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ブゾーニ



協奏曲

ピアノ協奏曲
p: アムラン エルダー指揮 バーミンガム市交響楽団

レビュー日:2004.2.14
★★★★☆ 世紀の難曲です
 ブゾーニのピアノ協奏曲は長大であり、ピアノ・パートは「難しい、と言うも愚かなほど難しい」(長木誠司)という。規模が大きく楽章によっては合唱まで登場する。
 1,3,5楽章は三つの建築物を意味し、間の二つはスケルツォとタランテラを配した構成。三つの建物はそれぞれ、"Graeco-Roman"、"Egyptian"、"Babylonian"とされているらしいが・・・とにかく聴いてみないことには、という曲。
 アムランのテクニック、すごいです。。


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器楽曲

ブゾーニ モーツァルトによるジグ、ボレロと変奏曲 3つのアルバムの綴り ショパンの前奏曲による10の変奏曲 バッハによる幻想曲 エスキースより「クリスマスの夜」  バッハ (ブゾーニ編) シャコンヌ いざ来たれ、異教徒の救い主よBWV659 目覚めよと呼ぶ声ありBWV645 主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶBWV639 汝のうちに喜びありBWV615 われらが救い主、キリストよBWV665
p: ペンティネン

レビュー日:2012.1.10
★★★★★ ブゾーニの「編曲」と「オリジナリティ」の両方の魅力を伝えた秀演
 スウェーデンのピアニスト、ローランド・ペンティネン(Roland Pontinen 1963-)による「フェルッチョ・ブゾーニ:モーツァルト,バッハ,ショパンへのオマージュ」と題した、ブゾーニ(Ferruccio Busoni 1866-1924)の編曲ものを中心とする2008年録音のアルバム。
収録曲は以下のとおり。
1) バッハ(ブゾーニ編) シャコンヌ
2) バッハ(ブゾーニ編) いざ来たれ、異教徒の救い主よ
3) バッハ(ブゾーニ編) 目覚めよと呼ぶ声あり
4) バッハ(ブゾーニ編) 主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ
5) バッハ(ブゾーニ編) 汝のうちに喜びあり
6) バッハ(ブゾーニ編) われらが救い主、キリストよ
7) ブゾーニ モーツァルトによるジーグ、ボレロと変奏曲
8) ブゾーニ 3つのアルバムの綴り(チューリヒ、ローマ、ベルリン)
9) ブゾーニ ショパンの前奏曲による10の変奏曲
10) ブゾーニ バッハによる幻想曲
11) ブゾーニ ピアノのためのエスキース~「クリスマスの夜」
 1)は無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番の「シャコンヌ」から、2)~6)はオルガンのための前奏曲として書かれたものをピアノ編曲したもの。7)のジーグはアイネ・クライネ・ナハトムジークの主題を、ボレロはフィガロの結婚第3幕終結部のファンタンゴ(fandango)の主題を用いたもの。変奏はジーグの主題による。9)はショパンの24の練習曲の第20番(ラフマニノフもこの曲に基づく変奏曲を書いた)に基づくもの。10)はバッハのコラール 「キリストよ、汝真昼の光」と「神の子は来たりたまえり」の主題とその変奏による10分程度の大きな曲で、シャコンヌとともにブゾーニの名高い作品と言える。
 ブゾーニの編曲の魅力、その技術的多様性を余すことなく伝える録音。ペンティネンは幅広いジャンルを持つ万能型といえるピアニストだが、ブゾーニ作品にも積極的であり、自信の満ちた落ち着きながらも中庸の美を保ったピアニズムを展開している。シャコンヌ冒頭から、肩肘張ったところのない、むしろ柔らかいトーンであり、いかにもヨーロッパ的なシックなピアノの音だと思う。その木目調とも言える暖かみが、これらの編曲ものをよく馴染ませているように浸透していく。
 個人的に楽曲として好きなのが「ショパンの主題による変奏曲」で、不思議な不安感を感じさせる分散和音などを巧みに用いていて、印象深い。また、「バッハによる幻想曲」で高らかに歌われるコラールや安寧への終結などもドラマチックで楽しめる作品。

