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ブリテン



管弦楽曲

ブリテン バレエ「パゴダの王子」組曲  マクフィー バリ島の儀式の音楽 2台のピアノと管弦楽のための「タブー・タブアン」
スラトキン指揮 BBC交響楽団 p: ブリテン マクフィー バーリー アレイ

レビュー日:2007.8.27
★★★★★ エスニック情緒満載の痛快無比なアルバムです
 これはかなり面白いアルバム。収録曲は以下の3曲である。マクフィーの「バリ島の儀式の音楽」、2台のピアノと管弦楽のための「タブー・タブアン」、ブリテンのバレエ「パゴダの王子」組曲。
 共通点はずばり「ガムラン」!。コリン・マクフィー(Colin McPhee 1900-1964)はモントリオール出身のカナダの作曲家。ブリテンとは友好が深かった。民俗音楽を研究したマクフィーはなんとこの時代に6年間もバリ島に住んでいた。冒頭に収録された「バリ島の儀式の音楽」は2台のピアノ版ガムランである。しかもこれを弾いているのがマクフィー本人とブリテンである。録音は1941年。まずこの7分ほどの楽曲がめちゃくちゃ面白い。いやー、ピアノでガムランができちゃうんだ、と妙に感心してしまう。
 他は2003年の録音で、演奏はスラットキン指揮のBBC交響楽団、ピアノはバーリーとアレイの二人。2台のピアノと管弦楽のための「タブー・タブアン」がこれまたガムランの傾倒音楽である。さらに西欧の伝統音楽に加えてジャズの要素までをも持ち合わせ、打楽器的に用いられる2台のピアノと色彩感あるオーケストレーションで、まさに音楽文化の融合(わかりやすいぞ!)が行われる。
 負けじとブリテンの作品、バレエ音楽「パゴダの王子」。ここでも第3幕で、バリ島のガムラン音楽を思い切り良く組み込んだシーンが展開される。まさに露骨なマクフィー効果といったところ。なんでもこれが架空の国「パゴダ」の音楽になるのだとか。。。ジャケット写真にデザインされた三重の塔(なんでや!)と「ゲコ」(gecko;バリ島にいっぱいいますよね~)のイメージとあいまって、西欧からみたアジアのエキゾティズムが全開の痛快無比な面白さ満喫のアルバムです!

ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム 歌劇「ピーター・クライムズ」から「4つの海の間奏曲」と「パッサカリア」  ホルスト 組曲「どこまでも馬鹿な男」 エグドン・ヒース
プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団

レビュー日:2008.8.16
★★★★★ イギリス音楽を得意としたプレヴィンの確信に満ちた演奏
 ベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten 1913-1976)は近代イギリスを代表する作曲家で、指揮者、ピアニストとしても高名だった。そのブリテン自身から自作の演奏に関して高い評価を得ていたのがプレヴィンである。ともにクラシックだけでなく映画音楽など多様な活動幅を持っていた点も共通する。
 ブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」は1940年に大日本帝国政府が皇紀2600年を記念して、ヨーロッパ各国政府に依頼し、代表的作曲家に新作を委嘱したことで生まれた作品群の一つ。ちなみにこの他には、リヒャルト・シュトラウスの「皇紀2600年祝典音楽」、イベールの「祝典序曲」、ピッツェッティの「交響曲 イ調」、ヴェレシュの「交響曲 第1番 「日本風 (ヤパン・シンフォニア)」 」がある。ブリテン作品は亡き父の想い出にと銘打たれて作曲された。3楽章からなるが重々しい荘厳さが漂い、祝典的とは言いがたいだろう。時代の空気を敏感に感じ取ったものに思える。ティンパニの痛烈な強打と金管陣の不安感漂う響きが印象的。力作というに相応しいできばえ。
 第二次世界大戦中クーセヴィツキーがブリテンにオペラ作曲を委嘱し、「ピーター・グライムズ」が生まれる(ブリテンは良心的従軍拒否を敢行している)。「ピーター・クライムズ」からの間奏曲は「夜明け」「日曜日の朝」「月光」「嵐」の4曲で、牧歌的で長閑な「夜明け」、夜の雰囲気を描写する「月光」が印象深い。
 同じイギリスの作曲家ホルストの珍しい作品が併せて収録されているが、この作曲家が「惑星」だけではないことを示してくれるチャーミング。「どこまでも馬鹿な男」は「惑星」にも通じるオーケストレーションが楽しめる。「エグドン・ヒース」はヴォーン・ウィリアムズを思わせるどこか荒涼としながらも風の吹きすさぶような音楽世界だ。


