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バントック



交響曲

ケルト交響曲 アトラス山の魔女 海の略奪者 ヘブリディーン交響曲
ハンドリー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

レビュー日:2021.1.22
★★★★★ イギリスの作曲家、バントックの代表作を聴けるアルバム
 ヴァーノン・ハンドリー(Vernon Handley 1930-2008)指揮、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による、イギリスの国民楽派の一翼をになった作曲家グランヴィル・バントック(Granville Bantock 1868-1946)の管弦楽作品集。収録曲は以下の通り。
1) ケルト交響曲 ~弦楽オーケストラと6台のハープのための
2) アトラス山の魔女 ~オーケストラのための音詩 第5番
3) 海の略奪者 ~ヘブリディーン海詩 第2番
4) ヘブリディーン交響曲 
 1990年の録音。
 20世紀初頭、ウィーンを中心に無調や十二音技法を中心とした新しい音楽書法の試みが盛んにおこなわれた時代にあって、イギリスは大陸の動向と隔絶したように、保守的な作風が保たれるが、バントックはまさにそんなイギリス的作曲家の一人だろう。古典的で平明なオーケストレーションで、古典的な調性感をバックとした音響を保って作品を書いた。
 当盤には彼の代表作と言える「ケルト交響曲」「ヘブリディーン交響曲」が収録されている。
 馴染みやすいのは「ケルト交響曲」だろう。文字通りケルト民謡の旋律を素材にしている。その引用の仕方も直接的だ。ちょっと話が飛ぶかもしれないが、映画監督ピーター・ジャクソン(Peter Jackson 1961-)による映画「ザ・ロード・オブ・ザ・リングス」で、音楽を担当したハワード・ショア(Howard Shore 1946-)が、共通のケルト民謡を素材としていて、ケルト交響曲を聴いていると、前述の映画のホビット庄(映画の舞台。主人公の故郷である美しい丘陵地帯の村)のテーマがたびたび聴こえてくる。イギリスの作曲家たちの民謡の引用は、ヴォーン・ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams 1872-1958)の作品に象徴されるように、直接的で、素材の旋律美をそのままインストールする。この交響曲も、その点で、たいへん聴き易く、分かりやすい。また、弦楽7部と6台のハープという編成がたいへん特徴的であり、音響も相応に面白味があって楽しい。
 ただ、この作曲家の作品は、美しいが、構成感に基づく抑揚と言う点では、いまひとつ力の足りない感も否めない。アトラス山の魔女やヘブリディーン交響曲では、激しい部分もあり、ハンドリーは共感のこもった響きを導き出しているが、楽曲全体を通して一つの印象としてまとまりにくいという弱点も感じられる。ヘブリディーン交響曲は30分を越える大作で、しかも単一楽章なので、美しい個所、幻想的な個所がある一方で、聴き手の集中力の持続には、ややハードルの高いものを感じる。とはいえ、ハンドリーの指揮はさすがにツボを押さえた感があり、第3部の金管など、得難い魅力を感じる部分であり、貴重だ。ちなみに、「ヘブリディーズ諸島」は、メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn 1809-1847)が、「フィンガルの洞窟」で描写したとされる場所であり、そう思って聴くと、北国の海岸風景の描写のようにも感じられる。
 「海の略奪者」は、3分ちょっとも短い楽曲だが、元来はヘブリディーン交響曲の一部をなす構想に基づいて書かれ、のちに分離された経緯があるらしい。当盤であわせて聴けるのは参考になる。
 以上、作品に弱点があることは否定しないが、決して録音が多い作品ではなく、しかも聴いてみるとなかなか魅力があり、かつ演奏に優れたものが感じられることと併せて考えると、十分に推薦の価値のあるアルバムだろ思う。


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