ボッケリーニ
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チェロ協奏曲 ト長調G.480 ニ長調G.483 シンフォニア 変ロ長調G.497 ニ短調G.506「悪魔の家」 vc: ビルスマ ラモン指揮 vn: ラモン ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ レビュー日:2014.1.20 |
★★★★★ 古典派の様式確立に貢献したボッケリーニの作法を聴く
イタリアの作曲家、ルイジ・ボッケリーニ(Luigi Boccherini 1743-1805)の作品から、比較的親しまれている作品を集めたアルバム。ジーン・ラモン(Jean Lamon 1949-)がヴァイオリンを弾きながらリーダーを務めるターフェルムジーク・バロック・オーケストラの演奏。チェロ独奏はオランダのチェロ奏者、アンナー・ビルスマ(Anner Bylsma 1934-)。1988年の録音。収録曲は以下の通り。 1) チェロ協奏曲 第7番 ト長調(G.480) 2) 6つのシンフォニア op.21 から第5番 変ロ長調(G.497) 3) チェロ協奏曲 第10番 ニ長調(G.483) 4) 6つのシンフォニア op.12 から第4番 ニ短調(G.506)「悪魔の家」 ボッケリーニはハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)と同時代の作曲家ということで、比較されることも多いが、現代ではハイドンの作品の方が広く親しまれているといっていいだろう。しかし、ボッケリーニもまた数多くの器楽曲を作曲し(例えば、弦楽四重奏曲だけでも100曲くらい書いたとされている)、新しい室内楽や交響曲といった様式を、ハイドンとともに確立した重要な存在の一人である。また、ボッケリーニはチェロ奏者であったため、チェロ協奏曲を多く書いた他、チェロ2艇という編成による弦楽五重奏曲も多く書いた。いわゆる「ボッケリーニのメヌエット」として有名なのは、弦楽五重奏曲ホ長調(G275)の第3楽章である。 彼の楽曲にみられる特徴は、抒情的なイタリアの様式と、ゆきとどいた神経で細部を仕上げたフランス様式の装飾の双方を認めるものである。動機による楽曲構成法や模倣の技法が使われているところも特徴で、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)も影響を受けたと伝えられている。 当盤に収録された楽曲たちも、これらのボッケリーニの特徴が自然に発露した良作といえるもの。13曲あるチェロ協奏曲のうち、代表作として知られる「第9番変ロ長調 G.482」は当盤には収録されていないが、本盤冒頭に収録された第7番は、それに次ぐ作品として知られ、第1楽章の優美な旋律、第2楽章の敬虔な雰囲気、そして第3楽章の快活さに十全な魅力を湛えている。ビルスマはバロック・チェロの細かい響きを活かし、カデンツァでは圧倒的ともいえる技巧を聴かせる。このカデンツァを聴いていると、当時チェロという楽器には、ヴァイオリン属として、ヴァイオリンと同等とも言えるほどの表現力が求められていたように思う。音域は違えど、その華やかさはヴァイオリンのイメージである。 シンフォニアでは、こちらも「悪魔の家」というタイトルで知られる有名な作品が収められている。第3楽章後半のAllegro con moltoの部分に、「悪魔の家」の由来ともなった、ボッケリーニには珍しい疾風怒濤の音楽が示されている。この楽章の主題は、グルック(Christoph Gluck 1714-1787)の音楽からの引用されたものとされる。しかし、ボッケリーニのアイデアによって、熾烈な効果の上がる楽曲として仕上がっている。このシンフォニアは、弦五部の他は、ホルンとオーボエのみという小編成の音楽であるが、ハイドンの交響曲とも張り合える内容があると思う。できれば、ボッケリーニのシンフォニアにも、ハイドンのように「交響曲第〇番」、というタイトルを与えた方が、普及度が増すのではないだろうか。そのような機会を待っている作品にも聴こえる。<・・・一応、ジェラール(Yves Gerard 1932-)という音楽学者が、この試みに従って、ボッケリーニのシンフォニアに番号付けを行っていて、当曲を第4番としていますが、その呼称はいまいち普及していないようです・・・> 。 ラモンの演奏は、スピーディーでかつスタイリッシュな味わいで、小編成オーケストラならではの機敏な音の作りが魅力的。生きのいい鮮度の良い感触が、絶好の聴き心地となっています。 |
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弦楽五重奏曲 ホ長調 op.11-5 ヘ短調 op.11-4 ニ長調「鳥小屋」op.11-6 スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ レビュー日:2015.3.4 |
★★★★★ ボッケリーニの弦楽五重奏曲の魅力を存分に伝えてくれる名録音
スミソニアン博物館が所蔵する貴重な楽器を用いて演奏活動を行う「スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ」は、チェロ奏者ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik 1954-)が中心となって設立された。当盤にはそのスロウィックを中心とした5人の弦楽奏者によって、ボッケリーニ(Luigi Boccherini 1743-1805)の以下の3曲の弦楽五重奏曲が収録されている。 1) 弦楽五重奏曲 ホ長調 op.11-5 2) 弦楽五重奏曲 ヘ短調 op.11-4 3) 弦楽五重奏曲 ニ長調 op.11-6「鳥小屋」 1988年の録音。冒頭に収録されているホ長調の第3楽章が、いわゆる有名な「ボッケリーニのメヌエット」と言われる音楽。聴けば、だれでも「ああ、あの曲か」と思う作品だ。 ボッケリーニの弦楽五重奏曲は、その多くが「弦楽四重奏+チェロ」とい編成によって書かれている点に特徴がある。これは、ボッケリーニ自身がチェロ奏者であったことが大きく影響しているが、スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズのリーダーもチェロ奏者である、という点で、イメージ的に合致する演奏集団でもある。 ちなみに、スロウィック以外の奏者は、ヴァイオリンがマリリン・マクドナルド(Marilyn McDonald)とジョリー・ガリック(Jorrie Garrigue)、チェロがアンソニー・マーティン(Anthony Martin)、もう一つのチェロがアンナー・ビルスマ(Anner Bylsma 1934-)である。チェロにスロウィックとともにビルスマという名手が加わっているのは、いよいよ頼もしい。 演奏は生き生きとした明朗なもので、ボッケリーニの音楽がいっそう健康的な輝きを持って聴き手に届けられる。全体のスムーズな運びは、各奏者の技量の高さを示すものであり、特に早いパッセージの正確な、しかし「急いでいる」という感じを聴き手に伝わることのない余裕のある弾きこなしは、聴いていてとても心地よいものだ。 楽曲として面白いのは「鳥小屋」。このハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)を思わせる様なタイトルを持つ作品は、その名の通り鳥の声を模倣する箇所があるのだが、ガット弦特有の滑る様な音色で、軽妙で、まさしく鳥の声を連想する音を出している。この時代と楽器ならではの演出だし、しかも音楽的に収まっているあたりは感心する。 作品の遊び心と、楽器の魅力、奏者の技量と三拍子そろった好録音だ。 |