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コープランド



交響曲

コープランド 交響曲 第3番  ハリス 交響曲 第3番
ヤルヴィ指揮 デトロイト交響楽団

レビュー日:2007.9.10
★★★★☆ アメリカ音楽史を象徴する2つの交響曲です
 きわめて守備範囲の広いネーメ・ヤルヴィによるアメリカの重要な交響曲2曲を収録した注目のアルバムだ。ロイ・ハリス(Roy Harris 1898-1979)とアーロン・コープランド(Aaron Copland 1900-1990)のそれぞれ第3交響曲である。どちらもナディア・ブーランジェに師事した明るい作風の作曲家と言えそうだ。
 ハリスは7曲の交響曲を遺しているが、この第3番はアメリカ音楽史でも重要な位置取りにある作品だろう。全曲で16分少々であるが、その作風はドイツでもイギリスでもスラヴでもない、まさに新大陸から響く新しい楽想と構想に満ちている。曲は5つの部分からなるが、ほぼ切れ目なく演奏される。独特の自由度を持ち合わせ、主題の扱いも斬新である。フレーズの受け渡しに独特の間隙があり、そこからまた発生した亜流フレーズがその後も有機的に扱われる。決して主題自体は深刻でなく、むしろ明るいが、全体を通したとき不思議と意味深な感情を与えてくれる。ヤルヴィの指揮ぶりもよい。この特徴的な交響曲の脈絡をよく把握していると思われる。
 コープランドの40分に及ぶ交響曲はずっと有名だ。ことに「市民のためのファンファーレ」を用いた終楽章は多くの人が楽しく聴けるだろう。よく言われるようにアメリカの楽観的愛国的なものが作風に反映しているというのは、たぶんその通りだと思う。ただ、こちらのヤルヴィの演奏はややウェイトが軽く高音部が硬い感じがある。部分的に音色に不ぞろいな感じが出るのはどうしてだろう?ちょっと気になる点ではある。というわけで、演奏自体はハリスの方が見事。選曲も面白く巧みなのだが、コープランドはヤルヴィならもっとできたのでは?と思うところがあり、星4つ・・・


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管弦楽曲

バレエ音楽「アパラチアの春」 「ロデオ」 「ビリー・ザ・キッド」
T.トーマス指揮 サンフランシスコ交響楽団

レビュー日:2005.5.4
★★★★★ コープランドの魅力的作品をサービスよく収録
 アーロン・コープランド(Arron Copland 1900-1990)はニューヨーク生まれのユダヤ系ロシア人。代表作は管弦楽曲「エル・サロン・メヒコ」であるが、ジャズの手法を取り入る他、「はつかねずみと人間と」「われらの町」「赤い子馬」等の映画音楽を担当するなど多彩な活動をした。1921年からフランスへ3年間音楽留学している。
 ここでは代表的な3つのバレエ音楽を収録。新古典主義の象徴である「アパラチアの春」(1944)はピュリツァー賞受賞の名曲で、ゆたかな楽想と、楽しい色彩に溢れる。「ビリー・ザ・キッド」(1938)はアメリカ民謡を巧みに取り入れながら、機知に富んだ展開で華やか。中間部にティンパニにより全曲を引き締めるように刻まれるリズムは象徴的。(「あまりにも有名な「われらの町」のファンファーレに似ている)。「ロデオ」(1942)はその名の通りロデオを題材にしたバレエ音楽で土俗的な力強さに溢れ、終結部では歓声も挿入される。
 やはりリリシズムに満ちた「アパラチアの春」が最も充実しているが、どれもとても楽しい作品だ。ティルソン・トーマスの洗練されながらもリズムを思いきりよく刻む方法はまさにぴったり。

バレエ音楽「ロデオ」 ダンス・パネルズ エル・サロン・メヒコ キューバ舞曲
スラトキン指揮 デトロイト交響楽団

レビュー日:2017.6.30
★★★★★ コープランドの魅力をストレートに伝えてくれる一枚
 レナード・スラトキン(Leonard Slatkin 1944-)指揮、デトロイト交響楽団によるコープランド(Aaron Copland 1900-1990)の管弦楽曲集。収録曲は以下の通り。
1) バレエ音楽「ロデオ」全曲(カウボーイの休日、畜舎の夜想曲、ランチハウス・パーティ、土曜の夜のワルツ、ホーダウン)
2) ダンス・パネルズ
3) エル・サロン・メヒコ
4) キューバ舞曲
 2012年の録音。
 廉価レーベル、ナクソスの功績は、プライス・ダウン以外にも、様々なアーティストを発掘したり、あるいは、それまで注目されていなかったジャンルを埋めたりと、多面的である。
 スラトキンは、すでに定評ある指揮者で、しかもコープランドの作品には、深い理解と愛着を示してきた人だがら、その録音というのはあるいみ王道的なものではあるのだが、コープランドの楽曲の持つある種の大衆性やどこか他のクラシック作品と違う、ある意味B級的なノリを、メジャー・レーベルが正面から取り上げる機会は多くはなかったから、やはり、当録音も、考えてみると、いかにもナクソスらしい一枚と感じてしまう。
 収録曲では「エル・サロン・メヒコ」が特に有名なのかもしれないが、いわゆる通俗的なわかり易さで人気なのは「ロデオ」で、その中の楽曲には吹奏楽の定番曲として親しまれているものもある。あらためて、デトロイト交響楽団の豊饒なトーンで聴いてみると、これまた楽しいものである。畜舎の夜想曲のジャズ・バンド風だったり、カントリー風だったり、ランチハウス・パーティにかけて濃厚にノスタルジックな雰囲気が現れたり、とにかく聴いた瞬間すぐに分かる音楽のオン・パレードといった感じで、なにか難しいことを考えたり、作曲者の芸術的思索に思いを巡らせたりする必要は、まったくないと言っていい。本当に明るい、楽しい音楽である。スラトキンは管弦楽を良く鳴らし、リズム処理の機敏さもお手の物。もっと型をくずしても面白いんじゃないだろうかと思うところもあるが、不満という形になるようなものではない。
 作曲者後年の作品となるダンス・パネルズでは、より深い音楽表現に接することとなる。7つのパーツからなる組曲のような体裁であるが、デトロイト交響楽団は、理想的と言ってよい管弦のバランスで音楽を構築している。楽曲の性向も、「ロデオ」とコントラストのある対をなすようで、構成的にも映える。
 おなじみの「エル・サロン・メヒコ」は、この楽曲の華やかさを十全に表現したもの。天性のメロディストであったコープランドの仕掛けが気持ちよく決まっていく。中にあって「キューバ舞曲」はややリズム的な鋭さを欠いた表現に思えるが、それでももちろんコープランドの楽曲として楽しむための水準を十分に上回った演奏・録音である。
 たまにはこのような音楽で、「古き佳き」的なイメージを彷彿とする世界に思いを馳せるのも悪くはないだろう。


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