グリーンバーグ
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交響曲 第5番 弦楽五重奏曲 セレブリエール指揮 ロンドン交響楽団 ジュリアード弦楽四重奏団 vc: アドキンス レビュー日:2013.11.18 |
★★★★★ 10代前半の天才少年の書いた本格的作品集
アメリカの青年、ジェイ・グリーンバーグ(Jay Greenberg 1991-)は、“現代のモーツァルト”と呼ばれているのだそうである。その理由は早くに開花した作曲能力にあるとのこと。このアルバムは、そんなグリーンバーグがまだ10代前半のうちに書いた作品が2曲収められている。一つは「交響曲第5番」で、ホセ・セレブリエール(Jose Serebrier 1938-)指揮ロンドン交響楽団の演奏、もう一つは「弦楽五重奏曲」でジュリアード弦楽四重奏団にダレット・アドキンス(Darrett Adkins)のチェロが加わった編成で奏でられている。録音は2006年。 いくつか注目点のあるアルバムである。まず「交響曲第5番」というからには、すでに4曲の交響曲が存在しているとのことになる。私がカタログなどを調べた限りでは、それらの以前の作品が試聴可能なメディアの流通は、今のところないようであるが、いずれにせよ大変な「早書き」である。それと、セレブリエール、さらにジュリアード弦楽四重奏団という「重鎮クラス」によって演奏が行われていることにも注目したい。ちなみに録音時のジュリアード弦楽四重奏団は、ヴァイオリンがジョエル・スミルノフ(Joel Smirnoff 1950-)とロナルド・コープス(Ronald Copes)、ヴィオラがサミュエル・ローズ(Samuel Rhodes)、チェロがジョエル・クロスニック(Joel Krosnick 1941-)というメンバーで、ベテランが揃う顔ぶれだ。この現代最も若い才能の作品を、大家たちが取り上げて録音しているのである。すでにそういった箔が付いている、ということだ。 そして、当然の事ながら、楽曲自体に関心がいく。この若き才能は、五線譜にどのような音符を刻んだのか?この点について、当盤を聴いた私の感想をまとめると、以下の様に集約できる。 ・確かに年齢を感じさせない筆致である。 ・交響曲は4楽章、弦楽四重奏曲は3楽章と古典的な楽章構成で、かつ楽章ごとの役割も古典的なもの。 ・音色はショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975)やバルトーク(Bartok Bela 1881-1945)を思わせるところがあるが、それらよりやや柔らかい感触。 ・旋律的な魅力という点では、現時点ではもう一つ。 ・構成面でのバランス感、主題の展開などに、並々ならぬ才能を感じる。 以上の様に、未完を感じさせながらも、これからの活躍に期待したい才能であることには違いないと感じられた。「古典的である事」は悪い事ではない。むしろ、音楽の意図を過度に抽象化する現代の風潮より、旋律的な情感を尊ぶ古典性の再来は、私も歓迎したいところ。本アルバムでは、特に交響曲の後半2楽章に古典的な美観を感じる。ここで言う古典性とは調性を踏まえた音楽づくりのことであり、曲を聴いていて、次の音が「来るだろうと予測される音程と強弱」を備えて鳴る心地よさに繋がる価値観のことである。特にそういった古典性を踏まえての終楽章の主題の高揚感は、目をみはるものがあった。 それにしても、2013年現在、この録音から7年が経過しているにもかかわらず、これに次ぐ目立ったグリ-ンバーグ作品の録音というのがあらわれないようだ。現在も勉学中らしいが、是非、この才能にさらに磨きをかけ、世に名を成す名曲を書き上げてほしい。 |