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ボロディン



交響曲

交響曲 第1番 第2番 第3番(グラズノフ編) バリトンと管弦楽のためのロマンス メゾソプラノと管弦楽のための「よその家では」 小組曲(グラズノフ編) だったん人の踊り
ロジェストヴェンスキー指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 MS: ディアダコワ Br: ワルストレム

レビュー日:2008.2.20
★★★★★ 第3交響曲まで収録したボロディンの管弦楽作品集
 アレクサンドル・ボロディン(Alexander Porfirevich Borodin 1833 1887)の交響曲全集。「全集」としたのは、第1番、第2番に加えて、ボロディンが未完のまま世をさり、グラズノフが補筆完成した第3番の1,2楽章も収録しているためで、本盤の大きな特徴である。加えて、「バリトンと管弦楽のためのロマンス」「メゾソプラノと管弦楽のための“よその家では”」「小組曲(グラズノフ編)」「だったん人の踊り」の4曲が収録されている。ロジェストヴェンスキー指揮、ロイヤル・ストックホルムフィルの演奏。メゾソプラノ独唱はラリサ・ディアドコワ、バリトン独唱はトルド・ワルストレム。録音は1993年から94年にかけて行われている。「だったん人の踊り」は合唱を含まない純器楽版で、序曲的性格の「だったん人の娘の踊り」から収録されている。
 これらはもともとChandosレーベルからリリースされた音源だが、廉価レーベルであるBrilliant Classicsから大きく値を下げて再販されたものが当盤にあたる。
 ロジェストヴェンスキーの指揮は元来勇壮なロシアの凍土に響くような骨太な音楽をつくる。しかし、このディスクではきわめて洗練されたロイヤル・ストックホルムフィルのハーモニーにより豊穣な響きに満ちている。完成まで6年を費やした交響曲第1番はスラヴの郷愁が漂う情緒が美しい。高名な傑作交響曲第2番はブラス陣のダイナミックな響きが心地よく決まる。第2楽章も比較的直線的なアプローチですっきりまとめている。交響曲第3番ははじめて聴いたが、スケルツォで終わってしまう不安定な構造だが、このスケルツォは異様に規模が大きく、またこの楽章でこの曲が終わってしまうことを配慮したグラズノフにより、弦楽四重奏曲からの引用を用いるなど様々な工夫があり、意外とまとまりがよい。他の収録曲もボロディン作品ならではのアジア情緒とロシア的勇壮さがバランスよく出ており、質の高い内容となっている。録音の品質も安定していて、安心できる。

