ドーソン
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ドーソン ニグロ・フォーク・シンフォニー ケイ 幻想変奏曲 ウンブリアの情景 フェイゲン指揮 ウィーン放送交響楽団 レビュー日:2020.8.25 |
★★★★★ 楽曲を知る貴重な機会を提供してくれる良企画。アフリカ系アメリカ人作曲家の管弦楽曲集
アメリカの指揮者、アーサー・フェイゲン(Arthur Fagen 1951-)が、ウィーン放送交響楽団と下記のアメリカの管弦楽作品を収録したアルバム。 ウィリアム・ドーソン(William Dawson 1899-1990) ニグロ・フォーク・シンフォニー 1) 第1楽章 アフリカの絆(The Bond of Africa) 2) 第2楽章 夜中の希望(Hope in the Night) 3) 第3楽章 朝の星と同じように、私を輝かせて!(O, Le' Me Shine, Shine Like a Morning Star!) 4) ユリシーズ・ケイ(Ulysses Kay 1917-1995) 幻想変奏曲(Fantasy Variations) 5) ユリシーズ・ケイ ウンブリアの情景(Umbrian Scene) 2019年の録音。 非常に録音価値のある曲目だ。ドーソン、ケイともにアフリカ系アメリカ人の作曲家であり、いま、彼らの文化的価値について言及する録音という試みは、芸術面のみならず、社会的な意義も持ち合わせているだろう。 ドーソンの「ニグロ・フォーク・シンフォニー」は、黒人霊歌のフレーズを題材とし、伝統的な西洋音楽書法による手続きをへて管弦楽作品としたもので、初演者であったストコフスキー(Leopold Stokowski 1882-1977)に高く評価されたもの。しかし、以後、現在まで、録音されたものはネーメ・ヤルヴィ(Neeme Jarvi 1937-)によるものだけであった。 当盤を聴くと、その状況は作品にとって不遇なものであったと言わざるをえないだろう。3つの楽章がいずれもホルンによる主題提示を持つ。ホルンという楽器の音色が、遠い地への郷愁を感じさせるのに絶好ということも含めて、音楽的効果は高い。以後、古典的な音響をベースに、音楽は展開する。特に感動的なのは第2楽章で、そこでは悲しい色合いの主題が、滔々と歌われ、大きなクライマックスを築き上げているが、その情感は深く切ない。フェイゲンのアプローチは、ヤルヴィの録音に比べると、遅めのテンポで細部を克明に表現したものである。特に第2楽章はヤルヴィに比して遅いテンポを採用している。聴く限り、その効果は、豊かな情感という形で、十分なものとして得られていると思う。全体を通して、演奏は古典的な調和が重んじられており、かつロマン的な色彩感もよく引き出している。少し薄みを感じるところはあるが、必要な個所での低音部の重みもしっかり感じられる。力強さではヤルヴィ盤の方がふさわしいが、当演奏には全体の練度の高さや洗練を感じる。楽曲の魅力がよくわかり、少なくともハミルトン・ハーティ(Sir Hamilton Harty 1879-1941)の「アイルランド交響曲」と同等な評価が得られて良い作品だろう。 併録の2曲は、私は初めて聴いた。これらの作品を見出し、「ニグロ・フォーク・シンフォニー」と一緒のアルバムに収録しようという思い付きはまさに慧眼だ。ユリシーズ・ケイの作風は新古典主義と言われるが、2曲の収録曲のうち特に注目したいのは「幻想変奏曲」である。主題と13の変奏からなるとされているが、それらはシームレスであり、主題、各変奏の明瞭な区分けは難しい。また、その連続性は、きわめて精緻な書法で書かれており、不協和音やクラスター和音といった現代的な作法を取り入れながらも、調和的で均整がとれている。「ニグロ・フォーク・シンフォニー」と比較すると、音楽のもつテーマの抽象性ははるかに高いと感じられる。一方で、郷愁的、あるいは悲歌的な色彩において、両作品には親近性があり、作曲者の由来と併せて興味深い結果を示している。「ウンブリアの情景」はイタリア旅行の印象から手掛けた作品(ウンブリアはイタリアの州名)であるが、思いのほか重々しい楽想であり、不穏さがあるが、幻想変奏曲より新古典主義の傾向が強く、中央ヨーロッパ的な響きが重んじられている。 |