クープラン
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クープラン クラウザン曲集 選集 デュファイ クラウザンのための4つの小品から p: タロー レビュー日:2008.5.3 |
★★★★★ 大クープランの魅力を十二分に伝える好企画!
2001年に録音し、世界で5万枚以上売れたラモーのクラウザン曲の「ピアノによるアルバム」をリリースしたタローによる、今度はクープランのアルバム。録音は2006年。 フランソワ・クープラン (Francois Couperin 1668-1733) はフランスの作曲家。バッハと同じように優れた音楽家を輩出した家系で、フランソワは「大クープラン」とも呼ばれる。ルイ14世の信頼も厚く名声高かったと言われる。バッハが教科書とした「クラウザン奏法」は大クープランの著したもの。イタリア音楽の取り込みを図りながらも、オペラを書かず、クラウザンのための曲を多く残したのも特徴だ。彼のクラウザンの曲は第1から第27までを数える組曲が代表作で、各組曲が、少ないもので4曲、多いもので20曲以上の小曲からなっている。ここでタローはこれらの組曲を構成する小曲集から、特にピアノによる演奏効果の高いと考えられる作品を選択し、素晴らしいアルバムに仕立て上げた。前作と考えられるラモーのアルバムを凌駕するとも思える充実した内容になっている。 たとえば、8トラック目に収録された第15組曲第5曲「居酒屋のミュゼット」は実に軽快で多彩な音色を交えたピアノならではの演奏効果に満ちている。ここでは高音、低音に様々な装飾的技巧が繰り広げられ、まるでショパン、リストのヴィルトゥオーゾ時代がいち早く咲き乱れたような豪華さだ。また14トラック目に収録された第10組曲第1曲「凱旋」は太鼓(tambour)のリズムに支えられて、力強い前進力に満ちた音楽で、勇壮な鼓舞する響きに満ちている。9トラック目の第13組曲第2曲「葦」のような有名曲ももちろん充実した響き。何度も聴きたくなる好企画で演奏者、スタッフの抜群の感性の賜物と言えます。 |
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クープラン クラウザン曲集 1 p: ヒューイット レビュー日:2013.7.24 |
★★★★★ ヒューイットによるクープラン・シリーズ第1集
カナダのピアニスト、アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt 1958-)によるフランソワ・クープラン(Francois Couperin 1668-1733)の鍵盤音楽作品集。全部で3集がリリースされており、当盤は2002年に録音された第1集となる。収録曲を示そう。 クラヴサン曲集 第1巻第6組曲 1) 収穫をする人々 2) 恋煩い 3) 鳥のさえずり 4) ベルサン 5) 神秘的なバリケード 6) 牧歌(羊小屋) 7) おしゃべり女 8) 羽虫(蚋) クラヴサン曲集 第1巻第18組曲 9) ヴェルヌイユの女(アルマンド) 10) ヴェルヌイユの娘 11) 修道女モニク 12) 騒がしい男 13) 感動(いじらしい女) 14) ティク・トク・ショック(オリーヴしぼり機) 15) 片足の不自由な元気者 クラヴサン曲集 第1巻第8組曲 16) 女流画家(女ラファエル) 17) 女流詩人(イタリアの女) 18) クラント1 19) クラント2 20) 風変わりな人(サラバンド) 21) ガヴォット 22) ロンドー 23) ジグ 24) パッサカリア 25) ラモン嬢 クープランは、ルイ14世時代の宮廷音楽家で、その代表作品群は対位法的なクラウザン(ハープシコード)曲とされる。1716年に著した「クラブサン奏法 L'art de toucher le clavecin」はクープランによって運指法等をまとめたもので、バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)やヘンデル(Georg Friedrich Handel 1685-1759)にも多大な影響を与えた。フランスのバロックを代表する作曲家であり、ロココ芸術を代表する音楽家である。 クープランのクラウザン曲は、第1番~第27番の組曲としてまとめられており、その27の組曲が、発表年ごとにそれぞれ第1巻~第4巻に大分類されている。 