アダン
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バレエ音楽「ジゼル」 ボニング指揮 コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団 レビュー日:2026.8.27 |
| ★★★★☆ 古典バレエ音楽「ジゼル」の全体像を明らかにしたボニングの功績
リチャード・ボニング(Richard Bonynge 1930-)指揮、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団の演奏による、アダン(Adolphe Adam 1803-1856)のバレエ音楽「ジゼル(Giselle)」全曲。CD2枚に下記のように収録されている。 【CD1】 第1幕(Act I) 1) 導入曲(Introduction) 2) ぶどう収穫人たちの登場 (Les Vendangeurs) 3) ロイスの登場 (Entree de Loys) 4) ジゼルの登場 (Entree de Giselle) 5) ぶどう収穫人の再来とワルツ (Retour de la vendange et valse) 6) 狩り(La Chasse) 7) ヒラリオンの情景 (Scene d'Hilarion) 8) ぶどう耕作者の行進 (Marche des vignerons) 9) パ・スル (Pas seul) 農民のパ・ド・ドゥ( Pas de deux jeunes paysans) 原曲:ブルグミュラー(Johann Burgmuller 1806-1874) 10) ポラッカ(Polacca) 11) アンダンテ(Andante) 12) ペザンテ(Pesante) 13) アレグレット(Allegretto) 14) アレグロ・ペザンテ(Allegretto pesante) 15) ワルツ ラティスボンヌの思い出(Vallse Souvenir de Ratisbonne) ぶどう収穫人の踊り(Pas des vendanges) 16) アンダンテ(Andante) 17) モデラート(Moderato) 18) ペザンテ(Pesante) 19) アレグロ・アン・プ・ルール(Allegro un peu loure) 20) 全員のギャロップ (Galop general) 21) 第1幕フィナーレと狂乱 (Finale du premier acte et scene de folie) 【CD2】 第2幕(Act II) 1) 導入曲、狩りの休息と鬼火 (Introduction, halte des chasseurs et apparition des feux follets) 2) ミルタの登場と魔法 (Apparitions de Myrthe et evocation magique) 3) 第1ウィリの踊り (Pas des premieres Wilis) 4) ジゼルの出現 (Apparition de Giselle) 5) 村人の登場 (Entree des paysans) 6) 王子の登場とジゼル出現 (Entree du Prince et apparition de Giselle) 7) ヒラリオン、情景とウィリのフーガ (Entree d'Hilarion, scene et fugue des Wilis) グラン・パ・ド・ドゥ(Grand pas de deux) 8) アダージ(Adage) 9) アンダンティーノ(Andantino) 10) アンダンテ(Andante) 11) ワルツ(Valse) 12) フィナーレ (Finale) 13) 日の出と宮廷の到着 (Lever du soleil et arrivee de la cour) 1986年の録音。 アダンが1841年に作曲した「ジゼル」は、かつてはロマンティック・バレエの最高峰とされたが、現代では「ほとんど録音されない」と言ってよい。理由はいくつかあるが、その最大の理由は、アダンの差バレエ音楽は、視覚的な舞踏と音楽が一体となって初めて完成する芸術として設計されたものであり、今日バレエ音楽として高名なその後の作品群と比較したとき、演奏会用のプログラムとしては成立しにくい性格を持っているためだ。単純に音楽作品として捉えた場合、伴奏の和音やリズムが単調に聴こえてしまい、どうしても聴き劣りがしてしまう。 ただ、それでも当時の古典的バレエ音楽がどのようなものであるか、そして、「ジゼル」という音楽作品がどのようなものであるかという知識欲を満たしてくれるものとして、このボニングの録音は、決定的と言ってよいものだと思う。なぜなら、19世紀の古典バレエ音楽を丹念に研究したボニングによる録音は、後世の改訂によって削られたりテンポが変わったりした部分を復元し、学術的な意味で「アダンによるジゼル確定稿の姿」を極めて忠実に再現したものとなっているからだ。 例えば、第1幕の「農民のパ・ド・ドゥ」が全曲収録されている点である。この部分は、初演時に脇役を演じることとなったナタリー・フィッツジャム(Nathalie Fitzjames 1819-?)というダンサーが、パリ・オペラ座の有力なパトロンの愛人という立場を利用して、劇場に自分の見せ場を作るよう要請したことから後で足されたものだ。ただ、話が急だったため、アダンにはゼロから曲を書き起こす時間がない。そこで、当時パリで名を上げていた(現在ではピアノ練習曲で有名な)ブルグミュラーに助を求めたところ、ブルグミュラーはちょうど、ジゼルと舞台が共通する「ラティスボンヌの思い出」というドイツ風のワルツを作曲したところであり、その転用を受けることになったのである。果たして、この部分は、ブルグミュラーのピアノ曲をアダンがオーケストラ編曲することにより生み出され、無事、上演にこぎつけたというわけ。権力を利用して無理な要求をしたフィッツジャムは、結果的にこの一件で、歴史に名を残すことになった。ボニングの研究・録音以前は、この「農民のパ・ド・ドゥ」は、上述の経緯から、カットや、他の曲との差し替えが普通であった。ボニングは当録音(及びモンテカルロ国立歌劇場管弦楽団との1967年の録音)で、その流れを断ち切り、全6曲の組曲からなる「農民のパ・ド・ドゥ」の姿を蘇らせたことになる。 ボニングの録音では、他にも、「パ・スル」におけるレオン・ミンクス(Leon Minkus 1826-1917)が書き足したソロの踊りも加えられているほか、後世の改訂版でカットされたコミカルで緊迫した「農民たちの登場」や呪いのダンスを強制される場面で、印象的なフーガを伴う「ウィリのフーガ」も収録されている。そういうわけで、「録音及び演奏の高い品質」を持ち、かつ「アダンが最終的に確定した全てのスコアが収録された」完全版として、(その後、目立った録音がないこともあるが)このアルバムは当該曲の決定盤といって遜色ない内容を持っていることになる。 ただ、そうは言っても、さすがに現代人の様々な音楽に聴きなじんだリスナーにとって、「ジゼル」という作品自体が、平板さを感じさせる部分は否めず、私も、これを2枚、全曲続けて聴くと、(聴きやすい作品ではあるが)正直、予定調和が繰り返されることに退屈するところはある。 それでも、聴きどころとしては、第1幕の終結部である「狂乱の場」、ここでは、主人公である村娘ジゼルが、信じていた恋人(アルブレヒト)に裏切られていたことを知り、正気を失い、第1幕前半の楽しかったエピソードを表現するライト・モチィーフが悲劇的に色彩を変えて奏でられるのだが、迫力があり、ストーリーに即した切迫感が聴き手に迫る場面だ。また、第2幕の「グラン・パ・ド・ドゥ」は、瀕死のアルブレヒトをジゼルが必死に支えながら踊るクライマックスであり、音楽もそれに併せて美しく描かれている。 ボニングの指揮は、さすがに堂々たる安定感があり、オーケストラのサウンドも申し分ない。「 狩り」や「 パ・スル」における程よい柔らかみと弾力のある響きは、この演奏が最上のものであることを物語る。 |
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