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バーバー



協奏曲

バーバー ヴァイオリン協奏曲  コルンゴルト ヴァイオリン協奏曲 組曲「空騒ぎ」からの4つの小品
vn: シャハム プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団 p: プレヴィン

レビュー日:2026.8.17
★★★★★ 楽曲の甘美な魅力を十全に表現したシャハムを代表する名録音
 ギル・シャハム(Gil Shaham 1971-)のヴァイオリン、アンドレ・プレヴィン(Andre Previn 1929-2019)指揮、ロンドン交響楽団による、下記の楽曲を収録したアルバム。
1-3) バーバー(Samuel Barber 1910-1981) ヴァイオリン協奏曲 op.14
4-6) コルンゴルト(Erich Wolfgang Korngold 1897-1957)ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
コルンゴルト 組曲「空騒ぎ(Viel Larm um Nichts)」op.11からの4つの小品
 7) 花嫁の部屋の乙女(Madchen im Brautgemach)
 8) ドグベリーとヴァージェス(Holzapfel und Schlehwein)(夜警の行進(Marsch der Wache))
 9) 間奏曲(庭園の場 Gartenszene)
 10) 仮面舞踏会(Mummenschanz)(ホーンパイプ(Hornpipe))
 末尾の 組曲「空騒ぎ」op.11からの4つの小品の原曲は、シェイクスピア(William Shakespeare 1564-1616)の同名喜劇のために作曲された全15曲からなる舞台付随音楽で、そのうち4曲をコルンゴルトがヴァイオリンとピアノのために編曲したもの。当盤では、協奏曲で指揮を務めたプレヴィンが、これらの楽曲ではピアノを担っている。  1993年の録音。
 個人的に「シャハムの録音」と聴いて、最初に思い当たるのがこのアルバム。このアルバムがリリースされた当時では、これらの楽曲が録音される機会が少なかったこともあり、シャハムの録音によって、「こんな素敵な曲があったのか」という強いインプレッションを受けたので、以来私にはとても思い出深い録音となっている。
 バーバーのヴァイオリン協奏曲は、1939年に作曲されたもので、近代ヴァイオリン協奏曲屈指の美しさを誇る名作。第1楽章冒頭から、ヴァイオリンが大らかで甘美なメロディを奏でる。旋律の美しさや郷愁は、ロマン派の名曲に通じるもので、シャハムはその甘美さを全面的に肯定し、力強くかつ相応しい明朗さで楽曲を奏でる。難しいことなんて何一ついらない、ただ目いっぱい歌えばいいという全面的な解放感が、瑞々しく楽曲の特徴を描き上げる。第2楽章は、その甘美さで広く知られている主題を、まずオーボエが提示し、それを独奏ヴァイオリンが引き継いでいく。メランコリーな情感が気高さを維持して響き渡るところは、深く聴き手の胸に迫る。「常動曲」ど題される第3楽章は、前2楽章から雰囲気を一変し、猛烈なスピードで16分音符が駆け巡る。シャハムの胸をすくような技巧の鮮やかさが圧巻。スピード感を維持しつつ、音が常に柔らかい暖かみをたたえているところが素晴らしい。
 コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲 は、オーストリアからアメリカへ亡命し、ハリウッド映画音楽の黄金期を築いたコルンゴルトが、戦後の1945年に完成させた作品。自身が手がけた映画音楽の美しい旋律が随所に散りばめられている。その引用元の映画音楽をまとめておこう。
 第1楽章の第1主題:
「砂漠の朝(Another Dawn)」 ウィリアム・ディターレ(William Dieterle 1893-1972)監督:1937年公開
 第1楽章の第2主題:
「革命児フアレス(Juarez)」 ウィリアム・ディターレ監督;1939年公開
 第2楽章の主要主題:
「風雲児アドヴァース(Anthony Adverse) マーヴィン・ルロイ(Mervyn LeRoy 1900-1987)監督;1936年公開
 第3楽章の主要主題
「王子と乞食(The Prince and the Pauper)」 ウィリアム・ケイリー(William Keighley 1889-1984)監督;1937年公開
 当然のことながら、ヴァイオリン協奏曲も、全体に「劇伴調」の、分かりやすい旋律と華やかな演奏効果に彩られたものとなる。「映画音楽みたいな音楽」ではなく、「映画音楽が姿をかえたもの」なのだ。
 シャハムは、この曲でもおおらかにヴァイオリンを響かせて、その楽曲にふさわしい雰囲気を演出してくれる。曲冒頭のヴァイオリンの第一音から、映画の幕が上がるような高揚感があり、シャハムの豊饒でたっぷりしたビブラートがゴージャスなひと時を描く。チェレスタ、ハープ、ヴィブラフォンを含む色彩感豊かなオーケストラが、心地よく全体を盛り上げる。第2楽章は「ロマンス」の名に相応しい雰囲気に満ちている。旋律は濃厚な甘味を湛える。シャハムは万全にこれを表現しながらも、音色の自体の高級感と、締めるべきところは締めるメリハリによって、通俗性を引き出しながらも、音楽芸術に相応しい貴さをキープする。第3楽章は技巧的なパッセージが随所にちりばめられた変奏曲であるが、オーケストラと一体となった盛り上がりは素晴らしい。クライマックスの豪壮な解放感は、ジョン・ウィリアムズ(John Williams 1932-)を思わせる。実際、ジョン・ウィリアムズは、コルンゴルトの魅力を「神がかったメロディのギフト(才能)」と絶賛しており、聴き手は、当演奏を通じて、両者の地続きの音楽性を実感するだろう。
 末尾に収録されているコルンゴルト自身の劇音楽からの編曲も、情緒的、あるいは映像的な旋律の宝庫といってよい。ユーモアに満ちた「グベリーとヴァージェス」、甘美で魅惑的な「間奏曲」、巧妙なビブラートとルバートで、その特徴を最高な形で引き出したシャハムとプレヴィンの演奏は、楽しい限りだ。