すなわち、 ・第1巻; 1713年に発表された第1組曲から第5組曲 ・第2巻; 1717年に発表された第6組曲から第12組曲 ・第3巻; 1722年に発表された第13組曲から第19組曲 ・第4巻; 1730年に発表された第20組曲から第27組曲 それで、これらのナンバーを用いて楽曲を示す際は、組曲の番号だけで十分分類できるのだけれど、慣例的に第〇巻、第〇組曲というふうに表記する。ちなみにクープランはこの「組曲」を「オルドル(ordre; 騎士団の意)」と称している。 ヒューイットはこれらの楽曲についてすべて検討し、中から「ピアノでの演奏に適している」という作品を選び出し、全3集のアルバムとした。中で、この第1集で選ばれたものは、いずれも「組曲まるごと全部」選ぶ方式で、3つの組曲の全曲を弾いている。 とはいっても、組曲の構成は、例えばバッハのものとくらべて、はるかに自由であり、全曲を通して弾く強い必然性はない。これらの楽曲の旋律は、明快で、音程の飛躍が少ない流れるような線をもっていて、そこに様々な装飾音が施されているが、ヒューイットの演奏は、優美な響きで、ゆったりしたテンポにより、伝統的な舞曲形式からの乖離を示していると言える。 ちなみに、クープランのクラウザン曲をピアノで弾いた名盤として、アレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud 1968-)による2006年録音のアルバムもある。そちらでは、まったく組曲の括りとは関係なく19曲が抜粋されていたが、本盤との重複曲として、「5)神秘的なバリケード」、「14)ティク・トク・ショック」、「24)パッサカリア」の3曲がある。いずれもヒューイットの方が、間合いを大きくとり、ゆったりとした演奏になっており、タローとの間に大きな感性の違いが感じ取れるので、機会のある方には、ぜひ聴き比べも楽しんでほしいと思う。 |
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クープラン クラウザン曲集 2 p: ヒューイット レビュー日:2013.7.25 |
★★★★★ ヒューイットによるクープラン・シリーズ第2集
カナダのピアニスト、アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt 1958-)によるピアノによるフランソワ・クープラン(Francois Couperin 1668-1733)の鍵盤音楽作品集。全部で3集がリリースされており、当盤は2003年に録音された第2集となる。収録曲を示そう。 クラウザン曲集 第4巻第25組曲 1) 空想にふける女 2) 神秘的な女 3) モンフランベール夫人 4) 勝利したミューズ 5) さまよう亡霊たち クラウザン曲集 第4巻第21組曲 6) 慕わしき王妃 7) 跳躍 8) クープラン 9) ハープ型(口論した女) 10) 小さな皮肉や クラウザン曲集 第4巻第24組曲から 11) 毒槍(運命の矢) 12) 二重生活者(移り気な人 or パッサカリアの動き) クラウザン曲集 第4巻第26組曲 13) 病み上がりの女(回復) 14) ガヴォット 15) ソフィ 16) とげのある女 17) パントマイム クラウザン曲集 第4巻第27組曲 18) 上品な女 19) けしの実 20) 中国風(中国人たち) 21) 機知 この第2集の収録曲には特徴があり、いずれもクープランが1730年に発表した第4巻の楽曲が取り上げられている。これらの作品は、クープランがクラウザン曲を書き続ける中で、次第に伝統的な舞曲形式から離れ、、装飾音の簡素化、半音階的和声の使用により調性の幅をひろげ、特にリズムの点で特徴を打ち出したものたちで、ヒューイットはこれがピアノ演奏への適切な素材になると考えたに相違ないと思う。各曲がそれぞれ絵画的、あるいは文学的な表題を持っていることは、後の印象派の興りを連想させるが、そのフランスにおける歴史的伝統の祖を、これらの楽曲に見ることが出来ると言えるだろう。 ヒューイットの穏やかで、いかにも情緒的に安定した表現は、これらの音楽のピアニスティックな側面を強調していて魅力的に響く。特にこれらの1730年の作品には、深い憂いの情緒を宿したものが多く。ヒューイットは抒情豊かにこれらを表現していて美しい。 また、第1集のレビューでも書いたのだが、私にとって、クープランのこれらの曲のうち、アレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud 1968-)による2006年録音のアルバムに収録されているものは、そちらがデフォルトとなって強く印象に残っている。ここでも参考までに重複曲を書いておくと、「1)空想にふける女」「5)さまよう亡霊たち」「8)クープラン」の3曲である。タローの方が直線的でややスリリングな味わいになっている。これと比較して、当盤(ヒューイット)の演奏は、強弱の起伏より緩急の起伏を主眼としており、タローのインテンポでの疾走感に対し、落ち着いたじっくりした味わいとなっている。そのため、両者の演奏で曲自体の印象も大きく変わるので、出来れば、双方の優れた演奏を聴いてほしいと考える。 |
