ボーレンシュタイン
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ビッグバンと宇宙の創造 ヴァイオリン協奏曲 もしあなたがそれを望むなら、それは夢ではない アシュケナージ指揮 オックスフォード・フィルハーモニー管弦楽団 vn: トリンコス レビュー日:2017.9.25 |
★★★★★ アシュケナージが深い理解を示す現代の作曲家、ボーレンシュタインを紹介
イスラエルで生まれ、フランスで育ち、イギリスに移り住んで以降活発な作曲活動を行っているニムロッド・ボーレンシュタイン(Nimrod Borenstein 1969-)の作品集がリリースされた。近年、ボーレンシュタインは、ヨーロッパを中心に、作曲家としての評価を一気に高めていて、演奏回数が増え、オーケストラからの委嘱作品もこなしているとのこと。これまで録音もいくつか紹介されたのだが、今回は、ボーレンシュタインの才能を早くから評価し支援を続けたアシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)指揮によるもので、一層注目される。収録されているのは、以下の3曲。 1) ヴァイオリン協奏曲 op.60 2) ビッグバンと宇宙の創造 op.52 3) もしあなたがそれを望むなら、それは夢ではない op.58 オックスフォード・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。1)のヴァイオリン独奏はイルミナ・トリンコス(Irmina Trynkos)。2016年にスタジオ録音されたもの。 全体的な作風は、劇的で鮮烈な効果を持ちながら聴き易さを維持したもので、親しみやすいカッコよさがある。耳に残る繰り返し音響やフレーズがある、という点でミニマル・ミュージックに近いが、構成的にはより多様で多彩な展開力を持っている。 冒頭のヴァイオリン協奏曲がまずは見事な作品で、この曲は、アレグロ、モデラート、アダージョ、アレグロという古典的な4楽章構成を持っており、両端楽章の主題に関連性が認められるところなど、むしろ懐かしさを感じさせる。それより印象的なのは楽想の移り変わりの俊敏さであり、繰り返されるフレーズがある一方で、展開の急速性があるところが面白い。両端楽章の劇的な表層は、この作曲家の面目躍如といった感があり、激しく音階を刻むヴァイオリンと、衝撃的に刻まれるティンパニの鋭い響きが、啓示的といってよい効果をもたらす。また緩徐楽章の、瞑想を織り交ぜた情緒の表出も美しく、あっという間に聴きとおす力を持った作品である。トリンコスのヴァイオリンも見事なもので、どんなに早いパッセージであっても、濁りのないクリアな響きは、それ自体見事なものであるが、この楽曲の世界観に即した響きと音量であると感じられる点も特筆したい点である。 それに続いて「ビッグバンと宇宙の創造」という気宇壮大なタイトルの付された管弦楽曲が続く。フィルハーモニア管弦楽団からの委嘱作品とのことだが、全体は3つの楽章からなり、第1楽章がモデラートの「光」、第2楽章がアダージョの「平和」、第3楽章がアレグロの「アダムとイヴ」となっていて、物理的な世界観と宗教的な世界観が混沌とした抽象的なイメージを音楽化したものと言える。そこまで気構えて聴く必要のないわかりやすさがあり、神秘的な音色があっても、その一方でやるせないように動き出すパッションがあり、その情動の動きがそのまま音楽の輪郭を鮮やかに作っていく。また、アダージョにハートの部分があり、幸福感に通ずる安らぎは印象深い。 最後に収録されているのが「もしあなたがそれを望むなら、それは夢ではない」である。こちらは8分少々の小さな管弦楽曲であるが、常に劇的な動きに満ちていて、その中で印象的でファンファーレふうのフレーズが繰り返される。映画音楽的な通俗性を湛えながら、工夫を凝らしたオーケストレーションで飽きさせず一騎果敢に最後まで結ぶさまが心強い。 ボーレンシュタインの作品を深く理解するアシュケナージの棒のもと、オーケストラも熱血性をみなぎらせた演奏で、作品の要求に万全に応えている。 |