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協奏曲

ピアノ協奏曲(1945年版) ピアノ協奏曲(原典版)より第3楽章「レチタティーヴォとアリア」 若きアポロ 左手のピアノと管弦楽のための「ディヴァージョンズ」
p: オズボーン ヴォルコフ指揮 BBCスコットランド交響楽団

レビュー日:2010.5.2
★★★★☆ シャンドス・レーベルを代表する録音です
 ベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten 1913-1976)のピアノと管弦楽のための作品を収録。曲目は、ピアノ協奏曲、テチタティーヴォとアリア、若きアポロ、左手のピアノと管弦楽のための「ディヴァージョンズ」の4曲。ピアノ独奏はスティーヴン・オズボーン(Steven Osborne)、イラン・ヴォルコフ指揮BBCスコティッシュ交響楽団の演奏。録音は2007年。
 目の覚めるような快演奏、快録音だ。ブリテンが作曲家として世界的な名声を上げるのは、1945年の歌劇「ピーター・クライムズ」以降であるが、それ以前の1938年の作品であるこのピアノ協奏曲もたいへん立派な作品。おそらくこの時代のヴィルトゥオーゾ型協奏曲の代表格を言えるものだろう。
 ブリテンの作風は多様性に富み、伝統的な部分、民族的な部分、現代的な感覚が一つの曲の中にミックスして現れてくることもよくある。このピアノ協奏曲もそのような作品。それでもブリテンの「基本的に中庸を重んじる」スタイルであることから、音楽的な効果は保守的な印象で、この時代の作品とは思えないほど調性主義的。第1楽章の冒頭、オーケストラの一撃から突如始まる疾走のような音楽は、どこかラヴェルのピアノ協奏曲の冒頭を思わせる。第2楽章は沈滞なワルツであるが、ピアノより先に独奏ヴィオラが音色を奏でるところなど、ブラームスを彷彿とさせる。第3楽章は「即興曲」と題した多彩な変奏曲で、これに続く終楽章が「行進曲」なのは、いかにもイギリスの音楽だと思う。エルガーをちょっと思わせるところもある。
 「テチタティーヴォとアリア」は、このピアノ協奏曲が発表された当時第3楽章として置かれたもの。のちにブリテンはこの楽章を、現行の「即興曲」と置き換えた。聴き比べてみると、やはり、改訂後の方が充実した音楽になっていることがわかる。「若きアポロ」は勇壮で親しみやすい音楽だ。最後に収録された左手のピアノと管弦楽のための「ディヴァージョンズ」は片腕のピアニストヴィトゲンシュタインのために当時の作曲家が遺した作品群の一つで、曲は13の細かいパーツにわかれている。1曲1曲多彩な作曲技法が楽しめる。「夜想曲」と題された一説など、たいへんロマンティックで美しい。
 オズボーンのピアノソロが凄い。圧巻のテクニックを駆使して、技巧的なパッセージはきわめ速いスピードで正確に弾き抜いている。楽曲そのものが推進性によって造形をキープする要素が強いので、しまった響きが音楽をわかりやすく、ポジティヴなものにしている。オーケストラも曲想に鋭く呼応しており、両者ともノリにのった演奏だ。これらの曲の決定的録音と思う。

