グルック
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歌劇「アルミード」 ミンコフスキ指揮 ルーヴル宮音楽隊 合唱団 S: ドゥルンシュ MS: ポドレシ B: ナウリ T: ブロン レビュー日:2021.2.3 |
★★★★★ 活力に満ちた表現で、グルックの歌劇の魅力を存分に引き出した名演
マルク・ミンコフスキ(Marc Minkowski 1962-)指揮、 ルーヴル宮音楽隊とルーヴル宮音楽隊合唱団の演奏で、グルック (Christoph Willibald Gluck 1714-1787)の歌劇「アルミード」全曲。主な配役は以下の通り。 アルミード(Armide); ミレイユ・ドゥルンシュ (Mireille Delunsch 1962-) ソプラノ ルノー(Renaud); チャールズ・ワークマン(Charles Workman 1965-) テノール イドラオ(Hidraot); ローラン・ナウリ (Laurent Naouri 1964-) バス 憎悪の神(La Haine); エヴァ・ポドレシ (Ewa Podles 1952-) メゾ・ソプラノ フェニース(Phenice)、メリッセ(Melisse); フランソワーズ・マセ(Francoise Masset) ソプラノ シドニー(Sidonie)、羊飼いの女(Une Bargere); ニコル・ヒーストン(Nicole Heaston) ソプラノ ウバルド(Ubalda); ブレット・ポレガート(Brett Polegato) テノール アロント(Aronte); ヴァンサン・ル・テキシエ(Vincent Le Texier) バリトン 快楽の精(Un Plaisir); マグダレーナ・コジェナー(Magdalena Kozena 1973-) メゾ・ソプラノ 水の精(Une Naiade); ヴァレリー・ガバユ(Valerie Gabail) ソプラノ 1996年の録音。 「アルミード」はグルックが書いたオペラの代表作の一つである。彼のオペラでは「オルフェオとエウリディーチェ」がまず代表作として指折られるが、この「アルミード」も音楽的充実を感じさせる。 一応、このオペラの粗筋を書いておこう。舞台は11世紀のシリア。十字軍の侵攻を防いだ王女アルミードは、祝賀の催しの最中であっても、敵である十字軍で最強と謳われたルノーへの思いが募ってしまう。ちょうどそんなおり、ルノーの襲撃により、捉えた捕虜たちが脱走したとの知らせが入る。アルミードは、思いを断とうと、伯父であるダマスカス王のイドラオとともに魔力を用いてルノーの殺害を計画するが、最後の段でアルミードのルノーへの思いが邪魔をしてし、ルノーに自分を愛するよう魔法をかけてしまう。ついにアルミードは憎悪の神の力をかりて、自身の心の変容をこころみるが、今度は儀式の最中で、それを自ら強引に中断させてしまう。ルノーは魔法にかかったままの状態であったが、やがて、十字軍兵士ウバルドがルノーにかかった魔法を解き、ルノーは立ち去る。アルミードは、立ち去ったルノーを恨むあまり、自ら、宮殿を悪魔たちに破壊させた上で、復讐のため、ルノーを戦車で追って舞台を去る。 この粗筋の通り、感情的な起伏の激しい作品であり、その描写性のため、音楽も劇的な様相が濃い。また、甘美な部分でもグルックは魅力的な味付けを施しており、魅力的だ。ミンコフスキの指揮は、早めのテンポを主体とし、やや間を詰めたような表現を多用するので、クセと感じるところもあるけれど、この作品のもつある種の激しさに拍車をかけるという点で、演出的には面白さが増した感があり、私は良いと思った。また、合唱とオーケストラが競り合うように掛け合う躍動感も、ミンコフスキらしいエネルギーのある演出である。 第3幕の憎悪の神のシーンは、ポドレシの好演とあいまってなかなかの聴きモノだ。また、グルックがこの歌劇で試みた、古典的な書法による官能的な音楽表現を、ミンコフスキは十分な情感で汲み取った感があり、美しい。物語終盤近くで奏でられるデュエットもその一つだろう。 ワークマンの歌唱も当盤の魅力の一つと思う。力強く、グルックの描いた英雄像に相応しいと感じられる。ルーヴル宮音楽隊はピリオド楽器の制約を感じさせない活力のある表現で、木管もしっかりと芯の通った音色を響かせてくれるのがうれしい。 グルックの歌劇の魅力を、存分に味わわせてくれる名録音です。 |