チェロ協奏曲 バレエ組曲「メディア」 弦楽のためのアダージョ
オールソップ指揮 ロイヤル・スコテッシュ管弦楽団 vc: ワーナー

レビュー日:2026.7.15
★★★★☆ オールソップによるバーバーの管弦楽作品全集中の第2集
 オールソップ(Marin Alsop 1956-)と、ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団は、1998年から2003年にかけてnaxosレーベルに、バーバー(Samuel Barber 1910-1981)の交響曲、協奏曲、管弦楽曲、バレエ組曲 を網羅した全6枚からなる「管弦楽作品全集」を録音したが、当盤はその「第2集」に当たるもので、以下の楽曲が収録されている。
1-3) チェロ協奏曲 op.22
バレエ組曲「メディア(Medea)」 op.23
 4) 第1曲 パロドス(Parodos)
 5) 第2曲 コロス:メディアとジェイソン(Choros. Medea and Jason)
 6) 第3曲 若き王女:ジェイソン(The Young Princess. Jason)
 7) 第4曲  コロス(Choros)
 8) 第5曲 メディア(Medea)
 9) 第6曲 カンティコス・アゴニアス(Kantikos Agonias)
 10) 第7曲 エクソドス(Exodus)
11) 弦楽のためのアダージョ op.11
 2000年の録音。チェロ協奏曲におけるチェロ独奏は、ウェンディ・ワーナー(Wendy Warner 1972-)。
 バーバーの代名詞ともいえる名曲「弦楽のためのアダージョ」を含む構成。バレエ組曲「メディア」については、バーバー自身の手により、当該組曲の後半部分を中心に再構成された「メディアの瞑想と復讐の踊り(Medea's Meditation and Dance of Vengeance)」op.23aがあって、演奏や録音においてもそちらが優先的に取り上げられるので、前半も含めた組曲全曲としての録音の存在自体に一定の価値がある。なお、オールソップの全集においては、「メディアの瞑想と復讐の踊り」は、第4集に収録されている。
 当盤で最初に配置されているチェロ協奏曲は、繊細で、全体としては陰鬱な雰囲気が強い作品で、第1楽章は緊迫感のある短いオーケストラのフレーズから始まり、それが発展していく過程で独奏チェロが導入される。これも堂々と入るというものではなく、全体のうちの一つの機能を独奏チェロが担うといった印象である。当盤の演奏は、落ち着いたテンポ設定で、真面目に暗い諸相を反映したフレーズを、刻み込むようなイメージだ。第2楽章は哀歌とされる。オーボエにも重要な役割があたえられ、チェロとともに情感を高めていく。この楽章が音楽としても感覚的に分かりやすいところとなる。第3楽章は細かいフレーズをつなげる第1楽章に近い手法で、終結近くでは第1楽章の主題が回顧されるという王道的な展開を示すが、全般にダークなイメージが濃く、ワーナーとオールソップの演奏も、そのイメージに忠実な響きを引き出している。誠実な演奏だが、聴いていると、楽曲の渋みが増したように感じられ、表現される感情のパレットが、モノクロームに過ぎる印象も持った。
 バレエ組曲「メディア」は、同名のギリシャ悲劇を題材としており、夫ジェイソンに裏切られた王女メディアが、嫉妬と狂気に狂い、我が子を殺害して復讐を果たすという凄惨なストーリーが描かれる。この楽曲は、保守的な作風が目立つバーバーの作品の中にあって、近代的な書法を適用させた音色が特徴。後の再構成版ではカットされた部分が多い前半部分には、印象派を思わせる色彩が随所に見られ、特に第3曲「若き王女:ジェイソン」にそれが顕著に現れる。
 後半は、嫉妬の暴発を描いており、音楽も野蛮さを見せる。ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky 1882-1971)を強く思わせる音色も盛んに使用される。特に面白いのが第5曲の「メディア」で、ピアノや打楽器のリズム音を組み合わせて、モダンな音響美とドラマティックな白熱が見事に描かれる。オールソップの演奏は、組曲の前半、後半の特徴に蔵したアプローチで、巧みにオーケストラをまとめており、コントラストの効いたメリハリのある構成が導かれている。
 アルバムの末尾に収められた有名曲「弦楽のためのアダージョ」は、「プラトーン」などの映画でも使用されて、その哀悼を思わせる旋律は広く愛聴されている。私は、イ・ムジチ合奏団による1985年の録音をかつてよく聴いた。オールソップの演奏は、それに比べると、淡々とした辛口の味わい、といったところだろうか。感情をたっぷりと込めるのではなく、旋律の重なりにより生み出される美しい合奏音を、自然に響かせ、無理に劇性を高めたリせず、終結に向かう。全集中の録音としての普遍性のある解釈だと思う。
 いずれも良演であり、録音も安定した品質となっているが、チェロ協奏曲という作品はどうしても渋い面が強く、アルバム全体としても、もう一つ、旋律的な魅力が高まれば、と思ってしまうところが残った。


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