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ブラスコ・デ・ネブラ



器楽曲

ピアノ・ソナタ 第1番 第2番 第3番 第4番 第5番 第6番 パストレーラ 第2番 第6番
p: ペリアネス

レビュー日:2015.3.26
★★★★★ 特有の空気感を持った貴重な音楽。見事な録音をしてくれたペリアネスに感謝。
 スペインの作曲家、マヌエル・ブラスコ・デ・ネブラ(Manuel Blasco de Nebra 1750-1784)のピアノ作品集。同郷のピアニスト、ハビエル・ペリアネス(Javier Perianes 1978-)による2007年の録音。収録内容の詳細は以下の通り。
1) ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調
2) ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ長調
3) ピアノ・ソナタ 第5番 嬰へ短調
4) ピアノ・ソナタ 第3番 ニ長調
5) ピアノ・ソナタ 第4番 ハ長調
6) ピアノ・ソナタ 第6番 ホ短調
7) パストレーラ 第2番 ヘ長調
8) パストレーラ 第6番 ホ短調
 とにかく美しい、心洗われる音楽だ。是非にもオススメしたい。
 ネブラという作曲家の名前を知っている人は少ないだろう。私が彼の作品を知ったのも当盤を通じてが初めてである。ネブラはアンダルシアで生まれ、わずか34年の生涯に、多くのクラヴィーアのための作品を書いた。しかし、その多くは、作曲家の死の前に破棄され、現在まで遺されている作品はわずか30作(すべてクラヴィーアのための作品)だという。
 ここでペリアネスはフォルテ・ピアノではなく現代ピアノを弾いている。彼がピアニストだから、という以上に楽曲の性格と現代ピアノの相性は素晴らしいと感じられた。
 ネブラは、イタリアとスペインで活躍したスカルラッティ(Domenico Scarlatti 1685-1757)の影響を強く受けたとされている。しかし、ここに収録されたソナタは、緩徐楽章と急速楽章からなる2楽章で構成されていて、対比の強さ、陰のあるロマン性などが示されている。そのような音楽の持つ情緒を、ピアノは的確に描写している。そういった点で、ネブラの作品は、先輩であるカルロス・セイシャス(Carlos Seixas 1704-1742)やアントニオ・ソレール(Antonio Soler 1729-1783)とは、ことなる音楽世界を持っている。私はその内省的なひそやかさに、時代的には飛躍するが、モンポウ(Federico Mompou 1893-1987)との関連を思わずにはいれないのである。
 冒頭曲の美しいこと。多くの音符を用いることなく、きわめて清らかで澄んだ旋律が、思い出してはまた紡がれるように淡々と語られていく。短調の音楽が持つ特有の色と気配が、実に率直に奏でられていく。私は、この音楽を聴いていると、それこそ私の住んでいる北海道の、人々が去って、そっと山中で自然にかえってゆく集落の風景を思い出す。淡々としていて饒舌ではないけれど、その歴史を知っている人だけに静かに何かを示しているような。ホ短調のソナタの緩徐楽章もロマンティックなもの悲しさが漂う。
 全般に秘めたところのある暗さをもった雰囲気であるが、しかし、ハ長調のソナタの急速楽章のように舞曲的な楽しさを示すものもある。また「パストレーラ」と題された2曲は、末尾にメヌエットを持つ小さな組曲であるが、こちらはソナタよりもバロック的な雰囲気を持った作品。
 ペリアネスの演奏は絶妙だ。これらの作品がもっている空気が、常にもっとも凝集する瞬間をとらえたような、凛とした情緒に満ちている。一人でそっと聴くのに、これほどふさわしい音楽は少ない。


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