交響曲 第1番 第2番 第3番
セレブリエール指揮 ローマ・イタリア放送交響楽団

レビュー日:2018.10.12
★★★★★ セレブリエールの実力が如何なく発揮されたボロディンの交響曲集
 ウルグアイの指揮者、ホセ・セレブリエール(Jose Serebrier 1938-)とローマ・イタリア放送交響楽団によるボロディン(Alexander Borodin 1833-1887)の全3曲の交響曲を収録したアルバム。収録曲の詳細は以下の通り。
1) 交響曲 第1番 変ホ長調
2) 交響曲 第2番 ロ短調
3) 交響曲 第3番 イ短調(未完)
 1989年のライヴ録音。なお、交響曲第3番については、全4楽章構成の楽曲として構成されたものだが、ボロディンの死去により、第1楽章と第3楽章のスケッチのみが遺されることとなった。これを、グラズノフ(Aleksandr Glazunov 1865-1936)がオーケストラ・スコアとして完成させたのであるが、さすがグラズノフで、見事な完成度であり、本来中間楽章であった第3楽章で終わるみも関わらず、ある程度の帰結感も満たされており、演奏機会もしばしばあり、録音点数も少なくはない。
 セレブリエールは、2004年から09年にかけて、素晴らしいグラズノフの交響曲全集を完成しているので、そのこともあって、グラズノフの補筆完成稿も含めて、ボロディンへの適性は、十二分にあるように思われる。
 果たして、全般にオーケストラがよく鳴り渡った、勇壮な響きが得られていて、各曲の終了後に収録してある聴衆の拍手もかなり熱狂的。ウルグアイの指揮者、イタリアのオーケストラによるロシア音楽の試み、なかなか成功裏に終わっていると感じられる。
 ボロディンの3曲の交響曲では、「英雄」の呼称が用いられることもある第2番が圧倒的に有名であるが、他の2曲も美しい。雰囲気的に共通する部分もあるため、全3曲を通して聴くと、やや平板なイメージになるところがあるのはやむを得ないが、第1番では、チャイコフスキーの初期の交響曲を思わせる瑞々しい情感と、柔らかな歌謡性があって楽しめる。セレブリエールは、そのメロディを北欧音楽を思わせるような透明感を持って歌い、好ましい効果を導き出している。音色が全般にやや軽めな印象があるが、この曲ではそれがむしろ良い方に作用しているようにも思う。
 第2番では土俗的な迫力がやや垢抜けした明るさを帯びて表現されている点が本演奏の特徴といって良い。とはいえ、オーケストラのサウンド自体はなかなかの恰幅で、十分に盛り上がる。弛緩のないテンポで運ぶスタイルは、セレブリエールであれば当然といったところか。ロシア的で濃厚な郷愁に満ちた第2楽章は感動的で、クライマックスのホルンは胸を打つ。
 第3番は、グラズノフのオーケストレーションの工夫、例えば弦楽器のソロなどの冴えた演出が十分に機能しており、熱血的な推進力とともに聴きごたえ十分。全4楽章中の第1楽章と第3楽章のみということであるが、事前にその情報を知らなければ、完結した2楽章構成の交響曲といった趣を感じ取ることができるし、セレブリエールの運びの巧さもあって、未完であることをあまり感じさせない。
 指揮者セレブリエールの本領が存分に発揮された一枚といって良い。

交響曲 第1番 第2番 交響詩「中央アジアの草原にて」
アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2016.2.22
★★★★★ ボロディンの管弦楽曲を収めた決定盤とも言えるアルバムです。
 アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)指揮、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団によるボロディン(Alexander Borodin 1833-1887)の以下の3曲を収録したアルバム。
1) 交響詩「中央アジアの草原にて」
2) 交響曲 第1番 変ホ長調
3) 交響曲 第2番 ロ短調
 録音は3)が1991年、1)と2)が1992年。
 ボロディンの優れた3つの管弦楽のための作品をいずれも優秀な演奏と録音で聴くことのできるアルバムだ。
 ボロディンの代表作として知られる交響曲第2番は「英雄」あるいは「勇者」といったタイトルを付される場合もある。そのタイトルに相応しい熱血性と、土俗的な力強さに満ちた作品だ。だから、この作品を一大叙事詩のように扱った演奏が多い。しかし、アシュケナージの演奏は、この作品の交響曲という形式美を徹底させ、西欧的な洗練という外躯をしっかりと構築した上で細部の表現に踏み込んだ印象が強い。とにかく、各楽章とも音色の均衡性、フレーズの受け渡しの明瞭性に特徴があり、計算されたフォルムの美しさに心を奪われる。
 また、精緻な録音が手伝って、音響的な効果も見事で、例えば第2交響曲で言えば、第3楽章のホルン、ハープ、弦楽器陣の美しい応答など、夢見るような美しさだ。また、全般にシンコペーションの効果なども、きわめて鮮明で、音楽的な処理も手際よく、見晴らしの良い爽快さをもたらしている。
 土俗性は洗練という表現の中で強調されるわけではないけれど、しかし、旋律それ自体が持っている味の一つとして、十分な存在感を持って立ち上ってくるし、終楽章の華やかなリズム感に満ちた推進性など、テンションの張った充実した響きである。この曲の代表的録音として挙げるのは当然だろう。
 交響曲第1番は、第2番の影に隠れて、あまり取り上げられる機会がないが、たいへん優れた作品で、チャイコフスキーの初期の交響曲と同等の楽しさを与えてくれるものだと思う。もちろん、すぐれた演奏と録音であることが不可欠だが、当盤なら文句はない。北欧音楽を聴くような鮮烈な透明感の中で、心地よい高揚感を伴いながら情感豊かな音楽が供給され続ける。隠れた名曲を味わう醍醐味が横溢する。
 「中央アジアの草原にて」は古くからこの作曲家の代表作として知られた作品だが、アシュケナージのすぐれたコントロールで聴くと、イングリッシュ・ホルンの醸し出す独特の雰囲気に、あらためて感じ入る。音楽を聴き始めた頃に知った楽曲だけれども、あらためて、聴きなれた作品から感動の要素を掘り起こしてくれる演奏だと感じる。

