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バックス



交響曲

交響曲全集 ローグの喜劇序曲 交響詩「ティンタジェル」
ハンドリー指揮 BBC・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2005.1.1
★★★★★ 偉大なシンフォニストの記録
 日本では国内盤すら発売されなかったが、イギリスの「グラモフォン誌」でぶっちぎりで「レコード・オブ・ザ・イヤー2004」のオーケストラ曲部門賞を獲得した名演である。
 CDは5枚からなっているが、このうち1枚は、イギリス音楽のスペシャリストである指揮者ハンドリーへのインタビューの模様が収録されており、このアルバムの企画性の高さが伺われる。
 インタビューでハンドリーは一人の作曲家を理解することを、一つの言語を理解することにたとえている。そして音楽とは言葉より一層直裁な表現媒体であることも同時に指摘している。
 なるほど、これらの7曲の交響曲は、そういった意味でたいへんよく出来ている。確かにいわゆる古典的な様式美に照らしたとき、やや不安でどこに行くかわからない要素を感じるかもしれない。しかし、このアルバムを聴いたとき、私はある光景に出くわす。
 「一日のうちに四季がある」~これは全英オープン・ゴルフが開催されるセントアンドリュースを表現した言葉だが、バックスの交響曲の印象はこの言葉にきわめて近い。短時間のうちにめまぐるしくかわる気温、風向き、風速、光の加減、遠景の雲であってもそれらはときおり強烈な勢いで流さ去って行く。。。
 イギリスやアイルランドの伝統音楽だけでなく、ブルックナーやシベリウス、マーラーといった偉大なシンフォニストの薫陶もまたうけつつ、荒涼たる大地をつきすすむ・・・バックスの交響曲によって描かれる世界は無限に広がっている・・・・

交響曲 第4番 交響詩「ティンタジェル」
トムソン指揮 アルスター管弦楽団

レビュー日:2009.11.27
★★★★★ 「海」にインスパイアされたバックスの2編
 イギリスの作曲家、バックス(Arnold Bax 1883 - 1953 )の交響曲第4番と交響詩「ティンタジェル」を収録。トムソン指揮アルスター管弦楽団の演奏。録音は1983年。
 ブライデン・トムソンはスコットランドの指揮者である。英シャンドスレーベルが自国の作曲家の作品を録音するとき、つねに主戦としての活躍を続けた。バックスの交響曲もすべて録音している。現在では、ヴァーノン・ハンドリーの名盤が同じレーベルに存在するため、いまひとつ目立たなくなってしまったが、それでもイギリスのオーケストラ音楽を語るときには決して外せない人物だ。
 バックスは7曲の交響曲を作曲している。日本ではいずれもネームヴァリューのある作品とは言えない。というより、バックスの交響曲を聴いて、「これは○番」と答えられる人がほとんどいないのではないだろうか?というのも、バックスの交響曲は、どれも様々な要素が混在していて、主要主題がはっきり「これ」と挙げられるわけでもなく、しかし混沌かと言うとロマンテッィクな色彩を持つわけで、つまりはっきりした曲の「顔」がインプットしにくいのである。親しみ易い曲という点では第1番かと思うけれど、この第4番も熱に満ちた作品で、聴き漏らしたくない。
 第4交響曲は「海」のイメージからインスパイアされた音楽だという。冒頭から幻想的な雰囲気である。オルガンの存在感のあるサウンドが音響を下支えして、雄大な広がりを見せる。比較的、第1楽章が「急」、第2楽章が「緩」といった分類は可能ではあるけれど、それでも中間部の脈流は傾向が似通う。中にあって第2楽章はやや霧が薄くなる感じではある。ハープの音色が細やかで、霧の森の中にある道しるべのように聴き手を誘ってくれる。第2楽章はさながら平和な海の描写のような世界で終わる。終楽章もいつ終わるとも知れないドラマであり、展開は予断を許さない。嵐であり、勝利でもある。独創的な全曲のしめくくりもバックスらしい。
 交響詩「ティンタジェル(の城)」はバックスの作品の中では抜群によく知られた作品。とにかく冒頭がわかりやすくカッコイイ。高く日差しの強い夏の日に、大西洋の波が強く打ちつける断崖上の城が描かれる。ケルトの旋律の引用も巧みだ。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」からの引用と合わせて、アーサー王の物語を思い起こさせる名曲。オーケストラを勇壮に響かせたトムソンの恰幅のいい指揮ぶりがふさわしい。


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管弦楽曲

交響詩「妖精の丘」 交響詩「11月の森」 交響詩「ファンドの園」 交響的幻想曲「シンフォニエッタ」
ハンドリー指揮 BBC・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2006.5.21
★★★★★ まさに待望の録音でしょう!
 イギリス音楽のスペシャリスト、ヴァーノン・ハンドリー(Vernon Handley)によるアーノルド・バックス(Arnold Bax)の交響詩集。収録曲は交響詩「妖精の丘」、交響詩「11月の森」、交響詩「ファンドの園」、交響的幻想曲「シンフォニエッタ」の4曲。バックスの交響詩としては、もっとも有名な「ティンタジェル」は交響曲全集に収録されている。
 演奏はさすがの一語に尽きるもので、作曲者への深い共感をバックに、管弦楽は細心のバランスを保ちながらときとして鮮やかに凶暴な瞬間を描いている。バックスの作品はちょっと聴いてすぐにわかるというものではないかもしれないが、この演奏の持っている自発的でチャーミングな各所の表情は、聴き手を巧みに音楽の世界へ誘導してくれる。
 こうして聴いてみると、バックスの音楽というのは、本当に魅力的なものだ。「妖精の丘」はドビュッシーばりの音色で、時とともに雲がうつろい、こくこくと陽の光がその強度の方向を変えていくように描かれている。「ファンドの園」も比較的有名な作品の一つで、神秘的で個性的な冒頭の音型が、印象的に風景を作ってゆく。ディーリアスの音楽にも近いと感じた。
 シンフォニエッタも貴重な音源で、シャンドスがまたフアンにはたまらないアルバムをリリースしてくれたとの思いに浸れました。感謝。


