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カントルーブ



歌曲

カントルーブ オーヴェルニュの歌  エマニュエル ボーヌ地方のブルゴーニュの歌
S: アップショウ ナガノ指揮 リヨン国立歌劇場管弦楽団

レビュー日:2026.6.29
★★★★★ リヨンの色彩に彩られた素朴でチャーミングな歌唱が曲集の理想像を描き出す
 ドーン・アップショウ(Dawn Upshaw 1960-)のソプラノ独唱、ケント・ナガノ(Kent Nagano 1961-)指揮、リヨン国立歌劇場管弦楽団によるカントルーブ(Joseph Canteloube 1879-1957)の「オーヴェルニュの歌(Chants d'Auvergne)」をメインとした2枚組アルバム。カントルーブより18歳年上で、カントルーブと同様にフランスの古い民謡や伝統音楽を研究し、それに基づいたソプラノ独唱とオーケストラのための作品を書いたモーリス・エマニュエル(Maueice Emmanuel 1862-1938)の「ボーヌ地方のブルゴーニュの歌(Chansons bourguignonnes du Pays de Beaune)」が併録されている。フランス第2の大都市・リヨンは、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏の首府であり、オーヴェルニュは、リヨンの西側に広がる地域名となる。
【CD1】
 カントルーブ オーヴェルニュの歌
1) 第2集 第1曲 羊飼いのおとめ(Pastourelle)
2) 第4集 第2曲 オイ・アヤイ(Oi,ayai)
3) 第5集 第1曲 むこうの谷間に(Obal, din lo coumbelo)
4) 第5集 第2曲 羊飼い娘よ、もしお前が愛してくれたら(Pastouro, se tu m'aymo)
5) 第5集 第5曲 一人のきれいな羊飼い娘(後悔)(Uno jionto pastouro (Regret))
6) 第4集 第6曲 カッコウ(Lou coucut)
7) 第4集 第1曲 ミラベルの橋のほとりで(Jou l'pount d'o Mirabel)
8) 第4集 第4曲 チュ・チュ(Chut, chut)
9) 第4集 第5曲 牧歌(Pastorale)
10) 第3集 第1曲 紡ぎ女(Lo fiolaire)
11) 第2集 第4曲 捨てられた女(La delaissado)
12) 第5集 第6曲 お行き、犬よ(Te, l'co, te!)
13) 第3集 第2曲 牧場を通っておいで(Passo pel Prat)
14) 第3集 第3曲 せむし(Lou boussu)
15) 第3集 第4曲 こもり歌(Brezairola)
【CD2】
1) 第1集 第2曲 バイレロ(Bailero)
第1集 第3曲 3つのブーレ(Trois Bourrees)
 2) 泉の水(L'aio de rotso)
 3) 間奏曲
 4) どこへ羊を放そうか(Ound'onoren gorda?)
 5) 間奏曲
 6) あちらのリムーザンに(Obal, din lou limouzi)
7) 第2集 第2曲 アントゥエノ(L'Antoueno)
8) 第2集 第3曲 羊飼いのおとめと若旦那 (La pastrouletta e lou Chibalie)
第2集 第5曲 2つのブーレ(Deux Borrees)
 9) わたしには恋人がない(N'ai pas ieu de mio)
 10) 間奏曲
 11) うずら(Lo Calhe)
12) 第3集 第5曲 女房持ちはかわいそう (Malurous qu'o uno fenno)
13) 第4集 第3曲 子供をあやす歌(Per l'efon)
14) 第5集 第2曲 わたしが小さかったころ(Quand z'eyro petitoune)
15) 第5集 第3曲 むこう、岩山の上で(La-haut, sur le rocher)
16) 第5集 第4曲 おお、ロバにまぐさをおやり(He! Beyla-z-y dau fe)
17) 第5集 第8曲 みんながよく言ったもの(Lou diziou be)
18) 第1集 第1曲 野原の羊飼いのおとめ(La Pastoura als camps)
 エマニュエル(Maueice Emmanuel 1862-1938) ボーヌ地方のブルゴーニュの歌(Chansons bourguignonnes du Pays de Beaune)