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クープラン クラウザン曲集 3 p: ヒューイット レビュー日:2013.7.25 |
★★★★★ ヒューイットによるクープラン・シリーズ第3集
カナダのピアニスト、アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt 1958-)によるピアノによるフランソワ・クープラン(Francois Couperin 1668-1733)の鍵盤音楽作品集。全部で3集がリリースされており、当盤は2004年に録音された第3集となる。前2集において、組曲丸ごと弾くという基本線があったのだが、この第3集は、いままで取り上げなかった残りの組曲の中から、特に抜粋した単品による「選集」という体裁になっている。その曲目を以下に記す。 クラウザン曲集 第3巻第13組曲 1) 花開くゆり 2) 葦 3) 胸飾りのリボン 4-15) フランス人気質(ドミノ) 16) 煉獄の魂 クラウザン曲集 第3巻第14組曲から 17) 恋するうぐいす 18) おじけた紅ひわ 19) 嘆きのほおじろ 20) ささいなこと クラウザン曲集 21) 第1巻第2組曲から「幸せな想い」 22) 第3巻第15組曲から「子守歌、またはゆりかごの中の愛」 23) 第2巻第10組曲から「メザンジェール」 24) 第3巻第19組曲から「プラチナ色の髪のミューズ」 25) 第1巻第4組曲から「目覚まし時計」 26) 第1巻第3組曲から「お気に入り(2拍子のシャコンヌ)」 27) 同 「いたずらな女」 28) 第3巻第16組曲から「軽率な女」 29) 同 「結婚、愛」 30) 第2巻第7組曲から「メヌトゥ嬢」 第3巻第13組曲のみ全曲収録ということになる。また、本盤では、クープランの鍵盤音楽の中でも一番良く知られていると思われる「葦」も収録された。「フランス人気質(ドミノ)」はそれがまたさらに12の曲に分かれており、仮面舞踏会の様子を通して人々を描くというスタイル。クープランの鍵盤音楽には一つ一つこのようなタイトルによる意味づけが行われており、標題音楽としての性格を打ち出している点も注目されるところだろう。そういった意味で、その細かい12曲についても、タイトルを知ることは参考になると思うので、以下に記載させていただこう。 4) 純潔-見通せない色のドミノの中に 5) 恥じらい-ばら色のドミノの中に 6) 情熱-とき色のドミノの中に 7) 希望-緑色のドミノの中に 8) 誠実-空色のドミノの中に 9) 忍耐-灰色のドミノの中に 10) 恋やつれ-紫色のドミノの中に 11) 媚-色とりどりのドミノの中に 12) 年老いた伊達男と時代後れの守銭奴-緋色と枯葉色のドミノの中で 13) 気のよいかっこう-黄色のドミノの中で 14) 無言の嫉妬-モール風の灰色のドミノの中で 15) 狂乱、または絶望-黒いドミノの中で ぜひ、これらのタイトルと見比べながら本盤を楽しんでいただきたいと思う。ヒューイットの演奏は前述のような標題性に伴う感覚的な豊穣さや装飾性を健やかに引き出しながら、あわせてそれらを制御する知的な節度感を伴ったもので、クープランのこれらの音楽の表現形態として、非常に高度なものとなっていると感じられる。 また、第1集及び第2集のレビューでも書いたのだが、現時点でクープランのクラウザン音楽におけるピアノ録音という観点で、もう一つ外せないのがアレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud 1968-)による2006年録音の名盤である。当盤との重複曲としては、「2)葦」「22)子守歌、またはゆりかごの中の愛」「24)プラチナ色の髪のミューズ」の3曲となる。 全3集を通じて、タローとの比較で面白い点がある。ヒューイットはクープランの全27の組曲の詳細を検討し、現代ピアノでの表現に適していると考えた作品を取り上げ録音した。そして結果として数にして3割以上の作品について、録音したことになる。にもかかわらず、同様にピアノ向けの作品を19曲選んだタローのディスクとは、全体を通じて9曲しか重複がなかったという点である。 私もクープランの鍵盤作品の全曲を聴いたわけではないので、はっきり仮説を立てられるわけではないので、一応は両者の「ピアノ演奏」へのスタンスの違いが反映されたものだと思う。そういった点で、他のピアニストが同様の試みをした際には、「どの曲を弾くのか」という点も含めて注目したい。 |
