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グラズノフ



交響曲

交響曲 全集 協奏曲 全集br>セレブリエール指揮 ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団 ロシア・ナショナル管弦楽団 p: ロマノフスキー vn: パイン

レビュー日:2017.4.18
★★★★★  グラズノフの交響曲全集の決定盤
 ホセ・セレブリエール(Jose Serebrier 1938-)が2004年から2010年にかけて録音したグラズノフ(Aleksandr Glazunov 1865-1936)の交響曲全曲を含む管弦楽作品集。収録内容は以下の通り。
【CD1】 2009年録音
1) 交響曲 第3番 ニ長調 op.33
2) 交響曲 第9番 ニ短調 ガヴイリル・ユーディン(Gavriil Yudin)により補筆完成された第1楽章
【CD2】 2009年録音
1) 交響曲 第2番 嬰ヘ短調op.16
2) 交響曲 第1番 ホ長調 op.5「スラヴ」
【CD3】 2006年録音
1) 交響曲 第4番 変ホ長調 op.48
2) 交響曲 第7番 ハ長調 op.77「田園」
【CD4】 2004年録音
1) 交響曲 第5番 変ロ長調 op.55
2) バレエ音楽「四季」 op.67
【CD5】 2008年録音
1) 交響曲 第6番 ハ短調 op.58
2) 管弦楽のための幻想曲 ホ長調 op.28「海」
3) オスカー・ワイルドの劇のための付随音楽「サロメ」 op.90 ~ 序奏とサロメの踊り
【CD6】 2005年録音
1) 交響曲 第8番 変ホ長調 op.83
2) バレエ音楽「ライモンダ」組曲 op.57a
【CD7】 2010年録音
1) ヴァイオリン協奏曲 イ短調 op.82
2) チェロと管弦楽のための「吟遊詩人の歌」 op.71
3) ピアノ協奏曲 第2番 ロ長調 op.100
4) サクソフォン協奏曲 変ホ長調 op.109
【CD8】 2010年録音
1) ピアノ協奏曲 第1番 ヘ短調 op.92
2) ホルンと管弦楽のための「夢」 op.24
3) チェロと管弦楽のための「コンチェルト・バラータ」 op.108
4) ヴァイオリンと管弦楽のための「瞑想曲」 ニ長調 op.32
 オーケストラは【CD1】~【CD6】がスコティッシュ・ナショナル管弦楽団、【CD7】と【CD8】がロシア・ナショナル管弦楽団。独奏者は以下の通り。
 vn: レイチェル・バートン・パイン(Rachel Barton Pine 1974-)
 vc: ウェン=シン・ヤン(Wen-Sinn Yang 1965-)
 p: アレクサンダー・ロマノフスキー(Alexander Romanovsky 1984-)
 サクソフォン: マルク・シーソン(Marc Chisson)
 hrn: アレクセイ・セロフ(Alexey Serov 1983-)
 パインは1974年シカゴ生まれのヴァイオリニスト。1992年のバッハ国際ヴァイオリン・コンクールを始め、数多くのコンクールで最上位を獲得している。1995年に大事故に巻き込まれたが、車椅子で復帰し、以後ジャンル横断的な活躍をしている。ヤンは1965年スイス生まれのチェリスト。24才にしてバイエルン放送交響楽団の首席奏者となった。ロマノフスキーは1984年ウクライナ生まれのピアニスト。この録音の後に開催された2011年のチャイコフスキー・コンクールでは第4位となった。
 録音・演奏・曲目の充実と何をとっても文句の付けようのない、素晴らしいアイテム。グラズノフの交響曲全8曲に加え、未完でユーディンによって補筆完成された第9番の第1楽章、代表作として知られる「四季」「ライモンダ」の2つのバレエ音楽、さらに、隠れた名作と言えるピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、管弦楽のための「海」など、これ一つでグラズノフという作曲家の世界を、存分に楽しむことが出来る。
 交響曲では、第5番、第6番、第8番の3曲は名作と言って良い美しいもの。交響曲第5番は古典的正統性を持った秩序だった作品で、メロディの親しみやすさも含めて、グラズノフ作品でまず最初に聴かれるものだろう。第8番は壮大なスケールとともに、複層的な感情表現を追求した名品で、特に前半2楽章が充実した出来栄え。第6番は熱血的な音楽で、特に第1楽章の熱い高揚感が得難い魅力を放つ。
 バレエ音楽は、いずれも立派なオーケストレーションと熟達した書法で、旋律に恵まれた作曲家が、その手腕を如何なく発揮したものだ。
 ピアノ協奏曲ではロシアの郷愁に満ちたセンチメンタリズムを吐露していて、スクリャービンやラフマニノフの名協奏曲にも通じる味わいがある。そのたっぷりしたロマンティシズムを卓越した手腕で解き放ったロマノフスキーのソロは抜群の響き。豪華でありながら、節度を保っていて、若き俊英ロマノフスキーの奥深さが感じられる。ハイペリオンから出ているクームズ(Stephen Coombs)の名演と比べても遜色ない。
 サクソフォン協奏曲は珍しい。グラズノフが新しい楽器を気に入り、弦楽合奏の伴奏により書いた協奏曲。なめらかな旋律が心地よく、柔らかいテイスティングの逸品になっている。今や一般的なレパートリーとなった感のあるヴァイオリン協奏曲はではパインのセンス豊かな音楽性が魅力。
 いずれの楽曲もセレブリエールの共感に溢れる音響構成が見事。細やかな味わいを十分に施しながら、全体の流れが自然で、旋律が高らかに歌いあがる様は聴き手を感動に誘う。オーケストラもどれも立派な演奏で、合奏音のふくよかで輝かしい響きは、充足感を与えてくれる。録音も素晴らしく、きめ細やかで、ホールトーンも的確にキープしている。
 グラズノフのこれらの作品に、聴く喜びがいっぱい詰まっていることを知らせてくれる、最高のアイテムだ。