チェロ交響曲 組曲「ヴェニスに死す」
vc: ウォルフィッシュ ベドフォード指揮 イギリス室内管弦楽団

レビュー日:2005.5.5
★★★★☆ シャンドス・レーベルを代表する録音です
 ブリテンのチェロ交響曲と組曲「ヴェニスに死す」を収録。ベンジャミン・ブリテンは20世紀を代表するイギリスの作曲家。親しみやすいメロディを重視し、不協和音の使用も度重なる事を避けた。その結果保守的な作風といえる。イギリスを襲った大不況や戦乱を反映した作品も多い。
 このCDのジャケット・デザインはやはり「ヴェニスに死す」の方のイメージからのものだ。これは同名のオペラの組曲で、テノール歌手ピーター・ピアーズとの同性愛を生涯貫いたブリテンの、ヴィスコンティの少年愛映画「ヴェニスに死す」との繋がりはやはり考えてしまう。
 当盤はシャンドスから出たブリテンの名作の名録音。指揮者べドフォードはブリテンのアシスタントを務めていた人物。「ヴェニスに死す」は多様なうなされるような音楽が脈々と続く。やや陰鬱とした感じながら、ヴェニスのゴンドラの歌の引用もあるようで、部分的にほのかなメロディ・ラインが顔を出す。しかし、全般には効果音的な音色が多く、ちょっと映画音楽のようにも聴こえる。
 「チェロ交響曲」はチェロ独奏+オーケストラの4楽章からなる作品だが、協奏曲ではなく交響曲となっている。聴いてみると、なるほど、チェロがいわゆる独奏楽器風に前面に出てくる部分はほとんどなく、全体を保持する一サポートとなっている。全体に低音によった旋律と処理が、この編成と趣向を反映したものにちがいない。


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器楽曲

組曲「休日の日記」 3つの性格的な小品 ノットゥルノ ソナティナ・ロマンティカ 12の変奏曲 5つのワルツ 2つの子守唄 悲歌的マズルカ 序奏とブルレスク風ロンド
p: ハフ

レビュー日:2015.9.3
★★★★☆ 安定感ある解釈で奏でられたブリテンのピアノ独奏曲集
 イギリスのピアニスト、スティーヴン・ハフ(Stephen Hough 1961-)による同郷の作曲家、ブリテン(Edward Benjamin Britten 1913-1976)のピアノ独奏曲集。収録曲は以下の通り。
1) 組曲「休日の日記」 op.5
2) 3つの性格的な小品
3) ノットゥルノ
4) ソナティナ・ロマンティカ
5) 12の変奏曲
6) 5つのワルツ
7) 2つの子守唄
8) 悲歌的マズルカ op.23-2
9) 序奏とブルレスク風ロンド op.23-1
 1990年の録音。
 ブリテンは幼少のころからその音楽的才能をブリッジ(Frank Bridge 1879-1941)によって認められ、専門的な教育を受けた。地元の音楽大学に進んだ彼は、ベルク(Alban Berg 1885-1935)に師事するためにウィーンに行きたいと考えたが、保守的なイギリスでは12音音楽は危険思想とみなされ、学校当局、師であるブリッジ、それに両親の反対にあい、実現しなかったという。その結果、ブリテンの作風は、いかにもイギリス的な中庸を得たもので、和声、音色、リズム感などの表現効果には感覚的な鋭さをみせつつも、不協和音なども決して衝撃的な用い方はされず、旋律は調性的と言って良い。
 ブリテンの作曲活動の中心はオーケストラを伴った楽曲や歌劇であり、ピアノ独奏作品が取り上げられることは少ないだろう。当盤のラインナップを見ても、作品番号が与えられた楽曲が少ないことは、自身の作品の中でも特に重要なものとみなしてなかったふしがある。最も知られるのは、冒頭に収録された組曲「休日の日記」であると考えられる。
 この曲は、冒頭曲の導入など、いかにもオリジナリティがあって、その後も技法に恵まれた多彩な展開があって、ブリテンらしさに満ち溢れた音楽だ。12の変奏曲、5つのワルツ、2つの子守唄は作曲家のキャリアとしては初期のものであるが、中では12の変奏曲が面白い。主題に地味さはあるが、ブリテンらしい飛躍的な感覚を持っていて、その後の変奏も特徴がある。旋律的なものに恵まれているという点では5つのワルツは聴きやすい。
 ノットゥルノやソナティナ・ロマンティカといった作品では、いかにも何ということもないような旋律とも聴けるが、イギリス特有の風情を感じさせるところがユニークで、特にノットゥルノの野の香がするような夜の気配が美しく、印象派の影響を感じさせる。
 ハフの演奏は、これらの楽曲の最高の担い手と呼ぶにふさわしいもので、細やかな音型の変化を機敏に示す奏法、また確信的と感じるダイナミズムにより、ブリテンの曲の変化していく面白さを味わわせてくれる。


