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コレルリ



音楽史

合奏協奏曲 全曲
ベズノシウク指揮 エイヴィソン・アンサンブル vn: ベズノシウク

レビュー日:2013.4.16
★★★★★ コレルリにより完成した「合奏協奏曲」の姿と価値を、十全に表現した秀演
 イギリスのバロック・ヴァイオリン奏者パブロ・ベズノシウク(Pavlo Beznosiuk 1960-)が、自らディレクターを務めるエイヴィソン・アンサンブル(Avison Ensemble)と録音したアルカンジェロ・コレルリ(日本語ではコレッリとも表記)(Arcangelo Corelli 1653-1713)の合奏協奏曲op.6全集。2011年録音。CD2枚組。
 エイヴィソン・アンサンブルは、1985年に結成されたイギリス、ニューカッスルのピリオド楽器によるオーケストラ。ちなみに「エイヴィソン」の名は、18世紀のニューカッスルの作曲家チャールズ・エイヴィソン(Charles Avison 1709-1770)にちなんだもの。
 ベズノシウクとエイヴィソン・アンサンブルは、すでにLinnレーベルからいくつか注目すべきアルバムをリリースしているが、このたびは、2013年に没後300年を迎えたイタリア・バロックを代表する作曲家、コレルリにターゲットを当て、室内楽を順次録音していくプロジェクトだとのこと。なかなか期待の大きい企画だ。
 op.6の合奏協奏曲集は、全12曲(第1番ニ長調、第2番ヘ長調、第3番ハ短調、第4番ニ長調、第5番変ロ長調、第6番ヘ長調、第7番ニ長調、第8番ト短調「クリスマス協奏曲」、第9番ヘ長調、第10番ハ長調、第11番変ロ長調、第12番ヘ長調)からなる。「合奏協奏曲」という形式は、コンチェルティーノ(concertino)と呼ばれる独奏(単独の楽器とは限らない)と、コンチェルト・グロッソ(concerto grosso)と呼ばれる全合奏が、交代しながら進行するというもので、バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)のブランデンブルグ協奏曲など名作が多い。コレルリは、「合奏協奏曲」に、4から6楽章により1曲を構成してする形を定着させた人物であると考えられている。
 コレルリ以前には、同様の室内楽作品は、「トリオソナタ」と称される形式で書かれることが多かった。すなわち旋律楽器2つと通奏低音楽器1つによる3声部による音楽である。しかし、op.6の12曲は、2つの旋律楽器と、5部からなる弦楽合奏の対比により音楽がつくられる。また、これらの作品は、構成という観点では「教会ソナタ」もしくは「室内ソナタ」と称される形式で書かれており、これが“コレルリによる合奏協奏曲の完成”という業績と考えられている。ここでは、12曲のうち前半8曲が「教会ソナタ」、後半4曲が「室内ソナタ」と呼ばれるものになる。「教会ソナタ」では「緩-急-緩-急」の基本構成となる一方で、「室内ソナタ」は急速楽章から開始され、かつ舞曲を含んだ組曲になる。「教会ソナタ」の場合、本来は舞曲を含まない4楽章構成をとるわけだが、コレルリはしばしば舞曲風楽章を挿入した。これは、フランスのスタイルの影響であり、コレルリは、経過的で自由なスタイルの楽章を挿入することで、楽曲に変化を与えたとされている。「室内ソナタ」の形式は、のちにヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi 1678-1741)によって、急-緩-急の近代的な3楽章構成へとさらに進化していくことになる。
 コレルリの合奏協奏曲の場合、コンチェルティーノの部分は、一貫して2つのヴァイオリンと通奏低音(コンティヌオ)という編成で、2つの合奏群の音色と音量の対比によって効果を与えている。この点では、バロックの「合奏協奏曲」群の中でも、コレルリのものは古典的なものに該当する。
 さて、それでは当盤の代表的な特徴を挙げよう。一つは録音の秀逸さである。きわめて明晰で、音の空間把握が良好。各楽器の距離感が的確に再現されていて、臨場感に溢れている。もう一つは柔らかく洗練されたサウンドである。ピリオド楽器による奏法は、時として鋭角的で、攻撃的な側面を印象づけることが多いと思うが、ペズノシウクの作り出す響きは、柔和で、内省的な慎ましやかなところがあり、これが美徳として聴こえてくる。そのため、アンダンテ系の楽章では、その透き通った情感が、ヘンデルの高貴さを思わせるように響くし(「教会ソナタ」群の冒頭楽章に注目されたい)、スピーディーな楽章では、快活で活発な息遣いが自然な起伏で奏でられている。
 以上の特性によって、コレルリの音楽の魅力を伝えると同時に、今後のヘンデルやヴィヴァルディによる発展へのイマジネーションをも刺激する演奏となっており、音楽史的な俯瞰というマクロな視点においても、内容の濃い演奏になっており、充実した素晴らしい内容だと思う。

ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 全曲
vn: ベズノシウク エイヴィソン・アンサンブル

レビュー日:2013.4.16
★★★★★ コレルリ没後300年となる2013年に是非聴きたいアルバムの一つ
 Linnレーベルによるアルカンジェロ・コレルリ(日本語ではコレッリとも表記)(Arcangelo Corelli 1653-1713)の没後300年の目玉企画は、イギリスのバロック・ヴァイオリン奏者パブロ・ベズノシウク(Pavlo Beznosiuk 1960-)と、イギリス、ニューカッスルのピリオド楽器によるオーケストラ、エイヴィソン・アンサンブル(Avison Ensemble)のによるコレルリの室内楽シリーズである。
 当盤はその第2弾にあたるもので、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集op.5全12曲を収録したもの。2012年の録音。CD2枚組。通奏低音を担当するのは、エイヴィソン・アンサンブルのメンバーであるポーラ・シャトーノフ(Paula Chateauneuf 1958- リュート・ギター)、リチャード・トゥニクリフ(Richard Tunnicliffe チェロ)、ロジャー・ハミルトン(Roger Hamilton ハープシコード・オルガン)の3人。
 12曲のソナタの内訳は、第1番ニ長調、第2番変ロ長調、第3番ハ長調、第4番ヘ長調、第5番ト短調、第6番イ長調、第7番ニ短調、第8番ホ短調、第9番イ長調、第10番ヘ長調、第11番ホ長調、第12番ニ短調「ラ・フォリア」となる。なんといっても有名なのは、第12番「ラ・フォリア」で、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)の「コレルリの主題による変奏曲」等でも用いられた有名な旋律による主題と23の変奏からなる作品である。
 これらのソナタは、ヴァイオリンとコンティヌオ(通奏低音)という編成によっており、合奏協奏曲op.6との違いは、楽曲構成ではなく楽器編成の点にある。つまり、独奏楽器が合奏協奏曲ではヴァイオリン2本であるのに対しソナタでは1本であることと、コンティヌオが合奏協奏曲では弦楽合奏であるのに対しが、ソナタではハープシコード(オルガン)、チェロ、ギターによっていること。また、一方で、楽曲構成は、二つの形式を踏襲しているという点で、合奏協奏曲とソナタは共通している。ソナタの場合、前半6曲が教会ソナタで、基本は「緩-急-緩-急」の構成であり、一方、7番から11番までの5曲が「室内ソナタ」で、舞曲を伴った組曲風のものとなっている。しかし、終曲(第12盤)が変奏曲(ラ・フォリア)となっている点は、合奏協奏曲にはない特徴的なところであり、かつ、この音楽が抜群に有名な部分となっているため、両者の際立った違いに感じられよう。
 奏法という観点では、これらのソナタは、ハイ・ポジションや重音奏法、ピチカートなどを避けており、そういった意味でヴィルトゥオジティの誇示ではなく、アカデミックな手堅さを示したもので、そのスタイルは後世に大きな影響を与えたとされる。均整のとれた構造、優美でリリックな表現、控え目な技巧などは、ボローニャ楽派の特徴として知られるものである。コレルリの活動拠点はローマだったとは言え、若き日にボローニャで学んだコレルリは、そういった面からも、広義のボローニャ楽派と呼んで差支えないと思う。
 当盤におけるベズノシウクのヴァイオリンは、緩急豊かで、活き活きとした表情付けが鮮烈でありながら、厳かな慎みをも感じさせ、いかにも音楽を深いところで演奏しているという感慨を得る。シャトーノフのギター(リュート)の響きがいい。通奏低音でありながら、時として、強い主張を感じさせる響きを織り交え、近代的な均衡性のある室内楽的なステレオタイプな演出を施してくれる。そして、そのような演奏で「一層面白く」聴ける音楽となっていることも興味深い。コレルリの古典性一辺倒ではない楽才を、この演奏効果は証明してくれる。


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