交響曲 第1番「スラヴ」 ヴァイオリン協奏曲
ポリャンスキー指揮 ロシア国立交響楽団 vn: クラスコ

レビュー日:2007.11.27
★★★★☆  グラズノフが「スラヴ」を表現した曲たち
 ロシアにあって国民学派的教養と国際的音色を体得した作曲家、アレクサンドル・グラズノフ(Alexander Konstantinovich Glazunov, 1865 - 1936)の作品は、ゆっくりとだけど確実に知名度が上がってきていると思う。一昔前に比べるとあきらかに録音点数が増えたし、積極的に取り上げる演奏家も多くなってきた。
 当盤はポリャンスキー指揮ロシア国立交響楽団による交響曲第1番とヴァイオリン協奏曲が収録されている。ヴァイオリン独奏はクラスコ。録音年がブックレットには記載されていないのだが、おそらく98年頃の録音だと思う(それにしても、録音した日時くらいは明記してほしいと思う)。
 交響曲第1番は「スラヴ」という愛称を持っている。グラズノフ16歳の野心作であり、「スラヴ」という愛称は、自らの作曲家としての立ち位置も合わせて示すかのような戦略的な名称だ。(ただ、この作曲家のカテゴリは「スラヴ」よりはるかに「インターナショナル」なものだと思う。特にその後の作品はそうだ)。さて、この第1交響曲であるが、天才の作品に作曲時の年齢が関係ないことを示す好例で、たいへん魅力的な作品。とくに第1楽章が充実した出来栄えで、すでに交響曲としての必要なものは備わっており、構成感も適切に表出されている。メロディーも豊かだ。第2楽章の郷愁もスラヴ、ロシアを思わせるもので、この曲のタイトルはこの楽章によく表現されていると思う。後半2楽章はそれに比べると魅力に乏しいけれど、16歳のときと作品とは思えない見事なものだと思う。
 対するにヴァイオリン協奏曲は創作活動の充実期のもので(そういえばこの曲もずいぶん録音点数が増えたと思う)、しかるにスラヴ的な雰囲気の残る作品だけに、第1交響曲と続けて聴くと、地続き感がある。第1楽章のほの暗い雰囲気は格別で、クラスコの憂いを帯びたヴァイオリンの音色が絶妙に合う。この曲ではシャハムの録音など立派過ぎる感じがして、こちらの方がしっくりくるのでは、と思った。第2楽章以降にも引き継がれるこの雰囲気はなんとも捨てがたい魅力だ。

交響曲 第1番「スラヴ」 第2番 第3番 第9番
セレブリエール指揮 ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団

