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ビゼー



交響曲

交響曲 序曲「祖国」 組曲 美しいパースの娘(ボヘミアンたちの風景) 序曲 イ長調
デュトワ指揮 モントリオール交響楽団

レビュー日:2013.5.23
★★★★★ ビゼーの管弦楽曲の魅力を的確に伝えるデュトワのアルバム
 フランスの作曲家、ビゼー(Georges Bizet 1838-1875)の管弦楽のための作品を集めたアルバム。収録曲は以下の通り。
1) 序曲 イ長調
2) 組曲 美しいパースの娘(ボヘミアンたちの風景)
3) 交響曲
4) 序曲「祖国」
 デュトワ(Charles Edouard Dutoit 1936-)指揮、モントリオール交響楽団の演奏。1995年の録音。
 フランスの作曲家ビゼーは、37歳という若さで世を去った。類まれなピアノ演奏技術を持ちながら、オペラ作曲家を目指した彼は、現代では「カルメン」「アルルの女」といった代表作で知られる。しかし、その才は生前から認められたとは言えないものだった。実際、現代では彼の代表作として知られる交響曲(作曲当時、ビゼーは17歳!)など、初演されたのは彼の死後のことである。
 このたいへん魅力的な交響曲は、かつて、BGM付でニュース番組が放送されていた時代(というんだから、私が生まれる前の話、白黒テレビの時代)、その第1楽章の冒頭が、某ニュース番組のOPに使用されていたそうだ。ハ長調でリズム感豊かに奏でられるこの音楽は、「いい知らせ」を連想させるものだが、その音色にのって、どのようなニュースが読み上げられていたのだろうか?
 さて、先に書いたように、ビゼーの代表作といてば、「カルメン」「アルルの女」そして「真珠採り」あたりだろうが、このアルバムは「それに続くべき作品」が集約的に収録されている。そういった点で、レコード・ライブラリの充実にももってこいのサービス精神旺盛といってよい内容で、収録時間も70分を越えていて、お得感がある。
 楽曲も、どれも粒ぞろいといったところで、どこを聴いても明朗で抒情豊かな旋律が、いかにも微笑ましい情感を持って伝わってくる。
 中で序曲「祖国」は、勇壮で、金管のファンフアーレなどを伴った描写性のある作品。もともとはオペラのために書かれたが、肝心のオペラが未完であり、この序曲のみが管弦楽曲としての体裁を整えた作品として残った。「ポーランド戦争の挿話」という副題がついている。「交響曲」「美しいパースの娘」はいずれも旋律の美しさと親しみやすさが魅力で、適度な軽さと分かり易い規模を持っていて、楽曲構成の上ですぐれた均衡感が保たれている。個人的には、交響曲の第3楽章、第4楽章が好きだ。快活で急速の楽章が連続するノリの良さに、一層の魅力を感じる。
 デュトワの指揮ぶりが素晴らしい。適度なホールトーンを保ちながら、濁りのない、さわやかで優しいサウンドを練り上げている。特に弦楽合奏陣から引き出される柔らかく洗練されたトーンは、この時代のデュトワとモントリオール交響楽団のサウンドを象徴する箇所と言えそうだ。デッカの録音も素晴らしく、透明で透き通ったサウンドが、吹き渡る風のようにさわやか。
 ビゼーのこれらの楽曲を聴く際の、「ファースト・チョイス」に相応しいディスクと言える。


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管弦楽曲

「アルルの女」第1組曲 第2組曲 「カルメン」組曲
アバド指揮 ロンドン交響楽団

レビュー日:2024.7.3
★★★★★ 収録時間は短いけれど、十分な充足感を味わわせてくれる往年のアバドの録音
 アバド(Claudio Abbado 1933-2014)指揮、ロンドン交響楽団によるビゼー(Georges Bizet 1838-1875)の管弦楽曲集で、収録曲の詳細は下記の通り。
 「アルルの女」第1組曲(L'Arlesienne Suite No.1)
1) 第1曲 前奏曲(Prelude)
2) 第2曲 メヌエット(Minuetto)
3) 第3曲 アダージェット(Adagietto)
4) 第4曲  鐘(カリヨン)(Carillon)
 「アルルの女」第2組曲(L'Arlesienne Suite No.2) 編曲: エルネスト・ギロー(Ernest Guiraud 1837-1892)
5) 第1曲 パストラール(Pastorale)
6) 第2曲 間奏曲(Intermezzo)
7) 第3曲 メヌエット(Menuet)
8) 第4曲 ファランドール(Farandole)
 「カルメン」組曲(Carmen Suite)
9) 第1曲 第1幕への前奏曲(Prelude acte I)
10) 第2曲 第2幕への間奏曲「アルカラの竜騎兵」(Entr'acte II "Les Dragons d'Alcala")
11) 第3曲 第3幕への間奏曲(Entr'acte III)
12) 第4曲 第4幕への間奏曲「アラゴネーズ」(Entr'acte IV "Aragonaise")
 アルルの女は1980年、カルメンは1977年の録音。
 CD1枚で、収録時間は47分しかなく、いかにもLP時代の規格をそのままCDにした内容であるけれど、この頃のアバドらしい、生気にあふれた躍動感とスピード感に満ちた解釈でたいへん魅力的である。私は、これらの楽曲では、より収録曲集を増やしたデュトワ(Charles Dutoit 1936-)の透明感と色彩感に満ちた演奏を愛聴してきたのだが、このアバドの録音も、曲数が少ないというハンデがあるものの、これらの楽曲の解釈として、とても優れたものだし、現在でも、その価値を減じさせるような環境の変化があったとまでは感じられない。録音の品質もいまなお良好だ。
 アバドの解釈は、前述のように、はちきれるような若々しさを感じさせるものだが、その一方で、周到にオーケストラの音色を練り上げる手腕も見せている。例えば、「アルルの女」第1組曲のアダージェットは、マーラー(Gustav Mahler 1860-1911)作品を想像させるような絢爛なベースが整えられているし、その前のメヌエットでは、のどかさとともに、高雅な薫りが十分に漂っていて、芸術的な気品に満ちている。前奏曲の有名な主題提示が、繰り返される際には、ややサウンドの裾野を広くとる響きを繰り出して、表現に緩急を感じさせるところも見事だ。アバドのスタイルが、一つの完成に達した時期の録音と言っていいだろう。
 カルメンは、各楽曲が短いこともあって、あっというまに終わってしまうが、旋律美にあふれた部分だけで構成されており、贅沢なデザートといった訊き味となっている。この時代のアバドとロンドン交響楽団による、スマッシュ・ヒットと言える録音の一つに相違ない。
 なお、投稿日現在では、これらの録音に、別の音源を加えた再編集アルバムもあるので、もし、購入をお考えであれば、それらとの比較検討をした上でが望ましい。


