アントニオーニ
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My River(8つの弦楽器のためのバラータ、ヴィオラ、クラリネットと弦楽のための協奏曲「雪解け後、北の光」、弦楽オーケストラのための「影の上で」 イ・ソリスティ・アクイラーニ アントニオーニ指揮 アシュケナージ指揮 cl: ディミトリ・アシュケナージ va: マイニク レビュー日:2024.12.9 |
★★★★★ 現代を代表するイタリアの作曲家、アントニオーニの作品集
イタリアの作曲家、フランチェスコ・アントニオーニ(Francesco Antonioni 1971-)の弦楽を中心とした作品3つを収録したアルバム。イタリアの室内オーケストラ、イ・ソリスティ・アクイラーニ(I Solisti Aquilani)による演奏。収録曲の詳細は以下の通り。 8つの弦楽器のためのバラータ(Ballata for Eight Strings) 1) 第1楽章 Scorrevole 4:12 2) 第2楽章 Dolce e scorrevole 8:10 3) 第3楽章 Un poco mosso 5:51 ヴィオラ、クラリネットと弦楽のための協奏曲「雪解け後、北の光」(Northern Lights, after the Thaw) 4) 第1楽章 モノローグとダイアローグ(Monologe Und Dialoge) 7:14 5) 第2楽章 雪どけと小さな小さな黄金(It Was Thaw And Little By Little Gold) 5:39 6) 第3楽章 愛の歌(Liebeslied) 9:26 7) 第4楽章 わたしの川(My River) 5:01 弦楽オーケストラのための「影の上で」(Sull' ombra) 8) 第1楽章 Allegro non troppo 6:05 9) 第2楽章 Andante inquieto 4:32 10) 第3楽章 Allegro leggero 6:17 2曲目の「雪解け後、北の光」は「雪どけ後のオーロラ」の邦訳もある。 「雪解け後、北の光」は、クラリネット独奏がディミトリ・アシュケナージ(Dmitri Ashkenazy 1969-)、ヴィオラ独奏がアダ・マイニク(Ada Meinich 1980-)、指揮はアシュケナージ(Vladimir Ashkenazy 1937-)で、同じ顔合わせによる初演ののち、2017年に録音されたもの。他の2作品はアントニオーニ自身の指揮により、2021年に録音されたもの。 アントニオーニは英ガーディアン誌によって、“a composer who knows exactly what he wants and how to achieve it”(自分が表現したいものを獲得するためにすべきことを正確に把握している作曲家)と評されている。私がサラッと見た限りでは、彼に関する情報は、それほど多くない感じだが、オーケストラ、声楽、室内楽、電子楽器のための作品を手掛けており、その手法は、現代的なものと古典的なものが融合した音響、ミニマル・ミュージックの影響を受けた力強いリズム進行などが挙げられているが、ここに収められた楽曲を聴くと、それらの手法を組み合わせた情緒性の獲得、また、美しい美観にあふれた音響の構築など、見事なものであり、十分に注目すべき現代の作曲家の一人であると実感する。 彼の作り出す音響は、一種の厳しさと、民俗的ともいえる民謡・舞踏的なものがあり、そういった点で、バルトーク(Bela Bartok 1881-1945)やコダーイ(Kodaly Zoltan 1882-1967)の流れを感じさせる部分がある。例えば、8つの弦楽器のためのバラータの第2楽章における独特の張りつめたテンションの中で繰り広げられるリズムと音色で描かれる色彩に、そういった要素を強く感じる。 一方で、「雪解け後、北の光」には、厳しい諸相の中から紡ぎだされる情緒が、北欧的ともいえる透明な孤独感を帯びており、この作曲家の作風の多様さを感じさせるところだ。この曲の第3楽章では、女声によって、イタリアの詩人パトリツィア・カヴァッリ(Patrizia Cavalli 1947-2022)の詩の朗読が挿入されるが、その音楽的な抑揚との組み合わせは巧妙で面白い。ディミトリ・アシュケナージのクラリネットが、弦楽合奏とよく溶け込んだイントネーションを演出していて、とても秀逸なことも是非指摘しておきたい。この楽曲では、楽器の音色を重ねることで、風景や自然を描写する試みが示されるが、十分な芸術性を感じる成果があり、それを良く示す演奏となっている。 最後に収録されている「影の上で」が、もっともミニマル的な作風に思えるが、それでも決して単調にはならず、深刻な響きから独特の暗示が示されており、示唆に富む抽象性を持っている。また、アルバム全般に渡ってイ・ソリスティ・アクイラーニの合奏音の見事さと録音の優秀さとがあいまって、洗練された聴きやすいサウンドが構築されており、全般に聴き味の良い響きとなっていることは、これらの作品の価値を伝えるうえで、おおきな貢献となっている。 |