レビュー日:2009.11.27
再レビュー日:2017.4.18
★★★★★  祝!セレブリエールによるグラズノフのチクルス完成
 セレブリエール指揮ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団によるグラズノフ交響曲集。今回の2枚組のアルバムによって、全集が完結した。このたびの収録曲は、交響曲第1番「スラヴ」、第2番、第3番、それと未完に終わった第9番の第1楽章。比較的渋い存在の曲たちだ。録音は2009年。2004年の交響曲第5番から始まったこのシリーズも6年をかけて完成したことになる。
 何はともあれ、この質の高いグラズノフの交響曲全集の完成が喜ばしい。グラズノフはロシアの偉大なシンフォニストであり、その交響曲はスラヴ交響曲史においても非常に重要な位置を占めているだけでなく、いかにもヨーロッパ的な洗練されたサウンドを融合した古典性を重視した特異な存在でもある。そのような様々な側面で重要でしかも優れた作品について、質の高い演奏と録音でデータベースが完成されるというのがとても大事なのだ。・・・ちなみに、グラズノフが、このジャンルにおいて古典的な価値を重視していたことは、彼が初演を指揮したラフマニノフの交響曲第1番(才気溢れる新しい交響曲)の真価をほとんど認めなかったことからも明らかと思われる。
 演奏であるが、オーソドックスでかつ共感の溢れる高揚感が全編に溢れている。交響曲第1番は「スラヴ」と称される。グラズノフが、自身のアイデンティティーを問いながらも、標準価値の基軸との「ウェルバランス」を目指した作品。ロシア的な郷愁が中欧的な溶け合ったオーケストラ・サウンドに乗ってよく歌う。第2番はリストへの追悼を示した作品で、やや哀愁の趣がただよう。第3番はニ長調という古典的な調性ながら、シベリウス的な高揚のある充実した音楽。この曲で、グラズノフは敬愛する偉大なロシア・シンフォニストの先輩であるチャイコフスキーの影響を強く示す。第9交響曲が未完に終わったのは、グラズノフがこの「最後のナンバー」を避けたためと言われる。現在1楽章のみが聴けるがこれはガヴイリル・ユーディン(Gavriil Yudin)により補筆完成されたオーケストラ・スコアによるもの。貴重な音源。
 もちろん、グラズノフの交響曲としては、第5番、第6番、第8番という名曲がこの後に連なるわけで、ここに収められた4曲はリスナーが最初に聴くべきものというわけではないが、それらの名曲を聴き、グラズノフの作風を気に入ったなら、ぜひここまで足を伸ばして欲しいと感じさせるアルバムだ。
★★★★★  セレブリエールによるグラズノフ・チクルス 第5弾
 ホセ・セレブリエール(Jose Serebrier)指揮、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるグラズノフ(Alexander Glazunov 1865-1936)の交響曲全集シリーズの第5弾として、2009年に録音されたもの。当盤には残りの4曲すべてを、2枚のCDに下の通り収録していて、これをもって全集録音が完結したことになる。
【CD1】
1) 交響曲 第3番 ニ長調 op.33
2) 交響曲 第9番 ニ短調 ヴイリル・ユーディン(Gavriil Yudin)により補筆完成された第1楽章
【CD2】
3) 交響曲 第2番 嬰ヘ短調op.16
4) 交響曲 第1番 ホ長調 op.5「スラヴ」
 なお、交響曲第9番は、グラズノフが着手しながら未完だったものであり、後年、ユーディンの補筆によってオーケストラ・スコア化された第1楽章のみが収録されている。
 これらの楽曲は、そもそも演奏機会の多くないグラズノフの交響曲の中でも、特に聴く機会の少ない作品である。そのような意味でもセレブリエール指揮スコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるクオリティーの高い全集の一環として録音されたことは、価値がある。
 演奏は、中庸的な厚みのあるサウンドで、共感溢れる高揚感が全編に溢れている。
 交響曲第1番は「スラヴ」と称される。グラズノフが、自身のアイデンティティーを問いながらも、標準価値の基軸との「ウェルバランス」を目指した作品。ロシア的な郷愁が中欧的な溶け合ったオーケストラ・サウンドに乗ってよく歌う。
 第2番はリスト(Franz Liszt 1811-1886)への追悼を示した作品で、やや哀愁の趣がただよう。存在感を示して響く金管にグラズノフの思いが込められているようだ。セレブリエールはテンポを細かく調整して、表情を形作る。
 第3番はニ長調という古典的な調性ながら、シベリウス的な高揚のある充実した音楽。シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957)の第3交響曲を彷彿とさせるところもある。また、グラズノフが敬愛するチャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840-1893)の影響が強く示されているほか、メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy 1809-1847)を思わせる輝かしい管弦楽書法が見られるのも特徴的だ。当盤に収録された4曲のうちでは、この第3番がもっとも高い価値を持つだろう。
 第9交響曲が未完に終わったのは、グラズノフがこの「最後のナンバー」を避けたためと言われる。現在1楽章のみが聴けるがこれはガヴイリル・ユーディン(Gavriil Yudin)により補筆完成されたオーケストラ・スコアによるもの。グラズノフが第8交響曲に続いて、不安やより暗い感情的なものを表現する志向に傾いていたことを示す。競合盤がほとんどない貴重な音源。
 グラズノフの交響曲としては、第5番、第6番、第8番という名曲がこの後に連なるわけで、ここに収められた4曲はリスナーが最初に聴くべきものというわけではないが、それらの名曲を聴き、グラズノフの作風を気に入ったなら、ぜひここまで足を伸ばして欲しいと感じさせるアルバム。

