集。2007年の録音。収録曲の詳細は以下の通り。
1-2) トッカータと変奏曲H.8
3-9) 7つの小品H.25
10-12) 前奏曲、アリオーソとフゲットH.81
13-14) 2つのエスキスH.173
15-19) ロマンドの音楽帳H.52
20-22) 3つの小品H.166b
23) サラバンドH.26
24) アルベール・ルーセルを讃えてH.69
25) 子守歌嬰ヘ長調H.95
26) ピアノのための小品
27) 観光列車
28) ショパンの思い出
29) マタモア
30) 2台のピアノのためのパルティータ
 2台のピアノのためのパルティータで、第2ピアノはユ=イン・ソン(Ju-Ying Song)。
 オネゲルは、両親がスイス人であったが、フランスで生まれパリで活躍した。その音楽はドビュッシー(Claude Achille Debussy 1862-1918)、ラヴェル(Maurice Ravel 1875-1937)といったフランス印象派と、ワーグナー(Richard Wagner 1813-1883)、R.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949)といったドイツ・ロマン派の双方から影響を受けて、折衷的な作風で、固有の力強い転結を持つ音楽は、ドラマチックな要素を大きく持つ。これは、オネゲルの作品が、当時流行した無調や複調といった概念から離れて、主題が機能的にドミナント(基音の五度上)の従和音へと向かう特徴を力強く持っているためである。
 しかし、オネゲルの作品群の中で、「ピアノ作品」というのは、それほど注目されないし、傑作として知られる他のジャンルの作品群と比べて、重要とは言い難いだろう。その一方で、ピアノ作品の場合、作曲家が好んで使用した和声が端的に示されるという面白みがある。さらに、当盤に収められた作品は、全集ではないが、オネゲルのほとんどのピアノ作品が網羅されていて、そういった意味でも資料的価値が高い。
 楽曲として面白いと感じるのは冒頭の2作品。「トッカータと変奏曲」は、ドビュッシーの「花火」を思わせる無窮動的な音の交錯から始まり、耽美的で、今度は、やはりドビュッシーの「沈める寺院」を思わせる変奏曲へと結びつく。「7つの小品」は、オネゲルが、印象主義に拮抗すべく、現実主義的で、単純かつ赤裸な芸術の構築を標榜した時代の特徴がよく出た作品。衝撃的な和音の使い方に強い個性が見出せる。
 その他、楽曲の成り立ちとして興味深いのが「サラバンド」である。これは、コクトー(Jean Cocteau 1889-1963)の後押しなどにより、オネゲルの他に、デュレ(Louis Durey 1888-1979)、ミヨー(Darius Milhaud 1892-1974)、タイユフェール (Germaine Tailleferre 1892-1983)、プーランク(Francis Poulenc 1899-1963)、オーリック(George Auric 1899-1983)という同時代のパリで活躍し、新しい感覚を目指していた作曲家たちを加えたチーム、「6人組」による共作であるピアノ組曲からの1曲で、オネゲルが担当した第3曲にあたるもの。また、全体を通して聴いたとき、「ショパンの思い出」は際立って感傷的でメロディアスな作品であり、オネゲルがショパンという作曲家に感じ取っていたもの(の一つの側面)を伝えているように思う。
 アントニオーリというピアニストの録音を聴いたのは初めてだが、印象派の作品を得意としているとのことで、それにふさわしい音色の扱いの軽妙さ、タッチの軽やかさが当録音からも伝わってくる。丁寧な演奏であり、オネゲルという作曲家の知られざる楽曲たちを知るのに、まずは十分な内容だと思う。


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