ハーティ
アイルランド交響曲 コメディ序曲 トムソン指揮 アルスター管弦楽団 レビュー日:2009.11.7 |
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★★★★★ アイルランド民謡を巧みに取り入れたロマン的交響曲
トムソン指揮アルスター管弦楽団によるシャンドス・レーベルによるハーティ作品シリーズの一つで当盤は1980年の録音。 ハミルトン・ハーティ(Herbert Hamilton Harty 1879-1941)はアイルランド出身の作曲家兼指揮者。ヴィオラ、ピアノ、オルガンの奏者でもあった。指揮者としての彼はビーチャムの代役を務めて成功してから有名になり、ハレ管弦楽団を一流のオーケストラに仕上げるなど育成にも手腕を発揮した。第一次世界大戦のおりにはイギリス軍として従軍しており、一時音楽活動を中断している。病気により指揮活動をリタイアしてから作曲家として多くの作品を世に送った。 アイルランド交響曲(An Irish Symphony)は1904年に作曲された。ワーグナーの影響を垣間見つつ、アイルランド民謡の旋律美を巧みに引用したもので、ハーティの代表作と考えられる。4つの楽章からなるが、各楽章は副題持っていて、第1楽章が「ネイ湖畔にて」、第2楽章が「定期市の日」、第3楽章が「アントリムの丘陵にて」、第4楽章が「十二夜」となる。 引用されたアイルランド民謡は、第1楽章の第1主題が“Avenging and Bright(復讐と栄光)”、第2主題が“The Croppy Boy(クロッピー・ボーイ)”、第2楽章は“The Blackberry Blossom(ブラックベリーの花)”と“The Girl I left behind me(忘れえぬ乙女)”が使用される。第3楽章のオーボエで登場する“Jimin Mo Mhile Stor(ジミー・モ・ビール・ストア or ジミーもっと愛して頂戴)”は第4楽章まで引き継がれ、また第4楽章から“The Boyne Water(ボイン川の流れ)”が現れる。ちなみにクロッピー・ボーイはアイルランドの反英運動の象徴歌でもある。 楽曲は素朴な情緒とともに、エネルギッシュな面も併せ持っており、よい意味で平易なわかりやすさがある。「どこかで聞いたことのあるメロディ」も曲への親しみ易さに大いに貢献している。ティンパニや太鼓を効果的に用いたハーティのオーケストレーションの練達もよく活かされている。一時期シャンドス・レーベルがイギリスお国モノの録音に盛んに起用した顔合わせによる当録音は、さすがに曲を熟知した感のあるしっとりくる演奏で、ハーティの音楽を知らない人には、おもわぬ佳曲との出会いを提供してくれるという点でもなかなかいいディスクだと思う。余禄にはコメディ序曲も収録されている。 |