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歌劇

ビゼー 「セレナード (小さな木の実)」 「耳に残るは君の歌声」  ドニゼッティ 「地上にただひとり」 「清らかな天使」 「僕はマリーのそばに」 「ああ!友よ、何とめでたい日々だろう」  グノー 「ああ、太陽よ昇れ」 「この清らかな住まい」  マスネ 「おお、恵みに溢れた自然よ」 「何故私を眠りから覚ますのか?」  ロッシーニ 「先祖伝来の住処よ(涙誘う無人の家よ)」
T: コルチャック フルニリエ指揮 ロシア国立管弦楽団

レビュー日:2021.1.6
★★★★★ 現在を代表する名テノール、コルチャックを聴く
 ロシアのテノール、ドミトリー・コルチャック(Dmitry Korchak 1979-)によるフレンチ・オペラアリア集。
 収録曲は以下の通り。
1) ビゼー(Georges Bizet 1838-1875) 歌劇「美しきパースの娘」から セレナード (小さな木の実)
2) ビゼー 歌劇「真珠取り」から 耳に残るは君の歌声
3) グノー(Charkes Gounod 1818-1893) 歌劇「ロメオとジュリエット」から  ああ、太陽よ昇れ
4) グノー 歌劇「ファウスト」 この清らかな住まい
5) ドニゼッティ(Gaetano Donizetti 1797-1848) 歌劇「ドン・セバスティアン」から 地上にただひとり
6) ドニゼッティ 歌劇「ラ・ファヴォリート」から 清らかな天使
7) ドニゼッティ 歌劇「連隊の娘」から 僕はマリーのそばに
8) ドニゼッティ 歌劇「連隊の娘」から ああ!友よ、何とめでたい日々だろう
9) マスネ(Jules Massnet 1842-1912) 歌劇「ウェルテル」から 「おお、恵みに溢れた自然よ」
10) マスネ 歌劇「ウェルテル」から オシアンの歌
11) ロッシーニ(Gioanchino Rossini 1792-1868) 歌劇「ギヨーム・テル」から 「先祖伝来の住処よ(涙誘う無人の家よ)」
 パトリック・フルニリエ(Patrick Fourniller)指揮、ロシア・ナショナル管弦楽団がバックを務める。2017年の録音。
 すでに様々な役柄をこなし、非常に高い評価を得ているコルチャックであるが、このたびのアルバムは、そんなことを抜きにしても、率直に楽しい。フランス語のアリアを集めているが、タイトルの通りロマンティックで、旋律の美しさを堪能できる楽曲が並んでおり、いつのまにか口ずさんでいるような心地よさに満ちている。コルチャックの歌唱は、高音の安定も魅力であるが、ロマンティックではあってもべた付かない高貴さがあって、澄んだ聴き味をもたらしてくれる。また、弱音であっても、しっかりとした芯の感じられる歌唱は、音楽表現の幅を高めるとともに、これらの楽曲にふさわしい雰囲気をもたらしているだろう。
 コルチャックの高音の安定したレガートは、ドニゼッティの「連隊の娘」の2つのアリアにもっとも端的に示されているだろう。フランス語の発音の適切さについては私はわからないが、節回しとしてはとてもきれいでなめらかであり、聴き手を気分良くさせたり、高揚させたりしてくれる。それは、このようなアルバムで、特に求められる性質だろう。「ドン・セバスティアン」のアリアも、高音の見せ場を想定して書かれた作品であり、コルチャックの歌唱は、圧巻の輝かしさを見せる。
 ビゼーの2編は叙情的な旋律が有名だが、コルチャックの歌唱はここでも一種の清潔さをまとっており、その透明な感覚が、好ましい情感として、音楽を魅力的なものにしている。音楽に与えられた叙情性の豊かさと言う点では、マスネの「おお、恵みに溢れた自然よ」は、オーケストラの美しい音色も手伝って、実に見事だ。牧歌的でありながら、凛々しい音楽表現があり、そこに豊かな情感が添えられるのは、この楽曲のもっともふさわしい表現形態ではないか、と思えてくる。
 末尾に、壮麗なロッシーニのアリアが収録されている。私個人的にはロッシーニの書いた旋律で、特に好きなものであり、このようなアルバムの末尾を飾るにふさわしい作品であると思うが、もちろんここでもコルチャックは期待を裏切らない。圧倒的な存在となって、当アルバムを締めくくっている。


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