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グラナドス



器楽曲

組曲「ゴイェカス」
p: ルイサダ

レビュー日:2011.1.27
★★★★★ ルイサダのアプローチで俄然彩度を増すグラナドス
 エンリケ・グラナドス (Enrique Granados 1867-1916)はカタルニア地方出身のスペインの作曲家。アルベニスとともにスペインを代表する作曲家として指折られることが多い。題名の「ゴイェスカス」は「ゴヤ風の音楽」の意味で、フランシスコ・デ・ゴヤの作品にインスピレーションを受けて書かれた。このエピソードはムソルグスキーの「展覧会の絵」に通じるが、「ゴイェスカス」の場合、特に決まった作品を指しているのではなく、ゴヤの様々な作品を通じての総体としてのイメージらしい。
 それはそうと、この音楽はとてもスペイン風、~私の様な日本人が聴いて「いや、スペイン風だなー」と思う音楽だと思う。それでは「スペイン風」とは?・・・
 スペインの音楽はルネッサンス期の器楽の発展から性格付けが明らかになってくる。ジブラルタル海峡を越えて流入するアラビア音楽と、スペイン・ギターの発展が融合し、特徴的な器楽曲が盛んに作られるようになった。一般的なイメージの代表格は「フラメンコ・ギター」である。普通のギターより軽量の素材により作られ、開放的で、高音が強く響く。その演奏効果は、そのまま「ラテン」のイメージにも連なるものだ。
 それで、このグラナドスの曲を聴くと、楽曲を組み立てる旋律と伴奏の位置関係や、リズム処理の手順、感情を高めるためのステップ等に、ギター奏法からの発展が多く見られる。こういったスペインの「ギターを連想するピアノ曲」をいかにもそれらしく弾く名手としては、ラローチャというピアニストが有名であった。
 一方、この録音である。ルイサダはショパンなどでも自分の呼吸、自分の間合いをことのほか大切にすることで、楽曲から新たな色彩を引き出す達人である。この人の弾くグラナドス、これがまた非常に麗しくて心地よい。ピアニスティックなタッチで、溢れるような生気を与えている。例えば第3曲、「ともし火のファンタンゴ」は題名の通りいかにもギターを連想する作品で、細かく連続する伴奏音や、瞬時の光を放つ「爪弾き」のような和音に満ちているが、ルイサダはこの作品に様々な情感を含んだアプローチを見せる。同じ音型でも、なにか少しずつ角度を変えていくような、そのうち美しい全体像が引き出されていることに気づいた聴き手がハッとなるかのように。まるで上ってきた峠道を振り返って、そこに絶景が広がっていることに気付くような。。。ルイサダのピアノは特に「スペイン音楽らしさ」を追求したものではないと思う。いつだってこの人は「ルイサダらしさ」の一枚看板でやってる人なのだ。けれでも、その「ルイサダらしさ」というのが、なかなか奥が深い。ショパンでもグラナドスでもいつの間にか自分のグラウンドに引きずり込んで鮮やかに仕立て上げてしまう。その手腕は当盤で存分に味わうことができる。


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