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声楽曲

戦争レクイエム
ノセダ指揮 ロンドン交響楽団 ロンドン・シンフォニー・コーラス エルサム・カレッジ少年合唱団 S: ツビラク T: ボストリッジ Br: キーンリーサイド

レビュー日:2016.8.23
★★★★★ 作曲者ゆかりのロンドン交響楽団によるブリテンの名作「戦争レクイエム」、さすがの演奏です。
 ロンドン交響楽団が、その演奏会の模様を収録している自主製作レーベル ”LSO Live” からリリースされたジャナンドレア・ノセダ(Gianandrea Noseda 1964-)を指揮者に迎えてのブリテン(Benjamin Britten 1913-1976)の名作「戦争レクイエム」op.66。2011年のライヴ録音で、CD2枚組。独唱者及び合唱団は以下の通り。
 ソプラノ: サビーナ・ツビラク(Sabina Cvilak)
 テノール: イアン・ボストリッジ(Ian Bostridge 1964-)
 バリトン: サイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside 1959-)
 ロンドン・シンフォニー・コーラス
 エルサム・カレッジ少年合唱団
 ボストリッジ、キーンリーサイドという現代イギリスを代表する2人の男声独唱者を起用し、強い意気込みの伝わる企画。
 第二次世界大戦中に空襲で破壊されたコヴェントリー大聖堂の再建献堂式のために1961年に作曲された「戦争レクイエム」は、ラテン語の典礼文とウィルフレッド・オーウェン(Wilfred Owen 1893-1918)の反戦詩に基づくもので、悲惨な戦争を二度と繰り返すまいという悲痛な祈りを歌い上げた名作。1942年にアメリカからイギリスに帰国した後、良心的兵役拒否を貫いたブリテンの思想が、もっとも直接的に反映された作品でもある。ブリテンの作品は、当作品に限らず、歌劇などでも、現代へつながる深刻な「良心」の訴えかけがある。
 音楽的にも成熟した技法を使いこなし、和声や旋律は保守的な美しさを保っていて、そこにオーケストレーションが生み出す特徴的な音の「あや」がおりなされていく。鋭敏な感覚性を示しながらも、不協和音も決して耳障りな性格のものではなく、安定を志す働きが作用している。
 このノセダの演奏は、そのようなブリテン作品の特徴に則った、真摯な演奏であり、規模の大きく、複雑な編成を、巧妙に処理して音化することに成功している。ボストリッジを起用することによって、オーウェンの英語詩の部分を彼が担うことになるのだが、これが抜群の配役で、ツボを押さえた抑揚が完璧といってよいほどの効果を上げる。ツビラクの声はやや棘のある部分があるが、それを活かした音楽作りが全体では出来ており、決して評価を下げる要因とはならないだろう。
 管弦楽のなめらかで、かつ豊かな広がりを感じさせるサウンドは見事で、特にCD2のサンクトゥスにおける金管の呼応は忘れがたい。
 以上のように、演奏はオーケストラ、声楽ともに聴きごたえ豊かで、文句のない仕上がりと言って良い。当盤は、さらに録音も上々で、ライヴのデメリットを感じさせないもの。さらに、こまかくトラックが挿入されていて(たとえば、声楽パートが変わる部分など)、楽曲の構造を理解するための手がかりを多めに与えてくれている。
 内容、規格ともに申し分のないものとなっています。


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