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バツェヴィチ



器楽曲

ピアノ・ソナタ 第1番 第2番 演奏会用クラコヴィアク 10の演奏会用練習曲 2つの音符による2つの練習曲
p: ヤブロンスキー

レビュー日:2022.3.11
★★★★★ ヤブロンスキーの圧巻のピアニズムが誘うバツェヴィチの音世界
 ONDINEレーベルから、ペーテル・ヤブロンスキー(Peter Jablonski 1971-)の面白い録音がいろいろリリースされている。前回のスタンチンスキー(Alexei Stanchinsky 1888-1914)のピアノ独奏曲集に続いて、今回は、ポーランドの女性作曲家、グラジナ・バツェヴィチ(Grazyna Bacewicz 1909-1969)のピアノ独奏曲集が登場した。2021年の録音。
 バツェヴィチは、本来カール・フレッシュ(Carl Flesch 1873-1944)門下のヴァイオリニストだ。しかし、名教師であったナディア・ブーランジェ(Nadia Boulanger 1887-1979)に作曲を学び、作曲活動にも取り組む。不幸な事故があったことが、かえって作曲活動の比重を増したこともあり、量的にもかなりの作品を遺すこととなった。驚くのは、自身がヴァイオリニストであったにもかかわらず、相当に技巧的なピアノ独奏曲も多く手掛けたことである。それらの作品は、最近になって、その評価を高める傾向にあるようだ。ツィマーマン(Krystian Zimerman 1956-)も演奏、録音のレパートリーとして取り上げている。
 このヤブロンスキーの録音も、バツェヴィチのピアノ独奏曲の真価を伝える立派な内容となっている。
 バツェヴィチの作品には、クラクフ周辺の民俗音楽の影響があると言う。私にはそこまで聴き分けられないが、10の練習曲は、いかにも20世紀にかかれた練習曲であり、クルターグ(Gyorgy Kurtag 1926-)を思わせるような、パーカッション的なドライヴを感じさせる。楽曲の印象は、プロコフィエフ(Sergei Prokofiev 1891-1953)に近いと感ずる人が多いだろう。10の練習曲の第4曲における音階の無調的でありながら、個性的なリズムと音響の世界を作り上げるあたりに、私はそういった感じを受ける。また、これらの楽曲を「うまく」弾くのは、相当な技術と感性が必要なことも、十分に察せられるが、ヤブロンスキーの能力なら不足はない。さらに豊かな音色を交えて、巧妙に音の伽藍を作り上げており、その様は、なかなか爽快だ。
 このアルバムのメインとなるのは2つのピアノ・ソナタだろう。活気に満ちた楽章と、沈静を感じる楽章の劇的な対比がある。いずれも個性的で、十分な魅力がある。第1番の第2楽章や第2番の第3楽章のように、瞑想的な部分では、シマノフスキ(Karol Szymanowski 1882-1937)を思わせる神秘的な雰囲気に満ちている。第1番の第4楽章の力強い進行や、第2番の第4楽章におけるリズムに卓越した感覚美を示す部分なども聴きどころとして推せるところだし、ヤブロンスキーのパワーと美観を兼ね備えたアプローチが、それらの美点を十全に表現している。
 最近録音点数が少しずつ増えてきているバツェヴィチの作品であるが、当アルバムは、中でも卓越したものと言えると思う。


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