トップへ戻る

グノー



声楽曲

聖チェチーリア荘厳ミサ曲
マルケヴィチ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 合唱団 S: ゼーフリート T: シュトルツェ B: ウーデ

レビュー日:2011.4.5
★★★★☆ 健やかな和声によって書かれた祈りの合唱曲
 シャルル・グノー(Charles Gounod 1818-1893)の聖チェチーリア荘厳ミサ曲。マルケヴィチ(Igor Markevitch 1912-1983)指揮、チェコフィル、同合唱団の演奏。独唱はS: ゼーフリート、T: シュトルツェ、B: ウーデ。1967年の録音。
 グノーはフランスの作曲家で、宗教音楽とオペラを中心に作品を遺した。代表作は1859年に初演されたオペラ「ファウスト」で、これに続く作品として1869年の作品「ロメオとジュリエット」が挙げられる。研究熱心だったらしく、パレストリーナ、ウェーバー、ベルリオーズ、シューマンといった人たちの作品から影響を受け、多くの器楽曲も書いている。
 しかし、今日ではグノーの作品はほとんど演奏機会を持たない。管弦楽書法は古典的で模範的だが、対位法的な処理は小さく、「美しい響き」のみに頼った音楽となり易い。明るい旋律美があっても、「面白さ」や「迫力」といった要素がどうにも弱いのだ。しかし、目だった派手さがないとは言え、調和に富んだ響きは踏襲的な安心感があり、華麗な和声を楽しむという観点では、魅力もないわけではない。
 聖チェチーリア荘厳ミサ曲は1855年の作品。チェチーリアは音楽を守護する聖人であり、正規の経典テキストを用いてはいない。曲は、以下の7つの部分からなる。1) キリエ(Kyrie)、2) グローリア(Gloria)、3) クレド(Credo)、4) サンクトゥス(Sanctus)、5) ベネディクトゥス(Benedictus)、6) アニュス・デイ(Agnus Dei)、7) ドミネ・サルヴァム(Domine Salvam)。全曲の演奏時間は50分ほど。
 演奏は立派な容姿を感じさせるもので、3人の独唱者も優れた歌唱を聴かせる。中でも、イルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)の柔らかい声は曲想にとてもよく合う。
 マルケヴィチはいつも迫力の満ちたアプローチをする指揮者であるが、その片鱗が見えるのはグローリアで、独唱陣とのフレキシブルな掛け合いが聴き応え万全。全曲の頂点と考えられるクレドでは、グノーの音楽の持つ調和性と世俗性が端的に示されていて、音楽が分かり易いのも美点と思う。
 ところで、グノーという人は一時僧籍に身を置く等、俗性(音楽家)と宗教の境界でいろいろ悩んだらしい。作風も含めて「半性格的」と評されたのは、そんなところからか。このミサ曲でも、“Lord protect the Republic(主は共和国を守り)”などといった一風変わったテキストが出てくるので、その辺も聴き所と言えばそうかもしれない。


このページの先頭へ