交響曲 第4番 第7番「田園」
セレブリエール指揮 ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団

レビュー日:2007.7.12
★★★★★  「ツボ」を的確に押さえた好演です
 ホセ・セレブリエールとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるグラズノフ・シリーズの第3弾。今回は楽曲自体が今までに比べると地味だけれど、それでもあいかわらず、品質の高い内容で、きわめて好印象。
 第4番は木管楽器の活躍の目立つ曲だが、このオーケストラの柔らかな木管陣の響きが、演奏の魅力を増している。ちょっとした経過句でも、おっ、と思わせるようなぬくもりがあり、適度な自由さも併せ持っている。この交響曲はグラズノフらしい万能的(強く個性的ではない)音楽で、逆に強い印象を持たない面があるかもしれないが、この演奏なら郷愁のようなものを感じ、色合い豊かな趣を感じ取ることができる。
 第7番はそれに比べるとアプローチしやすい曲かもしれない。ロシア的と言うと簡単に過ぎる表現かもしれないけど、そういったメランコリーがよく出ている。冒頭の入り方も、どことなくしゃれていて、交響曲の一つの入り口としてよく出来ていると思う。第2楽章はちょっと長すぎるように思うが、第3楽章は民俗的な旋律が力強く、親しみやすい。この交響曲は終楽章がいちばんいいと思う。第1楽章の主題の再現シーンが美しく、そこから発展したテーマがシベリウス的な高揚感を経て、さらに激しいリズムを加えて終結を迎える過程は、音楽としてとても効果的だし、ドラマティックな演出も出来がいい。演奏もそのような「ツボ」を的確に押さえていて、さすがの洞察の深さである。まずは同曲中でも最善の録音だと思う。

交響曲 第5番 バレエ音楽「四季」
セレブリエール指揮 ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団

レビュー日:2007.7.8
★★★★★  グラズノフの第5交響曲は名曲です!
 世に「秘曲」というジャンルがある。温泉で言えば「秘湯」である(わざわざ温泉で言い直す意味がないか?!)。これは「知る人ぞ知る」といった秘め事の喜びの性質のもので、私も「秘曲」探訪は大好きである。ひと昔前、秘曲の代表格(矛盾のある言葉だなぁ)として、例えばグラズノフの交響曲やアレンスキーの室内楽などがあった。
 それにしてもグラズノフの交響曲はだいぶ一般的になったとは言え、その認知度はまだ内容に追いついていないかもしれない。そのような背景にあって、「グラズノフの交響曲ってどんな感じ?」という方にまずオススメしたのがこのディスクである。
 第5交響曲は、グラズノフの作品群の中でも最もインターナショナルな通力を持った作品だと思う。そもそも、この作曲家は若いころから欧州やアフリカ大陸を旅行し、様々な音楽要素を吸収していた。だからその作風は「国民楽派」というジャンルに囚われない国際色がある。そしてワーグナー的な高揚感を兼ね備えて、充実した旋律によって編まれたのがこの第5交響曲。まさに傑作。構成は古典的で、終楽章のロンドも懐かしいほどだが、それだけに王道の力を秘めていて、分かりやすく、直裁だ。それにしても、ホセ・セレブリエールとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団はどういうわけで、これほど共感豊かにグラズノフの交響曲を再現するのだろ?驚いてしまう。
 「四季」も名演。私が、もう一方でよく聴くアシュケナージ盤が一本気な演奏なのに比し、セレブリエールは細かい情景描写に専心している。そのためかCDトラックがシーン別に細かく割り振ってあるのも生きていて、とてもいいサービスになっている。

