ブーランジェ
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ブーランジェ 詩篇24番「地とそこに満ちるもの」 詩篇129番 古い仏教徒の祈り 深き淵より(詩篇130番) ストラヴィンスキー 詩篇交響曲 ガーディナー指揮 ロンドン交響楽団 モンテヴェルディ合唱団 Ms: ブルース=ペイン T: ポッジャー レビュー日:2006.10.21 |
★★★★☆ リリ・ブーランジェ、ストラヴィンスキーで詩篇の世界
リリ・ブーランジェ(Lili Boulanger 1893-1918)はパリ音楽院の名教師として知られるナディア・ブーランジェの妹。生来病弱であったため、学校での音楽教育はほとんど受けることができなかったにもかかわらず類まれな楽才を持ち、24才の若さで夭折するまで作曲活動を続けた。姉ナディアもリリの作曲家としての才能を称え、そのため自身は作曲活動を行わなかったと言われる。 ここに収められた楽曲はどれも稀有壮大である。オーケストラの規模が大きく、オルガンのような音量の大きい楽器との対比により印象を際立たせている。合唱のポリフォニーは保守的であり旋律は明瞭に思えるが、それでも印象派的な作風を出そうとしており、面白い。やはり同国の偉大なる先人であるドビュッシーに近づこうとしたのだろうか。それにしてもドビュッシーが自由な遊離する音空間に身を漂わせたのに比べて、リリ・ブーランジェの作品はそれを目指しながらも自らの質量で地べたに叩き付けられるような趣がある。その葛藤がそのまま音楽の力となっているかのようだ。 併録されているのはストラヴィンスキーの詩篇交響曲。こちらも管弦楽の伴奏を伴った合唱曲である。この曲の3つの楽章はそれぞれ詩篇38、詩篇39、詩篇150をテクストとしており、ブーランジェ作品と続けて「詩篇もの」が続くというのが、このカップリングの編集方針のようだ。ストラヴィンスキーの作品の中では古典的なものだが、それでもブーランジェ作品と比べると軽妙さが際立っており、より洗練された音楽となっている。ガーディナーの指揮はなかなか力が入っており、オーケストラもそれに応じているが、ストラヴィンスキーではやや真面目過ぎるのではないかと思った。この曲の場合、もっと機敏に小さく色合いを変えるような瞬間を期待してしまう。もちろん古典的なスタイルで、という意識が働いたのは、分からなくはない。ブーランジェ作品の方が、彼のアプローチはいい方に作用している。 |
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詩篇24番「地とそこに満ちるもの」 詩篇130番「深き淵より」 音楽的対話「ファウストとエレーヌ」 悲しき夕べに 春の朝に ヤン・パスカル・トルトゥリエ指揮 BBCフィルハーモニー管弦楽団 バーミンガム市交響合唱団 T: マッケンジー ボットーネ Bs: ジェイソン・ハワード Ms: マリー レビュー日:2009.11.7 |
★★★★☆ リリー・ブーランジェの重く宗教的な作風が伝わります
リリ・ブーランジェ(Lily Boulanger 1893-1918)の声楽曲、詩篇24番「地とそこに満ちるもの」、音楽的対話「ファウストとエレーヌ」、悲しき夕べに、春の朝に、詩篇130番「深き淵より」を収録。ヤン・パスカル・トルトゥリエ指揮 BBCフィル バーミンガム市交響合唱団 T: マッケンジー ボットーネ Bs: ジェイソン・ハワード Ms: マリーの演奏。録音は1999年。 リリ・ブーランジェはパリ音楽院の名教師であったナディア・ブーランジェ(Nadia Boulanger 1887-1979)の妹。夭折ながら、その才は姉も活目したと言われる。当ディスクに収録されている「ファウストとエレーヌ」でローマ大賞を受賞し、以後その才を宗教的な意味を持つ歌曲や詩篇、それと室内楽の作曲に注いだ。もっとも知られる作品として弦楽四重奏、ハープ、オルガンの伴奏による「あわれみ深い主イエズスよ(Pie Jesu)」が挙げられる。 当ディスクに収録されているのは、壮大な規模を持つ合唱のための作品である。旋律線が重々しく、ドイツ的な荘重さを持っている。魅力的な旋律があるという感じではなく、やや暗い宗教的な雰囲気が支配する。ちょっと聴くと、そのエネルギーの充満の仕方がスクリャービンの作風を思わせるが、それほど劇的な変容はなく、ややもすると平板な印象もある。そこが現代ではメイン・プログラムとはならないところだろう。和声も保守的だ。 詩篇第24番は3分少しの短い曲で、金管と打楽器が幅広く鳴る派手な面を持っていて親しみやすいだろう。大曲は音楽的対話「ファウストとエレーヌ」と詩篇130番で、やや暗い色合いながら、膨らんだり縮んだりといった楽想がとりとめもなく続く。荘厳な重々しさは戦争の暗い影を偲ばせる。後期ロマン派と印象派の入り混じった作風を示している。 |