トップへ戻る

ツェルニー



器楽曲

ツェルニー 指使いの技法(50番練習曲)  ヘラー 4つの練習曲  リスト 2つの演奏会用練習曲 他
p: ヌーブルジェ

レビュー日:2021.12.27
★★★★★ ツェルニーの練習曲に、鑑賞芸術作品としての価値があることを気づかせてくれる録音
 2004年のロン=ティボー・コンクール第3位に入賞したフランスのピアニスト、ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ(Jean-Frederic Neuburger 1986-)によるツェルニーの50番練習曲全曲を中心とした2枚組のアルバム。収録曲は以下の通り。
【CD1】
 ツェルニー(Carl Czerny 1791-1857) 指使いの技法(50番練習曲) op.740
1-32) 第1番~第32番
【CD2】
(続き)
1-18) 第33番~第50番
 リスト(Franz Liszt 1811-1886) 2つの演奏会用練習曲
19) 第1番 変ニ長調「森のざわめき」
20) 第2番 嬰ヘ短調「小人の踊り」
 リスト 3つの演奏会用練習曲 より
21) 第2番 ヘ短調「軽やかさ」
 ヘラー(Stephen Heller 1813-1888) ウェーバーの「魔弾の射手」による4つの練習曲(フライシュッツ=エチュード) op.127
22) 第1番
23) 第2番
24) 第3番
25) 第4番
 2006年の録音。
 なかなかCDで聴く機会のない楽曲が並んでいる。とはいえ、メインとなっているツェルニーの50番練習曲は、ピアノ上級者にはおなじみの楽曲で、例えば、音大に進学するくらいのレベルであれば、どこかで弾く機会のある曲集だ。
 ツェルニーの曲集は、奏者の「運指の上達」という目的に特化した作品であって、決して鑑賞芸術のために書かれた作品ではない。しかし、当盤で聴くヌーブルジェの演奏は、闊達で清涼。実に気持ちが良くて鮮やかで、楽曲がもっている鑑賞芸術としての価値を、考え直させるような内容だ。演奏が明瞭で正確という以上に、表現意欲にあふれていて、一つ一つの楽曲の「持ち味」が、きわめて雄弁に表現されている。こうして聴いてみると、第14番や第28番はカッコイイし、第43番はメロディ自体に十二分な魅力がある。ツェルニーの作品が生まれたのち、しばらく時が過ぎてから、様々なロマン派の作曲家たちが「練習曲」の作曲をこころみるわけだが、その「先駆け」と言えるものが、当曲集の中に確実に存在している。そのことに覚醒的になれるという点で、とても価値のある録音だ。考えてみれば、ただの指使いのための練習曲であっても、弾くときには、音楽的な表現性は必ず伴うものであり、作曲という行為は、その担保があってこそ、行われるものなのだ。ヌーブルジェの快録音を聴いて、私は、すでに広く世に知られた曲集であるにも関わらず、新たに魅力的な楽曲集を発見したかのような喜びを味わった。
 2枚目のディスクの末尾には、ロマン派の作曲家による「練習曲」が加えられている。このうち、ハンガリーのピアニストであったヘラーが書いたものはたいへん珍しい。私も初めて聴いた。ほとんど録音されることはないのではないか。この楽曲はウェーバー(Carl Maria von Weber 1786-1826)の歌劇「魔弾の射手」の旋律を転用して練習曲としたもので、旋律がよく知られているものだけに、親しみやすさのある作品となっており、現在では、ほぼ埋もれた作品と言って良い当該曲にとって、幸運な録音といった感じだ。
 リストの作品では、「森のざわめき」における3連符の健やかな流れや、「小人の踊り」のスピーディーかつ細やかな立ち回りが見事。このピアニストの「趣味の良さ」が良く出た録音となっている。


このページの先頭へ