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フェインベルク



器楽曲

ピアノ・ソナタ 第1番 第2番 第3番 第4番 第5番 第6番
p: アムラン

レビュー日:2020.4.7
★★★★☆ ロシア・ピアニズムの系譜に埋もれていたフェインベルクのピアノ・ソナタ
 しばしば意表を突くレパートリーを紹介してくれるヴィルトゥオーゾ、マルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)。当盤で手掛けているのは、ロシア・ピアニズムの担い手の一人として活躍しながら、スクリャービン(Alexandre Scriabine 1872-1915)から多大な影響を受けて作曲活動にも精力を注いだソ連のピアニスト、サムイル・フェインベルク(Samuil Feinberg 1890-1962)のピアノ・ソナタ集である。フェインベルクは、その生涯に12のピアノ・ソナタを作曲したが、当盤には、下記の6作品が収録されている。
1) ピアノ・ソナタ 第1番 イ長調 op.1
2) ピアノ・ソナタ 第2番 イ短調 op.2
3) ピアノ・ソナタ 第3番 ト短調/嬰ト短調 op.3
4) ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ短調 op.6
5) ピアノ・ソナタ 第5番 ホ短調 op.10
6) ピアノ・ソナタ 第6番 ロ短調 op.13
 2018年の録音。
 フェインベルクは、スクリャービンの作品と演奏に接する機会があり、大きな影響を受けたという。これらのピアノ・ソナタは1915年から1923年にかけて書かれていて、その創作活動がスクリャービンの没年に開始されている点も意味深である。
 これらの6曲に聴くその作風は、スクリャービンの初期作品からの影響を感じさせる部分が多い。全6曲中、第3番を除く5曲が単一楽章構成をとる。第3番だけが3つの楽章から成り、規模が大きい。この第3番の第3楽章の熱血的な音楽の本流は、スクリャービンの創作活動初期作品を思わせる。この楽章だけで、当盤における演奏時間で13分を越えており、その間、ひたすらに爆発的な熱が供給され続けることは、当盤における大きな聴きどころの一つと言えるだろう。また、第4番は、スクリャービンのピアノ・ソナタ第3番を彷彿とされるフレーズが浮かび上がり、これもはっきりと影響を感じ取る部分となる。
 第1番と第2番は、いずれも地味ながら、優美さを感じさせる風情があり、技巧的な音響のアヤもある。第5番と第6番は、印象派を思わせるソノリティが入ってきており、それはスクリャービンが辿った音楽的進化をなぞるようで興味深い。
 アムランの演奏は、至難な部分であってもそれを感じさせない。第6番における頻繁な和音の扱いの確かさ、それによる描き分けの鮮明さなど見事である。ただ、その一方で、これらの楽曲には、より音色的な幅を広げたアプローチが相応しいのでは?と私には感じられるところも多かった。楽曲の性格からか、アムランの精密な演奏は、時として一様さをもたらし、1つの曲における濃淡の工夫があれば、もっと面白く響く楽曲なのではないか、という気がしてならない。これらの楽曲は、他に録音がほとんどない状況であるので、貴重な録音であることは違いないが、楽曲が演奏家に求める芸術的な表現性という点で、咀嚼しきれていないものがあるように感じられる。


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