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器楽曲

ピアノ・ソナタ 第1番 第2番 子守歌 ウォッカ・ショップにて ニーリッド 流浪の夢
p: ワス

レビュー日:2005.1.16
★★★★★ イギリスピアノ音楽の一つの代表的録音
 アーノルド・バックスのピアノ作品集。収録曲はピアノソナタの第1番、第2番、流浪の夢、子守歌、ニーリッド、ウォッカ・ショップにて。ソナタ2曲に4つの小品というこになる。
 ピアノはアシュリー・ワス。イギリスの期待の新星らしい。2000年のリーズピアノコンクールでは最終選考まで残った。(ここ20年ではイギリス人ピアニストとしては二人目)。
 バックスは4曲のピアノソナタを遺しているが、どれもなかなか聴き応えのある作品である。また他の4つの小品も含めてここに収録されているものは1910年から1920年までの10年間に作曲されたもので、バックスが27才から37才にかけての作品ということになる。
 ピアノ・ソナタの第1番と第2番は、ともに単一楽章形式で、かつ20分を越える長さがあり、構成も浪漫的で、なかなか手ごわい曲だが、ワスは情緒的な表現に長けているようで、夢想的にピアノを響かせる。
 ソナタの第1番は中間から夢見るようなフレーズが脈々と流れるが、ここの情感の膨らませ方も巧みで、どんどんと情感を高ぶらせて行く。甘くも鮮烈な音楽だ。そしてキリスト正教会の鐘楼がなりひびくような壮大なフィナーレを築き上げている。このソナタ1番は秘曲愛好家にももってこいの作品ではないだろうか。
 第2番は作曲者の成熟を感じさせ、作風もより多様化したものであるが、ワスの楽曲そのものへの真摯なアプローチの情緒が強い説得力を持っている。やはりうなされるような起伏とさまようような連綿たるシーンが連続するが、ピアニストの語り口は抜群だ。
 イギリスピアノ音楽の一つの代表的録音といっていいだろう。

ピアノ・ソナタ 第3番 第4番 水の音楽 冬の水 田舎の調べ 他
p: ワス

レビュー日:2005.8.20
★★★★★ イギリスピアノ音楽の確かな伝え手による録音
 2000年のリーズ国際ピアノコンクールで5位となったアシュリー・ウォス(アシュリー・ワス)によるアーノルド・バックス(Arnold Bax 1883-1953)のピアノ作品集。これで2枚目。今回はピアノソナタ第3番、第4番それに「水の音楽」「冬の水」「田舎の調べ」といった小曲が収められ、73分を越える収録時間となっている。
 ソナタ第3番は注目される作品。ここではじめてバックスは多楽章構成のソナタに挑んでいる。冒頭のエピソードは忘れられないものだ。低音の絶えまぬ響きにささえられ、暗くも暖かみのある和音によりなんとも夢想的な旋律が奏でられる。バックスの作品には全般にどこか行方のわからないような暗鬱とした彷徨のイメージがある。このソナタにもそれはたしかに漂っているが、ウォスの解釈は強い確信と共感にささえられ、私達にこれらの曲のただしい歩み方を指し示してくれる。どことなく身をまかせられる不安感とでもいうのだろうか・・・第3楽章も和音の響きをペダリングによってたくみにコントロールし、いくつもの音色の交錯する世界をたくみに描いている。そして終結部近くで、第1楽章のなつかしい主題が、ヴェールにつつまれるように帰ってくるシーンも美しい。
 ソナタ第4番は2楽章に注目だ。印象派的な氷の透明感と物憂げなリズムがなんともいい雰囲気を出している。このバックス・シリーズは全集化されるという。完成が楽しみである。


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声楽曲

まほうをかけられた夏 ウォルシンガム 祖国
ハンドリー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 ブライトン・フェスティヴァル合唱団 S: キング T: ヒル

レビュー日:2006.10.23
★★★★★ バックスの魅力的な合唱曲の世界を紹介
 バックスのオーケストラ伴奏を伴った合唱曲集。演奏はハンドリー指揮のロイヤルフィル。ブライトン・フェスティヴァル合唱団、ソプラノはキング、テノールはヒル。録音は1983年。
 数あるバックスの名作群の中にあって合唱曲もまた外せない作品群である。この作曲家特有の辺境を彷徨するような雰囲気と、恰幅のよい音楽、そして様々に移り変わる車窓のような情感を感じさせる。「魔法をかけられた夏」はその名の通り、なんとも霧の立ち込めるような退廃的な雰囲気のある作品だ。多様に織り成すような旋律が無形の、しかしたしかにバックスの刻印を刻むような音楽たりえていく。それはまさにマジカルで、不思議である。バリー・グリフィスによる独奏ヴァイオリンもなかなか美しい。「ウォルシンガム」はエリザベス女王政権下で諜報活動を一手に取り仕切った謎めいた人物である。彼は自らの財産をも投げ打って冷酷なほどの諜報活動を徹した。時として政治上の一切の手続きを無視するような手法は、エリザベス女王にもはっきりとした不快を持って接せられたほどだったという。さてこの曲もなんとも彩があって美しい。途中マクウィーターによって歌われるヴォカリーズの美しいことこのうえない。「祖国」は比較的規模の小さな曲であるが、その讃歌のような壮大な盛り上がりは見事でこのアルバムの末尾を飾るに相応しい。


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