グレフ
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ソナタ・ダ・レクィエム ピアノ三重奏曲 vc: ベルトラン p: アモワイヤル vn: ヴァイトハース レビュー日:2019.7.22 |
★★★★★ オリヴィエ・グレフの情感に訴える美しい室内楽
フランスの作曲家、オリヴィエ・グレフ(Olivier Greif 1950-2000)は、ベリオ(Luciano Berio 1925-2003)に師事し、マーラー(Gustav Mahler 1860-1911)やショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975)の影響をうけながら、現代的なソノリティを踏まえた旋法音楽による作品を書いた人物。演奏家にも、その作品を高く評価する人がいる。それほど知名度は高くないと思うけれど、何か聴いてみようかな、という人には、当盤がおすすめだろう。以下の2編の室内楽曲が収録されている。 1) ソナタ・ダ・レクイエム(喪失/旅/魂) op.283 2) ピアノ三重奏曲(深き淵より/ジャヴァ/ロマンツェ/アッラ・ブレーヴェ) 1)はチェロとピアノ、2)はピアノ、ヴァイオリン、チェロのための作品。当盤における奏者は以下の通り。 チェロ: エマニュエル・ベルトラン(Emmanuelle Bertrand 1973-) ピアノ: パスカル・アモワイヤル(Pascal Amoyel 1971-) ヴァイオリン: アンティエ・ヴァイトハース(Antje Weithaas 1966-) 2005年の録音。 グレフのこれらの作品には、死にまつわるイメージがつきまとう。グレフ自身が、「作曲することをやめたら、私は死ぬ」を座右の銘として活動していた人物だ。ただ、グレフの思想によれば、死は終末ではなく、単に人生における多くのエピソードの一つに過ぎない」という。グレフの父は、アウシュヴィッツの生き残りということだが、そのあたりも、彼の芸術家としての思想形成の背景として、あるのかもしれない。 さて、これらの作品、確かにその作風は暗い。だが、そこには美しい調性的な旋律があり、聴き手を感動させるはずだ。それは郷愁的であったり、どこかですでに巡り合ったもののようであったりする。ソナタ・ダ・レクイエムは、チェロの独奏からスタートするが、沈静化した持続音をバックに、ピアノがどこか切なげで懐かしい旋律をそっと奏でる。その息の長さに、私はとても感動した。古典性と現代性の同居は、アルヴォ・ペルト(Arvo Part 1935-)との精神的な親近性を感じさせるが、私はこのピアノの主題を聴くと、ジェフスキー(Frederic Rzewski 1938-)の名曲、「不屈の民」変奏曲を想起する。どこかセンチメンタルで、しかし決然と歩む力を秘めた旋律である。全曲を通じて、その雰囲気は踏襲され、聴き手を深い世界へと誘っていく。その音楽効果は、どこか催眠的と形容しても良い、美しさを持っている。 ピアノ三重奏曲は、衝撃的なピアノの和音で開始されるが、ショスタコーヴィチ的な深刻さに覆われ、その低く垂れこめた雲の下を感じさせる世界で、旋律的なフレーズの交錯が描かれていく。 3人の奏者が、作曲者への敬愛(あるいは哀悼?)を感じさせる深い思い入のある演奏を繰り広げているのもの特徴的である。現代的なクールさあありながら、楽曲の旋律的性格は、共感しやすい感情を見出しうる。その美しさに感銘を受ける人は多いのではないだろうか。 |