交響曲 第5番 ピアノ協奏曲 第1番
ウェラー指揮 ベルギー国立管弦楽団 p: エッカルトシュタイン

レビュー日:2023.3.22
★★★★★  「グラズノフ入門」にも適した1枚でしょう
 イギリスのヴァイオリニストで、指揮者としても活躍したワルター・ウェラー(Walter Weller 1939-2015)が、ベルギー国立管弦楽団を指揮して、グラズノフ(Aleksandr Glazunov 1865-1963)の下記の2作品を収録したアルバム。
1) ピアノ協奏曲 第1番 ヘ短調 op.92
2) 交響曲 第5番 変ロ長調 op.55
 2005年頃の録音。
 1)のピアノ独奏は、ドイツのピアニスト、セヴェリン・フォン・エッカルトシュタイン(Severin von Eckardstein 1978-)。エッカルトシュタインは、2003年のエリーザベト王妃国際コンクールのピアノ部門で優勝を果たしたピアニストで、当録音は自身初の協奏曲録音となったもの。
 グラズノフの作品の中で、特に優れたものとされる2作品が収録されている。ただ、これらの両曲の立ち位置は、ロマン派の名曲というカテゴリーからは「こぼれ落ちてしまった存在」といったところで、演奏・録音機会とも多いとは言えない。そもそも、グラズノフの保守的な作風が、同時代の作曲家たちと並んだ時に、いまひとつ尖ったところがない感じなので、埋もれてしまうようなところがある。ただ、これらの作品は、シンプルな意味で良く出来た作品で、とても馴染みやすく、ロシア的なメランコリーの要素もあって、個人的には、もっと広く聴かれたり演奏されたりするべきものだと思っている。
 だから、この両曲の収録されたこのアルバムなども、一人でも多くの人に聴いて頂きたいところである。
 ピアノ協奏曲第1番は、ロシア的な仄暗さをたたえた作品だが、エッカルトシュタインのタッチは、十分に楽曲全体の在り様を考慮したもので、刹那的な感情に流されるところはなく、全体に締まった響きである。情感は自然発揚的で立ち上がるが、この楽曲はそれが相応しいように感じる。やはり、ラフマニノフやスクリャービンより、ずっと保守的な土台を持っているものなのだ。特に第2楽章の変奏曲は、変奏ごとの対比感が明瞭に示されていて、分かりやすくまとまった聴き易さをもたらしている。
 交響曲第5番は、ピアノ協奏曲第1番に比べて、オーケストラはエネルギッシュなものをより発散させるようになるが、それはもちろん楽曲の性格によるものが大きい。大きな抑揚で描かれる音楽は、この交響曲の魅力を伝えようという膂力があって、全体的に輝かしい響きになっている。特に終楽章の快活・活発な勢いは忘れがたい。ただ、音の精度という点では、現在の一流オーケストラの録音と比較すると、ところどころ、いまひとつなところが残るが、全体としてはそこまで気にならないだろう。録音はやや乾いたガサガサした感触があり、これはややもったいないところである。
 しかし、録音点数の少ない両曲の魅力について、十分に聴き手に伝えてくれる録音となっており、存在価値のある録音であり、かつエッカルトシュタインの冴えたセンスも堪能できるものであるので、十分推薦に値する。

交響曲 第6番 幻想曲「海」 序奏とサロメの踊り
セレブリエール指揮 ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団