後期ピアノ独奏曲集

レビュー日:2013.11.12
★★★★★ 魅力を伝えにくい楽曲に、見事な技巧で立ち向かったアムランの凄味
 カナダのピアニスト、マルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)は、現代最高の技巧を持つと称されるが、そのレパートリーが大変ユニークな点でも注目される。彼によって、アルカン (Charles Valentin Alkan 1813-1888)やゴドフスキー(Leopold Godowsky 1870-1938)といった作曲家の作品の面白さに開眼した人も、多くいるに違いない。私もその一人である。
 そんなアルカンが今回ターゲットにしたのがフェルッチョ・ブゾーニ(Ferruccio Busoni 1866-1924)。ブゾーニはイタリアの作曲家・指揮者でピアニストだった人物で、作曲はヴィルヘルム・マイヤー(Wilhelm Mayer 1874-1923)に師事している。ヴィルトゥオジティに満ちたピアニストでもあった彼は、ピアノ及びピアノを含む作品を多く残した。初期はバッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)、シューマン(Robert Schumann 1810-1856)、メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy 1809-1847)の影響を感じさせるものが多いが、その後、ブラームス(Johannes Brahms 1833-1897)の影響も目立つようになり、最終的にはリスト(Franz Liszt 1811-1886)やワーグナー(Richard Wagner 1813-1883)に対抗する伝統的な様式感を尊重したスタイルに至った。
 しかし、現代では、ブゾーニの功績は、オリジナル作品ではなく、過去の作品のピアノ譜の校訂と編曲を中心に評価されているといっていいだろう。いちばん有名な彼の作品は、バッハのシャコンヌのピアノ編曲であるに違いない。しかし、当然のことながら、相当数のオリジナル作品も残している。今日、これらの作品が顧みられる機会が少ないのは、旋律的な魅力に不足するところがあることと、至難な技巧が要求されるためだと思われる。しかし、技術的要求を、余裕を持ってクリアするアムランのマジックによって、当3枚組CDに収められた「後期」曲集の数々は、息を吹き返したように魅力的な輝きを放っていると感じられた。収録曲を書いておこう。
【CD1】
1-7) 悲歌集BV249
8) クリスマスの夜BV251
9) J.S.バッハによる幻想曲BV253
10) カノン風変奏曲とフーガBVB40
11) ジーグ、ボレロと変奏~「青春に寄す」BV254より
【CD2】
1) ソナチネ第1番BV257
2) ソナチネ第2番BV259
3-7) ソナチネ第3番「幼子のために」BV268
8) ソナチネ第4番「1917年のキリスト降誕の日」BV274
9) ソナチネ第5番「大ヨハン・セバステイアン氏に」BV280
10) ソナチネ第6番「カルメンによる室内幻想曲」BV284
11) インディアンの収穫の歌
12-15) インディアンの日記第1巷BV267
16-18) 3つのアルバムの綴りBV289
【CD3】
1) トッカー夕「前奏曲、幻想曲、シャコンヌ」BV287
2) 序奏BV279
「ピアノ練習曲集」より(3-9)
 3) 前奏曲:アレグロ・フェスティーヴォ
 4) 前奏曲:モデラート・アラ・プレーヴェ
 5) ヴェローチェ・エ・レッジェー
 6) ヴィヴァーチェ・モデラート、コン・プレシジョーネ
 7) モーツアルトの主題による変奏曲(「ドン・ジョヴァンニ」よりセレナーデ」)
 8) モチーフ:アレグロ・リゾリュート
 9) アレグロ
10) ショパンの前奏曲による9つの変奏BV213a
11-17) 多声演奏の訓練のための5つの小品BV296
18) 常勤曲BV293
19-20) アルペッジョのための前奏曲と練習曲BV297
 録音は2011年から2012年にかけて行われている(ただし、J.S.バッハによる幻想曲のみ1998年録音のものが収録されている)。
 いずれもブゾーニらしい、技巧的な作品で、細やかな連符が散りばめられたようなところが多くある。また、フーガのようなバッハを彷彿とさせる古典様式への傾倒を、あわせてみることができる。バッハだけでなく、【CD1】4)でのグリーンスリーヴスの旋律の使用に代表されるように、様々な音楽からの引用がある。グレゴリオ聖歌の断片があったり、バッハの断片があったりする。そういった指摘は、挙げはじめると相当な数になるだろう。ちなみに【CD3】にある「ショパンの前奏曲による9つの変奏」は、ショパン(Frederic Chopin 1810-1849)の「24の前奏曲」第20番の主題によるもので、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943)の「ショパンの主題による変奏曲」の姉妹作と言えそう。
 華やかなのは、やはり一種の「編曲もの」で、例えばソナチネ第6番「カルメンによる室内幻想曲」は、アムランの1994年ロンドンのウィグモアホールにおけるライヴの模様を収めたアルバムにも収録されていたが、原曲の様々な旋律をふんだんに盛り込んだ楽しいもの。一方で、オリジナル曲の「クリスマスの夜」や「インディアンの日記」では、印象派を思わせるソノリティをものぞかせる。
 全般に旋律を朗々と歌い上げるようなものではなく、どちらかとういと散文的で、即興的な面が多い。しかし、やはり見事なのはアムランの手腕で、ともすると散漫な印象になってしまう楽曲を、強固にコントロールし、作品としての体裁を整わせる強力なイニシアティヴを発揮している。
 思えば、長木誠司氏が「難しい、と言うも愚かなほど難しい」と述べたというブゾーニのピアノ協奏曲に、1999年、圧巻の録音をしてみせたのがアムランである。ブゾーニという作曲家には、まだまだ知られざる楽曲、アムランの演奏を待っている楽曲が数多くあるに違いない。そのような残された楽曲たちにも、ぜひアムランの快刀乱麻を断つ録音を期待したい。


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