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四重奏ソナタ「サルタン」 ヴィオールと通奏低音のための第1組曲 第2組曲 子守唄 荘厳さ センペ指揮 カプリッチョ・ストラヴァガンデ gamb: ベルンフェルド レビュー日:2013.7.9 |
★★★★★ クラウザン(鍵盤楽器)作品だけではないクープランの魅力
クラウザン(ハープシコード)の楽曲で知られるフランス・バロック中期から後期を代表する音楽家フランソワ・クープラン(Francois Couperin 1668-1733)の室内楽を集めたアルバム。収録曲は以下の通り。 1) 四重奏ソナタ「サルタン」(ニ短調) 2) ヴィオールと通奏低音のための第1組曲 3) 子守唄、またはゆりかごの中のいとしい子 4) ヴィオールと通奏低音のための第2組曲 5) トリオ・ソナタ「荘厳さ」(イ長調) アメリカのハープシコード奏者、スキップ・センペ(Skip Sempe 1958-)が指揮とハープシコード演奏を担当し、器楽は、古楽合奏団であるカプリッチョ・ストラヴァガンデ(Capriccio Stravagante Orchestra)の団員による演奏。ヴィオラ・ダ・ガンバ(viola da gamba)奏者として、ジェイ・ベルンフェルド(Jay Bernfeld 1952-)が参加している。1993年の録音。 クープランはルイ14世の信任の厚い音楽家で、1710年頃にはすでに国民的人物の1人とされていた。しかし、公の官職においては、必ずしもめぐまれていなかったのは、健康上の理由、社交的でない性格、同輩の族柘など、いろいろな説がある。対位法的なオルガン曲、クラウザン曲を得意とし、1716年に、運指法や姿勢、演奏者の心構え等をまとめた著名な「クラブサン奏法 L'art de toucher le clavecin」を書いたが、これはバッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)、ヘンデル(Georg Friedrich Handel 1685-1759)らに大きな影響を与えた。 さて、クープランという作曲家で特徴的なのは、まずジャンルである。彼が手がけたものは、ほとんどが鍵盤楽器のための音楽で、その他に室内楽や声楽曲があるが、オペラや大規模なオーケストラ曲を手掛けることはなかった。そのため、現代では、クープランは「小形式」のサロン的な宮廷音楽の作家と見なされることが多い。次にそのスタイルであるが、当時の音楽趣味を二分していた「イタリア流」と「フランス流」の統合が主眼にあったと考えられる。すなわち、彼は対位法などのフランスの伝統音楽の基礎を持ちながら、アルカンジェロ・コレッリ(Arcangelo Corelli 1653-1713)やパオロ・ロレンツァーニ(Paolo Lorenzani 1640-1713)といったイタリア音楽の主流を学び、フランスにおけるトリオ・ソナタを確立するに至った。これらの功績は、本盤に収められた器楽合奏曲の性格に顕著に反映されている。 クープランの優雅で装飾性に満ちた音楽は、知的な節度感などの点で、典型的なロココ芸術ともいえる。そこに深い情感や憂愁を宿した音楽こそが、クープランが到達したものである。 収録されているヴィオールと通奏低音のための第1組曲は1728年に出版されたものだが、冒頭に「プレリュード」を置き、続いて六つの舞曲を演奏する古典的な教会ソナタの様式に準じながら、イタリア的な音色や歌謡性を備えていて、彼の書法を典型的に示すものだろう。 当盤は、録音が良好で、各楽器のこまやかな機微が精緻に再現されており、室内楽的な均質性を保ちながら、楽器の特性を活かした演奏は、ヴィヴィッドで魅力に満ちている。個人的には9トラックに収録されている「子守唄、またはゆりかごの中のいとしい子」の憂いに満ちた美観は、このアルバムの白眉ではないかと思う。 死後にその功績が一旦忘れられたクープランであるが、20世紀以降、クラウザン曲を中心に、その価値は大いに見直された。当盤に収録された室内楽においても、その高貴で香しい芸術は、十分に堪能できる。 |