レビュー日:2009.1.1
★★★★★  絶好調のセレブリエールのグラズノフ・チクルス!
 ホセ・セレブリエールとスコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるグラズノフ・シリーズの第4弾で2008年の録音。とにかく素晴らしい内容。これまでグラズノフの交響曲はいまひとつ目立たないジャンルであったけれど、その一因は「これだ」という録音が、わけても国内盤で発売されるものが少なく、曲自体を知る機会がきわめて限定されていたということがある。だから、ワーナーがセレブリエールを起用して、この素晴らしいシリーズを企画し、それをその都度国内盤として発売してくれることがまず嬉しい。
 グラズノフの交響曲第6番はこの作曲家の情熱的な側面が前面に出た楽曲で、セレブリエールの棒のもと、第1楽章からオーケストラは迫力に満ちた音楽を提示する。チャイコフスキーばりの華やかな展開があり、また感傷的な経過句とメロディもなかなか忘れがたい。第2楽章はメランコリーで、グラズノフらしいロシア的情緒とヨーロッパ的洗練の融合を感じることができる。ここではニュアンス豊かな弦が抜群。瀟洒なバレエ音楽のような第3楽章を経て、第4楽章では回想録風の旋律と力強さの交錯が鮮やかに描かれている。裾野の広い豊穣な音色が伸びやかで心地よい。
 幻想曲「海」はヨーロッパ音楽の伝統を踏まえながら、高らかにロマンティシズムを歌い上げた標題音楽で、ドビュッシーの「海」やリムスキー・コルサコフの「シェエラザード」を思わせる海の描写力が秀抜。これを表現しきった録音も今までなかったのでは。このメリハリの聴いた演奏と細部まで克明な録音があって、はじめてその魅力が存分に伝わった。ハープの音色の美しいこと。
 序奏とサロメの踊りはどことなく東洋的な雰囲気がありこれまた楽しい曲。早くも続編に期待してしまう一枚。 

交響曲 第8番 プーシキン生誕100年記念カンタータ 抒情的な詩
ポリャンスキー指揮 ロシア国立交響楽団 ロシア国立シンフォニック・カペラ Ms: クヅネツォワ T: グリフノフ

レビュー日:2005.4.17
★★★★★ 北欧音楽フアンには大推薦です
 いまひとつ、CDに恵まれない領域に続々と秀演盤を送りこんでいる、ポリャンスキー。グラズノフの交響曲シリーズは象徴的存在だ。
 このディスクはグラモフォン誌エディターズ・チョイスにも選出 された名盤。交響曲第8番の真価を知らしめた録音といえそうだ。収録曲はグラズノフの「交響曲第8番」のほかに「プーシキン生誕100年記念カンタータ」と「抒情的な詩」の計3曲。
 なんといっても素晴らしいのはグラズノフの最後の交響曲である。これは北の叙事詩といった作品で、チャイコフスキーの第1交響曲やシベリウスの第5交響曲にも繋がる、壮大なロマンティシズムを満喫できる曲なのだ。冒頭、低弦の暖かいベースをばっくにホルンが奏でる郷愁豊な第1主題を聴いただけで、たぶん、シベリウスが好きな人であれば、「なんて素敵なんだろう!」と思うに違いない。2楽章以降も清冽で清潔なノスタルジアが雪原に広がるようなイメージが織り成される。
 シベリウス的な難渋さも持っているかもしれないが、北欧音楽好きにも支持される作風なのは間違いなく、そのようなフアンにはぜひ聴いてもらいたい1枚と言える。

交響曲 第8番 バレエ組曲「ライモンダ」
セレブリエール指揮 ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団

