トップへ戻る

フレスコバルディ



器楽曲

フレスコバルディ (レスピーギ編) 前奏曲とフーガト短調 トッカータとフーガイ短調 パッサカリア (ハロルド・バウアー編) カッコウの主題によるカプリッチョ  レイハ ピアノのための36のフーガOp.36より第14曲「フーガ-ファンタジア」(フレスコバルディのテーマによる)  フレスコバルディ(フェインベルク編) トッカータ集よりカンツォーナ カプリッチョ・パストラーレ (バルトーク編) トッカータ フーガ  リゲティ 「ムジカ・リチェルカータ」より第11曲「リチェルカーレ」~フレスコバルディへのオマージュ
p: バルトリ

レビュー日:2012.12.19
★★★★☆ 原曲の普遍性が奈辺にあるかを問う。企画性を買いたいディスク。
 イタリア初期バロックの作曲家、ジローラモ・フレスコバルディ(Girolamo Frescobaldi 1583-1643)は、鍵盤楽曲の作曲家として重要な存在。その作品は、オルガンやチェンバロのために作曲されたもので、トッカータ、カプリッチョ、ファンタジア、カンツォーナ、リチェルカーレ、舞曲、変奏曲などがあるが、中でも最も有名な曲集として「音楽の花束Fiori musicali 」が挙げられる。本アルバムは、イタリアのピアニスト、サンドロ・イーヴォ・バルトリ(Sandro Ivo Bartoli 1970-)による、後世の作曲家たちが遺したフレスコバルディへのオマージュ的ピアノ作品集。その企画性だけで、十分に聴いてみる価値のあるディスク。2012年録音。収録曲を以下に示す。
1) フレスコバルディ(レスピーギ編) 前奏曲とフーガ ト短調
2) フレスコバルディ(レスピーギ編) トッカータとフーガ イ短調
3) フレスコバルディ(レスピーギ編) パッサカリア
4) フレスコバルディ(ハロルド・バウアー編) カッコウの主題によるカプリッチョ
5) レイハ ピアノのための36のフーガOp.36より第14曲「フーガ-ファンタジア」(フレスコバルディのテーマによる)
6) フレスコバルディ(フェインベルク編) トッカータ集よりカンツォーナ
7) フレスコバルディ(フェインベルク編) カプリッチョ・パストラーレ
8) フレスコバルディ(バルトーク編)トッカータ
9) フレスコバルディ(バルトーク編)フーガ
10) リゲティ 「ムジカ・リチェルカータ」より第11曲「リチェルカーレ」~フレスコバルディへのオマージュ
 編曲(作曲)に係っているのは、レスピーギ(Ottorino Respighi 1879-1936)、バルトーク(Bartok Bela 1881-1945)、リゲティ(Ligeti Gyorgy Sandor 1923-2006)の他、往年のイギリス生まれのドイツ人ピアニスト、バウアー(Harold Bauer 1873-1951)、ベートーヴェンとも親交があったチェコの作曲家、アントニーン・レイハ(Antonin Rejcha 1770-1836)、ソ連のピアニスト、サムイル・フェインベル Samuil Evgenyevich Feinberg 1890-1962)と多士済々である。
 フレスコバルディの鍵盤音楽作品は、かのバッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)にも大いに影響を与えたもので、音楽の理論的展開をいくつかの方法で示した点で歴史的にも重要だ。私もオリジナルの“オルガンで奏された”「音楽の花束」は好きで、時々聴く。また、私はバッハのオルガンのためにかかれた音楽が、多くの作曲家たちによって「ピアノ版」にアレンジされたものも大好きで、よく聴くのだが、そのこともあって、本盤にも同様の悦楽に類する内容を求めていた。しかし、聴いてみると、たしかに美しいのだが、バッハの作品ほどには面白く響かない。これは、編曲の内容にもよるのだけれど、それよりも、むしろ原曲が、バッハほどには普遍性を体得しえていなかったことをより強く感じてしまう。もちろん、作品としての価値はあるのだが、純粋に「聴く側」からの観点で、これらの音楽の質(旋律や展開)そのものが、時代の進展についてこられなくなった部分もあったと感じる。こうなると逆にバッハの偉大さがいよいよ際立つことになるのだが・・・
 最後に収録されているリゲティの作品は、音響的な妙味があったが、わたしには随分ゆっくりしたテンポの演奏に思えた。バルトリの解釈なのかもしれないが、他の演奏も聴いてみたい。
 バルトリの演奏は素朴なもので、際立って特徴的なものを感じさせるものではないが、これらの作品を世に伝えたいという意図はよくわかるもので、共感を覚える。このようなディスクを企画することで、さらにピアノ音楽のレパートリーを広げて欲しい。


