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ドアティ



現代音楽

オーケストラのための「メトロポリス・シンフォニー」 ピアノとオーケストラのための「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」
ゲレーロ指揮 ナッシュヴィル交響楽団 p: ウィルソン fl: グラットン リチャーズ vn: オズレイル

レビュー日:2017.7.3
★★★★★ 知的遊戯満載。アメリカの作曲家、マイケル・ドアティの作品を収録した2011年グラミー賞受賞アルバム
 コスタリカの指揮者、ジャンカルロ・ゲレーロ(Giancarlo Guerrero 1969- 指揮)、ナッシュヴィル交響楽団の演奏で、アメリカの作曲家、ドアティ(Michael Daugherty 1954-)による以下の2作品を収録したアルバム。
1) メトロポリス・シンフォニー(レックス/クリプトン/MXYZPTLK/オー、ルイ!/レッド・ケープ・タンゴ)
2) ピアノと管弦楽のための「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」(早送り/涙の列車/夜の蒸気)
 2)のピアノ独奏はテレンス・ウィルソン(Terrence Wilson)。また1)ではいくつかの独奏楽器が活躍し、ヴァイオリンがメアリー・キャスリン・ヴァン・オズレイル(Mary Kathryn van Osdale)、2本のフルートが エリック・グラットン(Erik Gratton)とアン・リチャーズ(Ann Richards)によっている。
 これは楽しいアルバムだ。まずこの音楽の由来について書かせていただくと、「メトロポリス・シンフォニー」は「スーパーマン」の生誕50年を記念して書かれた作品とのこと。・・と知ったふうなことを書きながら、もうしわけないが、私はスーパーマンの原作を読んだことも無ければ、映画を観たこともないのである。しかし、その概念は、巷にあふれる情報から、摂取しないわけにはいかない。それくらい「スーパーマン」というのは、「誰でもしっている存在」であり、共有のイメージを想起することだって、わけないことなのである。
 しかし、このシンフォニーの5つの楽章がもつ副題(原作を知る人にはおなじみの名称だそうだ)にまで通じているわけではない。一応、レックス・ルーサーは主要な悪役の一人、クリプトンはスーパーマンが生まれた星、MXYZPTLKもまた悪役の名、といった感じだそうだ。しかし、あくまで「楽曲」として聴いたイメージで感想を述べることになる。
 音楽はとても面白い。とにかく知的遊戯とでも呼びたくなるエンターテーメント性が抜群で、しかも音楽としての体裁もきちんとしている。冒頭のホイッスルの導入から、映画音楽的な緊迫感を孕んだ盛り上がり、技巧的なパッセージを消化しながら、見事な高揚感を得る様も鮮やかで、私は特にこのシンフォニーの第1楽章は傑作だと思う。引き続く楽章も性格的で面白い。どこか警告的な雰囲気に満ちた音楽が、様々な技法をこなして鮮やかに連続していく。なかなかの手腕である。第3楽章のフルートの使い方の面白さ、第5楽章のハバネラのリズムに乗って奏でられるグレゴリオ聖歌の「怒りの日」。どれも面白いし、しかも全体的に、なぜかアメリカ大衆的な趣というか、色合いがあって、常に音楽が外向きな感じがするのである。これは、なかなかの娯楽作だし、知的なエッセンスがあちこちに忍ばせてあるのが楽しい。
 「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」は蒸気機関車を描いたピアノ協奏曲といったところだが、こちらも機動的な音楽の進展が見事。技術的な多才さ、各奏者の技術も見事なもので、ノリの良い進行が気持ち良い。第2楽章で抒情的なニュアンスをかもして、第3楽章でエネルギッシュに進む辺りも堂に入った音楽の在り様を感じさせる。ウィルソンの熱さのあるピアノも相応しい。
 オーケストラの音色も程よいローカル色のある感じで、一流の豊饒さというわけではないのですが、楽曲の雰囲気によくあっていて良い。ライヴならではの白熱も手伝って、実に楽しい一枚となっています。


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