レビュー日:2007.7.14
再レビュー日:2017.4.18
★★★★★ スラヴの交響曲史に思いを馳せる録音
 第8交響曲はグラズノフの最後の交響曲である。しかし、この交響曲を書き上げたとき、まだ彼は若く、その後30年間着手した第9交響曲を完成させなかった。これは、クラシック音楽の歴史でしばしば言われる「不吉なナンバー」を回避したと考える人もいる。(実際は、創作活動自体停滞しているため、シベリウスのように「引退」したという印象が強い)。その第8交響曲は、おそらくグラズノフの交響曲の中でも、第5番と並んで有名で、傑作の名に相応しい作品である。そして、スラヴのいわゆるスラヴ的交響曲史において、とりあえず、その最後を飾った作品という見方も妥当な感じがする。(ラフマニノフがいるけど)。
 ホセ・セレブリエールとロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団は第8交響曲が持っている「郷愁」を鮮やかに描く。冒頭のホルンの美しいメロディが私にはスラヴ交響曲の歴史をたどるような、なつかしさと、過ぎ去った日々への思いに満ちているように聴こえる。典雅な盛り上がりも見事で、グラズノフらしいインターナショナルなしっかりとした交響曲の枠組みを、きちんと締めている。まずは文句のない快演。
 バレエ組曲「ライモンダ」は、ひとむかし前まではグラズノフの代表曲だった。今は「四季」の方が有名だと思うが、もちろん「ライモンダ」も親しみやすい傑作だ。ただ、バレエ音楽といっても、たとえばチャイコフスキーのように軽やかで軽快なところがあったり、ストラヴィンスキーのように野太いリズム感があったりするわけではなく、標題音楽的である。しかし一つ一つの楽曲が親しみやすいし、ハープのソロなどもたいへん聴かせる。なんか噴水かなんかのショウのBGMにするととても合うのではないでしょうか。
 当盤の登場によって、両曲が音楽フアンに浸透するなら、本当に素晴らしい。
★★★★★ セレブリエールによるグラズノフ・チクルス 第2弾
 ホセ・セレブリエール(Jose Serebrier)指揮、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるグラズノフ(Alexander Glazunov 1865-1936)の交響曲全集シリーズの第2弾として、2005年に録音されたもの。収録曲は以下の通り。
1) 交響曲 第8番 変ホ長調 op.83
2) バレエ音楽「ライモンダ」組曲 op.57a
 交響曲第8番はグラズノフの最後の交響曲である。しかし、この交響曲を書き上げたとき、まだ彼は若く、その後30年間着手した第9交響曲を完成させなかった。これは、クラシック音楽の歴史でしばしば言われる「不吉なナンバー」を回避したと考える人もいる。(実際は、創作活動自体停滞しているため、シベリウスのように「引退」したという印象が強い)。その第8交響曲は、おそらくグラズノフの交響曲の中でも、第5番と並んで有名で、傑作の名に相応しい作品である。
 交響曲第8番は魅力にあふれた壮大な作品であるが、その一方で「郷愁」や「不安」といった感情に作用する部分もある。これは、この交響曲が書き上げられた1905年という年が、ロシアにとって「血の日曜日事件」に代表されるように、高まる社会不安を象徴する時期だったことも関係があるかもしれない。とはいっても、グラズノフはショスタコーヴィチ(Dmitrii Shostakovich 1906-1975)ほどには、その芸術に社会との強い結びつきを考える必要はないだろう。
 セレブリエールの指揮により、冒頭のホルンの美しいメロディがすでに郷愁に誘うように美しく染みる。第2楽章が、私には1905年のロシアを反映する音楽に思える。グラズノフの音楽においては、例外と言っていいほどの苦悩が描かれており、セレブリエールはこの点でも楽曲の性格を巧みに描き出している。それだけでなく、典雅な部分での盛り上がりも見事で、グラズノフらしいインターナショナルなしっかりとした交響曲の枠組みも、きちんと引き出していて、文句のない快演となっている。
 バレエ組曲「ライモンダ」は、ひとむかし前まではグラズノフの代表曲だった。今は「四季」の方が有名だと思うが、「ライモンダ」も親しみやすい傑作。ただ、バレエ音楽といっても、たとえばチャイコフスキーのように軽やかで軽快なところがあったり、ストラヴィンスキーのように野太いリズム感があったりするわけではなく、標題音楽的に近い雰囲気を持っている。しかし、組曲として華やかさをよく残すような編曲が行われていて、一つ一つの楽曲が親しみやすいし、ハープのソロなども印象的。ファウンテンショーのBGMを思わせるような心理効果のある音楽であると思う。
 演奏だけでなく、録音も優秀で、これらの曲の代表的な録音であることは間違いない。


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管弦楽曲

序奏とサロメの踊り 劇付随音楽「ユダヤの王」
ポリャンスキー指揮 ロシア国立交響楽団 ロシア国立シンフォニック・カペラ

レビュー日:2007.9.10
★★★★☆ グラズノフは標題的音楽も面白いです
 グラズノフの作品に多くの秀演を録音しているポリャンスキーによる劇音楽の録音。収録曲は、「サロメのための序奏とサロメの踊り」と劇音楽「ユダヤの王」。演奏はポリャンスキー指揮のロシア国立管弦楽団と同合唱団。録音は97年から98年にかけて。
   前者はオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」のために書かれた。重々しい序曲はロシア的な濃厚さがあり、また「踊り」はどことなくエスニックな雰囲気に満ちていて、聴きやすい。「踊り」ではリムスキー・コルサコフを思わせるオーケストレーションや経過句が織り込まれていて、どことなくシェエラザードの中間楽章を思わせるような雰囲気だ。
 「ユダヤの王」はキリストが茨の冠をかぶせられて「ユダヤの王」とあざけられた福音書の一説に基づいた劇の付随音楽。一応詳細な楽曲を記載すると「序奏と合唱~キリストのイェルサレムへの入国」「使徒たちの歌」「第2幕への間奏曲~ピラトの宮殿」「レヴィ人のラッパ」「第2幕の結びの音楽」「第3幕第1場への前奏曲」「第3幕第2場への間奏曲」「シリアの踊り」「第4幕への前奏曲」「羊飼いミュゼット」「詩篇を歌う人々の歌」となる。
 規模の大きい序奏とそれに繋がる壮麗な合唱が一つの聴きどころとなっていて、厳かさや闊達さがありとても聴きやすい作品。グラズノフのバレエ音楽と同じように楽しむことができる。「使徒たちの歌」はギリシア正教の教会音楽を思わせる。また「第3幕第1場への前奏曲」や「第3幕第2場への間奏曲」では巡礼のようなおごそかな行進や、あるいは葬送曲といった雰囲気が出ていて、グラズノフの標題音楽における豊かな表現力を知ることができる。「羊飼いミュゼット」のような短い繋ぎの音楽も、楽器の音色をたくみに活かしていて面白く聴けた。
 華やかな合唱を伴った終曲はロシア的な力強さを持ち合わせていて、楽しい。全曲を通してみると、合唱の入っている部分が少ないため、大部分は純粋器楽の管弦楽曲のような構成感を持っており、その点もグラズノフらしいと感じた。