このページの先頭へ


音楽史

音楽の花束~聖母のミサ
org: ギエルミ エルケンス指揮 カンティクム

レビュー日:2012.7.5
★★★★★ 対位法によるオルガン曲の祖といえるフレスコバルディの名作
 当盤に収録されているのは、イタリアの初期バロックの作曲家、ジロラモ・フレスコバルディ(Girolamo Frescobaldi 1583-1643)の代表作で全3集からなるミサ曲「音楽の花束(フィオーリ・ムジカーリ;Fiori musicali)」の一つで、「聖母のミサ」の称されるもの。これらの曲集は、オルガン独奏とグレゴリオ聖歌が交互に奏でられるミサ曲の形をとるが、そのオルガン部分がフレスコバルディの作ということになる。
 当盤はオルガン独奏がロレンツォ・ギエルミ(Lorenzo Ghielmi 1959-)、男声合唱がクリストフ・エルケンス(Christoph Erkens)指揮、カンティクムの演奏。1994年の録音。ミラノのシンプリチアーノ聖堂のオルガニストを務めるギエルミは、フレスコバルディ研究家としても第一人者で、未発表作品を発掘するなど功績を収めている。
 フレスコバルディは、劇音楽の分野におけるモンテヴェルディ(Claudio Giovanni Antonio Monteverdi 1567-1643)と並ぶ初期イタリア・バロックを代表する作曲家。ローマのサン・ピエトロ大聖堂でオルガニストを務めた。フレスコバルディの影響はバロック時代の南ドイツのオルガン楽派の性格を決定づけたと言われている。今日では、それは著しく表出力を高めたバロック・オルガンの作曲様式を指し、ドラマティックなトッカータなどの形式を確立したものと考えられる。
 「音楽の花束」では、伝統的な対位法的技法に色彩的で半音階的な和声が加わっていることが特徴的で、聴いていて意表を付くようなコード進行や飛躍の変化がある。フレスコバルディは器楽の分野で新しいバロック的な表出の理念を重んじ、厳格なタクトゥスに基づく記譜された通りの平板な演奏をいましめ、当時のイタリア歌曲であるマドリガルの演奏にならって加減速を用いた表情付け、いわゆる「テンポ・ルバート」の奏法をすすめていたとされる。バッハも「音楽の花束」の写本を携行していたという。おそらく対位法(複数の旋律を齟齬なく音楽に組み込んでいく手法)のオルガン曲における模範として、自作の参考としたことが推察できる。
 当盤は教会の空間的距離感を絶妙の間合いでとらえた録音が秀逸で、フレスコバルディの意図した世界が忠実に再現された感がある。全体に厳かな雰囲気が支配的だが、半音階進行に導かれた歌謡性とこれを支えるテンポがもたらす不思議な「甘さ」が添えられている。ただ、朴訥と聞くグレゴリア聖歌とは大きく印象が異なると言って良い。
 作品に献身的と形容したいギエルミのオルガンはたいへん美しい。すべての空間特性を把握しつくしたようなホールトーンの感触が見事である。この時代から北イタリアで受け継がれた伝統の質感を醸し出しており、麗しい。


このページの先頭へ