ヘス
ピアノ協奏曲 p: ラン・ラン ウォーレン=グリーン指揮 ロンドン室内管弦楽団 レビュー日:2020.6.2 |
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★★★★☆ 21世紀に書かれたロマン派ピアノ協奏曲
チャールズ皇太子(Charles Philip Arthur George 1948-)の委嘱を受けて、イギリスの作曲家ナイジェル・ヘス(Nigel Hess 1953-)が書いた「ピアノ協奏曲」収録。初演を担った中国のピアニスト、ラン・ラン(Lang Lang 1982-)の独奏、ウォーレン=グリーン(Christopher Warren-Green 1955-)指揮、ロンドン室内管弦楽団の演奏。初演が行われた年である2007年に録音されたもの。 最初に書いておくと、かなりコスト・パフォーマンスの良くないアイテムで、ピアノ協奏曲1曲だけ、収録時間24分という内容である。私は中古で購入したが、フルプライスだったら、入手しなかっただろう。 さて、ナイジェル・ヘスは映画音楽を中心に功績のある作曲家である。当盤に収録されたピアノ協奏曲でも、楽器の扱いには相応しい教養を感じさせ、オーケストラがきれいに響くオーケストレーションと、技巧的なピアノの面白味の双方を十分に満たす内容。 ピアノ協奏曲は3つの楽章からなり、それぞれにサブタイトルが付されている。第1楽章が「The Smile(笑顔)」、第2楽章が「The Love(愛)」、第3楽章が「The Duty(義務)」となっていて、なんだか説教臭い感じだが、ひとまず受け入れることとしよう。 楽曲の内容はメロディアス。イージーリスニングに近いと言えばそうだが、ピアノ協奏曲と呼ぶにふさわしい音の質があって、決して悪くない聴き味が備わっている。なんといっても、ラン・ランのピアノが絶妙で、重過ぎず軽すぎず、さりとて弾き飛ばしてしまうこともなく、適度に丸みと柔らか味の備わったスナップを駆使して、甘い旋律線を清々しくかつ情緒的に表現している。このあたりの巧さというのは、どうも言葉では表現できるものではないが、ラン・ランのピアノが楽曲に高級感をもたらしていることは間違いないだろう。 第1楽章はヴィブラフォンの使用が効果的。弦楽の印象的なパッセージから、感情を高めた急速部分への運びも自然で、ピアノとあいまっておおらかに歌われる旋律は、幸福感に満ちている。第2楽章はこの曲のハートといって良い。とにかく美しい音響が続く。メロディーは、すぐに口ずさめる感じではないが、それゆえの通俗性に落ちない気高さを維持していて、ロマン派のピアノ協奏曲と呼ぶにふさわしい響きが連綿と紡がれていく。第3楽章はリズミックで、聴いた瞬間にストンとわかるようなシンプルさをふるまう。途中からテンポを上げていき、高らかに歌を奏でるさまは、爛漫な美観に覆われる。 クラシック音楽として聴く場合、その語り口が平易に過ぎる傾向は否めないが、それでも、音楽としてはよく出来ているし、演奏も見事なものだ。ただ、アイテムとしては、24分という極端な収録時間の短さゆえ、定価では高価すぎるという感はぬぐえない。 |