19) わたしが村を出たとき(Quand j'ai soti de mon villaige)
20) 昔あるところに侍女がいた(Il etait une fille, une fille d'honneur)
21) 8月のリンゴの木(Le Pommier d'Amout)
22) クリスマス(Noel)
23) 聖母マリアの嘆き(Complainte de Notre-Dame)
24) さようなら、羊飼いの娘よ(Aidieu, bargeire!)
 【CD1】は、1994年に、【CD2】は1996年に録音され、それぞれ発売当初は別売されたもの。
 オーヴェルニュ地方の地主の家に生まれたカントルーブは、幼少期から大自然とそこに生きる羊飼いたちの歌に親しんで育った。パリのスコラ・カントルムで、ダンディ( Vincent d'Indy 1851-1931)に師事し、フランス近代の管弦楽書法を身に着けた彼は、素朴で哀愁を帯びた民謡の旋律に、オーケストラの豪華な伴奏を伴わせるというアイデアを思いつき、1923年から1955年までの約30年間にわたり、全5集・計27曲の「オーヴェルニュの歌」が断続的に生み出されることになる。オック語と呼ばれるオーヴェルニュ地方の方言の言い回しと、映画音楽てきな輝かしく豪壮なオーケストラサウンドの組み合わせは、見事な成功を収めた。完成した曲集は、「バイレロ」に代表される牧歌なものや、「アントゥエノ」のように活力に溢れるもの、「子守歌」のように抒情的なものが含まれ、またブーレと呼ばれるこの地方の3拍子の舞曲が配されるなど、多彩なものとなった。
 当盤は、これらの曲集の録音としては、キリ・テ・カナワ(Kiri Te Kanawa 1944-)の録音などとともに、代表的なものとして指おられるものの一つで、情感をたっぷりと引き出したロマンティックな キリ・テ・カナワの録音と比較すると、より素朴さを感じさせるもので、装飾性を控えつつも、透明な情感を満たす演奏であり、原曲の姿を想起させる部分の多いものと言える。ケント・ナガノがリヨン国立歌劇場管弦楽団から引き出しているオーケストラ・サウンドもそれに相応しく、特に木管の高鳴るような響き、ピアノのトーンの輝きは、私たちが「ふるさと」という言葉から想起する自然豊かな土地を渡る風を思わせるさわやかさである。
 曲順も、有名曲が集中しないように、かつ曲間の緩急により、聴き手に適度な刺激を与えるよう工夫されたものであり、実際に聴いていて、とても心地よく全曲を通して聴くことができる。きわめて作曲背景に精神的な親近性があり、聴き味も共通しているエマニュエルの作品が一緒に収録されていることも、良いサービスだ。
 冒頭の「羊飼いのおとめ」は、代表曲として知られる1曲で、牧歌的かつ幻想的な雰囲気から、やわらかい陽ざしのような歌唱が降りてくる印象的なはじまりとなった。「羊飼い娘よ、もしお前が愛してくれたら」では、細やかなフレーズの運動的な魅力が、なめらかかつ高雅な雰囲気で描写され、心地よく美しい。「一人のきれいな羊飼い娘(後悔)」も絶品で、この演奏を聴いていると、遠い昔の子ども時代の日々を思い起こすような、果てしなく遠くに延びていく旅情に近いものが漂っており、心を動かされる。「チュ・チュ」のようなチャーミングでシャンソン風の歌では、アップショウのコミカルでリリカルな声質が、音楽としての節度を保ちつつ、自在に繰り広げられ楽しい。
 言わずもがなの超有名曲「バイレロ」は、非常にゆっくりしたテンポを設定しているが、これが演奏の作り出す広やかな雰囲気と絶妙にマッチしている。その結果、大自然を描写した牧歌として、雄大なスケールを導き出している。3つのブーレに収められている「どこへ羊を放そうか」にも注目したい。オーケストラの豊かなサウンドが奏でる幻想的で情感に満ちた旋律をバックに、まっすぐに伝わってくるアップショウの歌唱が、大地の広さや豊かさといった想像を掻き立てながら、情感を高めていく。「あちらのリムーザンに」は打楽器の色彩感豊かなオーケストラが特に聴きモノ。「アントゥエノ」も有名曲だが、これも壮大なスケールが素晴らしい。このアルバム、随所で空のような「広がり」を聴き手に感じさせ、それが、郷愁にも通じる作用を持っている。
 原題となった民謡の由来を喚起させつつ、その情景や情感を補強する豊かなオーケストラと、アップショウの自然で素朴な歌唱は、この曲集の録音として、一つの理想像を実現したものと感じられる。


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