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協奏曲

協奏曲全集
vn: パイン p: ロマノフスキー vc: ウェン=シン・ヤン サックス: シーソン hrn: セロフ セレブリエール指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団

レビュー日:2011.7.15
★★★★★ グラズノフの協奏作品を高品質な録音・演奏でまとめた価値あるアルバム
 ホセ・セレブリエール(Jose Serebrier)指揮ロシア・ナショナル管弦楽団によるグラズノフ(Alexander Konstantinovich Glazunov 1865-1936)の協奏曲全集。セレブリエールは2004年から09年にかけて、ロイヤル・スコティッシュナショナル管弦楽団と素晴らしいグラズノフの交響曲全集を完成させていて、当盤は嬉しい続編といった按配。収録曲と独奏者を書いておこう。
1) ヴァイオリン協奏曲 vn: レイチェル・バートン・パイン(Rachel Barton Pine)
2) ヴァイオリンと管弦楽のための「瞑想曲」  同上
3) チェロと管弦楽のための「吟遊詩人の歌」 vc:ウェン=シン・ヤン(Wen-Sinn Yang)
4) チェロと管弦楽のための「コンチェルト・バラータ」  同上
5) ピアノ協奏曲 第1番 p:アレクサンダー・ロマノフスキー(Alexander Romanovsky)
6) ピアノ協奏曲 第2番  同上
7) サクソフォン協奏曲 sax:マルク・シーソン(Marc Chisson)
8) ホルンと管弦楽のための「夢」 hrn:アレクセイ・セロフ(Alexey Serov)
 グラズノフのこれらの楽曲を質の高い演奏と録音で集約した立派なディスクだ。「作品を知る」「ソリストを堪能する」の2つの面で充実している。
 パインは1974年シカゴ生まれのヴァイオリニスト。1992年のバッハ国際ヴァイオリン・コンクールを始め、数多くのコンクールで最上位を獲得している。1995年に大事故に巻き込まれたが、車椅子で復帰し、以後ジャンル横断的な活躍をしている。ヤンは1965年スイス生まれのチェリスト。24才にしてバイエルン放送交響楽団の首席奏者となった。ロマノフスキーは1984年ウクライナ生まれのピアニスト。この録音の後に開催された2011年のチャイコフスキー・コンクールでは第4位となった。
 グラズノフのピアノ協奏曲は隠れた逸品だ。グラズノフは、交響曲ではインターナショナルな作曲手腕を発揮したように思うが、ピアノ協奏曲ではロシアの郷愁に満ちたセンチメンタリズムを吐露していて、スクリャービンやラフマニノフの名協奏曲にも通じる味わいがある。そのたっぷりしたロマンティシズムを卓越した手腕で解き放ったロマノフスキーのソロは抜群の響き。豪華でありながら、節度を保っていて、若き俊英ロマノフスキーの奥深さが感じられる。ハイペリオンから出ているクームズ(Stephen Coombs)の名演と比べても遜色ない。
 サクソフォン協奏曲は珍しい。グラズノフが新しい楽器を気に入り、弦楽合奏の伴奏により書いた協奏曲。なめらかな旋律が心地よく、柔らかいテイスティングの逸品になっている。今や一般的なレパートリーとなった感のあるヴァイオリン協奏曲はではパインのセンス豊かな音楽性が魅力。


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