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ディーリアス



管弦楽曲

ブリッグの定期市 幻想曲「夏の庭で」 歌劇「村のロメオとジュリエット」から「楽園への道」 北国のスケッチ 2つの水彩画(フェンビー編) 小管弦楽のための2つの小品(春初めてかっこうを聞いて 河の上の夏の夜) ダンスラプソディー 第1番 第2番
マッケラス指揮 ウェルシュ国立歌劇場管弦楽団

レビュー日:2006.7.25
★★★★★ 現代における理想的なディーリアスの演奏・録音です。
 フレデリック・ディーリアス(Frederick Delius 1862-1934)は、イギリスの作曲家であるが、その作品の普及にあたっては指揮者のトーマス・ビーチャムの献身的とも言える理解と共鳴が果たした役割は絶大である。作曲者と演奏家の緻密な関係の一つの典型である。ビーチャムが頻繁に演奏することで、ディーリアスの作品は広く母国イギリスで愛されるようになった。ここに収録された楽曲においても、ディーリアスによるオーケストレーションに加筆や修正が加えられたものが多い。
 さて、その後、ビーチャムの後を継いでディーリアス指揮者となったと言えるのがマッケラスである。マッケラスの指揮はまず音色が豊かである。これは弦楽器陣の合奏が奏でる音色がきれいな深みを常に持っている点が大きく、そのため奥行きが感じられる。これらはディーリアスののどかな叙情性に、安易ではない様々な含みを与えることになり、その結果作品がよりスケールアップしたように思えるのだ。ディーリアスに酔えるだけでなく、熱烈なフアンの多いマッケラスの手腕が堪能できる2枚組でもある。録音は89年から91年にかけて行われている。


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協奏曲

ディーリアス ピアノ協奏曲  アイアランド ピアノ協奏曲 伝説
p: レーン ジョーンズ指揮 アルスター管弦楽団

レビュー日:2006.3.21
★★★★☆ ディーリアスとアイアランドの聴く機会の少ない作品
 ハイペリオンの隠れたロマン派のピアノ協奏曲を発掘するシリーズの39枚目。もはやこのレーベルの一つの顔といえるシリーズに成長した感がある。今回はフレデリック・ディーリアス(Frederick Delius 1862-1934)とジョン・アイアランド(John Ireland 1879-1962)の作品を収録。ピアノはパイアース・レイン。デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ指揮のアルスター管弦楽団。
 ディーリアスのピアノ協奏曲は普通1907年版が用いられるが、ここでは「オリジナル・ヴァージョン」と銘打って1904年のスコアによる収録。最大の違いは07年版で全面削除された第3楽章がこの04年版では聴ける。
 アイアランドはイギリスの作曲家でオルガニスト。フランス近代の影響も混ざるロマン派の末流に位置する作曲家と考えていい。ピアノ協奏曲は1930年の作品。
 ディーリアスの作品はなんともとりとめのない作品で、お世辞にも完成度の高い作品とは言えないが、その散漫さの中にもディーリアス特有の詩情や牧歌的風景は散見できる。
 むしろ作品としては後ろに収められているアイアランドのものの方が面白いだろう。ピアノと管弦楽のための作品である「伝説」はドイツ的な厳かさを持った作品で、冒頭のホルンの夢幻的な雰囲気は親しみ易い。ピアノ協奏曲も様々な書法を見せており、特に第2楽章は独奏ヴァイオリンと室内楽的なたおやかな雰囲気を出すなど、工夫のある作品になっている。

チェロ協奏曲 ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 パリ~大都市の歌
vc: ウォルフィッシュ vn: リトル マッケラス指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2007.7.10
★★★★☆ ディーリアスの渋い3曲を収録
 ディーリアスの3曲を収録。夜想曲「パリ」(大都市の歌)、チェロ協奏曲、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲。チェロはウォルフィッシュ、ヴァイオリンはリトル、オーケストラはマッケラス指揮ロイヤル・リヴァプールフィル。録音は1991年。
 どれもあまり録音・演奏機会に恵まれない曲だけに、合わせて聴けるのがよい。パリは夜想曲(A Night Piece)と題されるが、特に定義のないジャンルである。ドビュッシーの同名曲とも全然違う。これはディーリアスがパリの印象をまとめたものだが、オーボエが主として旋律線を担っていて、なんともたおやかな曲であり、ディーリアスの手にかかるとパリの印象もこうなるのか、と妙に感心してしまう。
 2曲の協奏曲もディーリアスらしい作品。なぜなら、これらの協奏曲は、独奏者がその技量を如何なく発揮するような目的で書かれたものではないと感じるからだ。ウォルフィッシュの表情豊かなチェロはこれらの曲を存分に、天国的・瞑想的に奏でていて、曲の個性がよく引き出されていると思う。


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声楽曲

海流 告別の歌 日没の歌
Br: ターフェル MS: バージェス ヒコックス指揮 ボーンマス交響楽団 ボーンマス交響合唱団メンバー ウェインフリート・シンガーズ

レビュー日:2009.11.7
★★★★☆ 印象派であり、後期ロマン派であるディーリアスの合唱作品
 フレデリック・ディーリアス(Frederick Delius 1862-1934)の3つの合唱曲「海流」「告別の歌」「日没の歌」の3曲を収録。ヒコックス指揮 ボーンマス交響楽団 ボーンマス交響合唱団メンバー ウェインフリート・シンガーズBr: ターフェル MS: バージェスの演奏。1993年の録音。
 ディーリアスはイギリス音楽の象徴的作曲家の一人であるが、両親はドイツ人であり、またその作品の真価をいちはやく認めた国もドイツであった。ディーリアスの主要な作品のうち、1897年から1907年にかけて初演されたものは、すべてドイツで行われている。戦中のみイギリスで過ごしたが、活躍はほとんどドイツでだった。印象派風でありながらも後期ロマン派の香りを濃厚に湛えている作風もそんなイメージと一致する。
 ディーリアスの作品の個性的な面は和声に不思議な彩を添える半音階の扱いにあり、素朴で保守的ながらも新しい色合いを示す音楽となった。
 当ディスクの収録曲では「海流」が抜群に美しい作品で、冒頭からいかにも不思議な暖かさをたたえた神秘性が支配する。夏の霧のような、それこそディーリアスの世界と思うものだ。幻想的な管弦楽と合唱の中、ターフェルの独唱が圧倒的な存在感を示している。
 他の2曲も暖かみがあり、壮麗なシーンもある曲だが、やや一本調子で、聴き手を飽きさせないというところまでは達していないと思うが、ヒコックス以下、作曲者をよく知る演奏者による解釈は、安定感があり、安心して身を委ねることができる。


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