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ボルコム



器楽曲

ボルコム 12の新しい練習曲  ヴォルペ 戦いの曲
p: アムラン

レビュー日:2015.7.28
★★★★☆ いろんな意味でアムランならではの録音です。
 現代もっとも技巧に優れたピアニストの一人、マルカンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin 1961-)による1987年録音のアルバム。あまり有名ではない以下の2人の作曲家の作品が収録されている。
1) ウィリアム・ボルコム(William Bolcom 1938-)12の新しいエチュード
2) シュテファン・ヴォルペ(Stefan Wolpe 1902-1972) 戦いの曲
 ボルコムはアメリカの作曲家で、パリでミヨー(Darius Milhaud 1892-1974)やメシアン(Olivier Messiaen 1908-1992)といった人たちに師事したのち、1960年代後半からニューヨークでキャリアを積んだ。その作風は無調に近いラグタイムである。裏拍の強調はジャズ的な風合いを持っている。当盤に収録された「12の新しいエチュード」は、ピューリツァ賞を受賞した作品で、ボルコムの代表作と考えられる。
 ヴォルペはドイツの作曲家。ユダヤ人で社会主義者でもあったヴォルペは、ナチスの迫害を逃れ、オーストリア、パレスチナを経てニューヨークで活躍した。「戦いの曲」は脱出前のベルリンで書いたもので、ナチズムとの戦いを意味する。そのスコアの1枚目には "Battles, hopes, difficulties / new battles, new hopes, no difficulties" と記載されていると言う。音楽的には、ブゾーニ(Ferruccio Busoni 1866-1924)と新ウィーン楽派の影響を受けたもので、多彩な音階を取り入れながら、こちらもジャズに近いテイストを帯びている。
 アムランの快刀乱麻を断つ演奏ぶりは、背筋がゾクゾクするほどスリリングではあるが、楽曲は、開始当初は刺激的に感じるが、進むにつれて平板な印象を持ってしまう。曲ごとの個性が乏しいだけでなく、用いられる技巧に専心するあまり、音楽に不可欠な情感に関わる要素があまりにも希薄化されているといったところ。気軽に聴くという分には、楽想自体に暗さが多いところも、印象を希薄なものに近づけているように思う。ところもアムランが大好き、という人にはオススメだが、一般の音楽ファンが、聴いて楽しめるかは微妙なところ。


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