ボロディン 交響曲 第1番  チャイコフスキー 交響曲 第2番「小ロシア」
ラシライネン指揮 ノルウェー放送交響楽団

レビュー日:2015.6.23
★★★★★ 魅力的な2曲の組み合わせにぴったりな、清々しい演奏
 フィンランドの指揮者、アリ・ラシライネン(Ari Rasilainen 1959-)とノルウェー放送交響楽団による以下の2曲を収録したアルバム。
1) チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky 1840-1893) 交響曲 第2番 ハ短調 op.17「小ロシア」
2) ボロディン(Alexander Porfir'evich Borodin 1833-1887) 交響曲 第1番 変ホ長調
 1995年から96年にかけての録音。
 なかなか魅力的な一枚。収録されている2曲には共通点がある。いずれの作曲家の作品も、名作と呼ばれる後期のナンバーに隠れてしまって目立たないものなのだが、聴いてみるととても魅力的で、それらの曲独自の美点を多く持っているところだ。かつ、両曲ともロシアが生んだ天才によって書かれたもので、その濁りのない透明感に溢れたオーケストレーションは、輝かしくさわやかだ。
 ラシライネンはこれらの2曲にとても相応しいアプローチを繰り広げている。
 ボロディンは、化学と医学のジャンルで高い功績を挙げながら、趣味の作曲でも名作を書き上げたという多才な人。交響曲第1番はバラキレフ(Mily Alekseyevich Balakirev 1837-1910)の指導を受けながら書いたという作品だが、趣味で始めた初期の作品が、これほどの完成度を示しているというのはあらためて驚異的だと感じる。全4楽章を通じて瑞々しいオーケストラが鳴り渡り、旋律の扱いも十分に洗練されている。彼はこの後、傑作として知られる第2交響曲を書くのだけれど、第2交響曲の力強い土俗性に比べて、幾分中央ヨーロッパのテイストを感じさせつつ、北欧風の響きに満ちた第1交響曲の方に、より魅力を感じる人がいたとしても不思議ではない。
 ラシライネンの演奏は柔らかで澄んだ響きに満ち溢れる。この多才な天才の書いた作品の清々しい情感を、実にさわやかに奏でてくれる。特に第1楽章は、音楽的な情緒の発露が鮮やかで、第2主題を奏でるオーボエの憂いも美しい。高い空を吹きすさぶ風を思わせるような軽やかさに満ちている第2楽章も良い。第4楽章はシューマン(Robert Alexander Schumann 1810-1856)の影響が指摘されることが多いが、シューマンより湿度の低い爽やかさが特徴。ラシライネンの演奏は、さらに清涼感を増した風通しの良さが心地よい限り。
 チャイコフスキーの初期の交響曲は、最近人気を増していると思う。これらの曲の魅力も、ボロディンの第一交響曲に似通っていて、後期の作品に比べて、全体に軽やかで透明。それに、第2交響曲では、すでにチャイコフスキーの充実した書法をあちこちに聴き取ることが出来る。メロディの美しさも言わずもがな。
 こちらもラシライネンの演奏は絶妙。胃もたれするような響きは皆無で、爽快無比な響き。かといって薄味に過ぎるわけでもない。弦の響きがやや淡泊に聴こえるかもしれないが、それは金管、木管の生き生きしたフレーズを活かす適切なパレットの役目に重きを置いたため。それに聴きすすむうちに、それが欠点ではなく、全体の軽やかさ、清々しさといった印象に転換されてくる。
 涼やかな気持ちよさに満ちた快演奏、快録音だ。


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